ラーメンの知られざる美肌効果について考えてみました(写真:East & West/PIXTA)

肌の「うるおい」「透明感」とは何か?どうして何種類も液体をつけるのか?――。

こうしたスキンケアの疑問に、独自の高級化粧品を研究・開発してきた尾池哲郎氏が新著『美容の科学』で科学の視点から答えています。

本稿では、同書より一部を抜粋しお届けします。

キメを支える膨張力

自然界では新鮮なフルーツの皮などにも整ったキメが見られますが、もっともよく目にするのは新しいシーツ、印刷用紙といった工業用品のキメです。工業用品は均質な原材料で高速に量産するため、均質性が現れやすくなります。

そのように考えていたとき、ふと、量産品なのにキメが整っていないものがあることに気が付きました。それは、おもちゃの風船です。店頭で買う風船は袋の中ではしぼんでいます。その表面はなんだかごわごわしていてキメが整っているとは言えません。しかし膨らませると、とたんに、きれいなキメの整った肌が現れます。これは購入時の風船がもっとも縮んだ状態であるため、均質性が見えにくくなっているからです。膨らませると、もともとの均質性が分かりやすくなります。

これは人の肌にも同じことが言えます。生まれたばかりの赤ちゃんの肌や若いころの肌は、肌の内部に十分な水分やコラーゲンといった成分が整っているため、ちょうど風船がほどよく膨らんだ時と同じ状態になっています。しかし肌内部がしぼんでしまうと、均質性をまだ有しているにもかかわらず、キメが分かりにくくなってしまいます。これを肌の「菲薄化(ひはくか)」と呼びます。

肌のキメと風船の関係はとても興味深く、キメがけっして肌表面だけの問題ではなく、肌内部の圧力(肌の内圧)が直接的にかかわっていることが分かります。そこで肌内部を膨らませるために水分やコラーゲン、セラミドといった保湿成分が欲しくなります。

キメとラーメンに見る最先端美容

コラーゲンたっぷりな料理はいくつかありますが、とんこつラーメンもコラーゲン豊富なメニューとして紹介されることがあります。しかしここで、学者の間でよく言われる「コラーゲンの不都合な真実」があります。それは、ラーメンなどに含まれているコラーゲンが、そのまま肌のコラーゲンになるわけではない、という事実です。

人の栄養の吸収は鉄壁のバリヤーで守られています。食べたラーメンのスープに含まれるコラーゲンや脂質は、唾液の酵素や、胃酸によって次々と分解され、アミノ酸や低分子の脂肪にまで分解されてからようやく腸壁から吸収されます。そこにはコラーゲンのような巨大な分子がそのまま体内に吸収されるようなルートはありません。もしそのような大きな穴(欠陥)がどこかにあれば、ウイルスも侵入してきます。

そのため、ラーメンを食べることが肌内部のコラーゲンを直接的に増やすわけではありません。しかし、少なくともコラーゲンになる材料は手に入れているのではないか、と思いますが、それでも即効性のあるものではありません。

ところが、ラーメンを食べた直後は、男性の私でさえ気が付くほどの即効性の美肌効果があります。ラーメンを食べ終わった後、顔の肌がなんだかつややかになり、保湿されたかのようにしっとりとなり、血色よく弾力を持った肌になっています。コラーゲンを吸収しているわけではないのに、一体なぜでしょうか。

箸を置いてしばらく考えましたが、おそらくはラーメンを食べる際に、ラーメンの熱いスープに顔を近づけていることが第1の原因です。

スープから立つ湯気には、水分の他に、油分も混ざっています。これを「ヒューム(蒸気)」と呼びます。「油煙」「オイルミスト」とも呼びますが、湯気には脂分が含まれ、厨房ではそれがフードや壁に付着するため、様々な対策器具があります。

このオイルヒュームは肌表面に均等に付着しますので、そこに均質的なツヤとテカリが生まれます。水分だけでは蒸発しやすいためツヤは保持しにくく、油分だけではテカリのムラになりやすいですが、オイルヒュームは微細なナノ粒子として肌に均質に付着するため、理想的なリキッドファンデーションになる条件がそろっています。

2つ目の理由は…

さらに第2の理由として、熱い湯気によって肌が温められ、サウナ効果によって新陳代謝が促進され、血液の循環も活発になり、肌に栄養と水分が送り込まれ、適度な膨張を生みます。


冒頭の風船効果(肌の内圧)によるキメの発現と、ラーメンの湯気によるリキッドファンデーションの合わせ技による理想的なエステ効果を食事時間中に生み出しています。とんこつに含まれる理想的な脂分が生み出す効果です。

こうした効果は、キメ細やかな肌には肌内部への十分な栄養成分の補給による内圧が必要であり、水分と油分がバランスよく調合されたスキンケア、そして活発な血液の循環が欠かせないことを示しています。

一般的なキメを整える化粧品には、古い角質を落とす成分(たんぱく質を解かす酸や、研磨剤など)と、ターンオーバーを促す栄養成分(ビタミン類やアミノ酸)が含まれています。古い角質を落として、栄養成分を送り、新しい肌を作ることでキメを整えようとするものです。しかし今回触れた肌の内圧が不足していると、一時的に肌に血流を送ったところで、しばらくするとまた肌がしぼみ、皮溝や毛穴が目立つようになり、元のくすんだ肌に戻ってしまいます。肌だけを太らせることはとても難しいですが、少なくとも過度なダイエットは避け、肌の内圧を維持することがキメには重要です。

(尾池 哲郎 : 化学系ベンチャー・FILTOM研究所長)