消費者が出費を抑制してくれたおかげで、多くのラグジュアリーブランドはかなり好調な時期を過ごしている。そのうちのリセール企業2社はより手頃な価格の商品を提供するブランドや小売企業に水をあけられるどころか、節約重視の買い物客にアピールすることを目的とした取り組みに新たに投資している。今回はリバッグ(Rebag)の新しいメンバーシッププログラム「Rebag+」や、ヴェスティエール・コレクティブ(Vestiaire Collective)の費用対効果を重視した新たなマーケティングキャンペーンを紹介する。

リバッグの新メンバーシッププログラムでバーキンも予算内に



リバッグ創業者兼CEOのチャールズ・ゴーラ氏によると、ラグジュアリー商品のリセール企業であるリバッグは顧客が商品購入時にまとめて決済できるようにする新メンバーシッププログラムによって、アファーム(Affirm)やクラーナ(Klarna)、また従来のクレジットカード会社とは正反対のアプローチを取っているという。

「これは、『今買って、後で払う』ではない。『今投資して、後で買う』だ」とゴーラ氏は話す。「1000ドル(約15万円)のバッグをカード払いにして、最終的に20%増の1200ドル(約18万円)を支払うのではない。もし顧客がルールに則って計画的に行動しさえすれば、リバッグ側が20%を支払う。つまりその結果、支払額は800ドル(約12万円)になるのだ」。

「Rebag+」と名付けられたこのプログラムは、会員が毎月50ドル(約7500円)もしくは500ドル(約7万5000円)を「R+ Credit」の口座に積み立てて、将来のリバッグ購入に備えるというシステムだ。各会員の毎月の積立金に加えて、リバッグは2%分のクレジット加算を行うため、会員の年間積立額は最大27%増となる。さらにRebag+の会員には、最大10%の割引や年に一度のプロモーション(追加10%割引と買取価格の5%アップ)などの特典が提供される。そのほかにも、新商品やセールへの会員限定アクセス、購入品の送料や返品の無料サービスなどが用意されている。また会員は、いつでも月々の積立のスキップや積立金の引き出し、退会が可能だ。

ゴーラ氏によると創業10年のリバッグは活発で熱心なコミュニティを構築しており、高度なロイヤルティプログラムが展開できるにふさわしい規模に達しているという。顧客の維持率向上と購買パターンの構築がRebag+の主な狙いだ。

「これはリバッグにとって非常に大きな投資だが、顧客から大きな売り上げシェアを獲得したいのだ。このやり方はうまくいくと確信している」と同氏は語った。この新たなプログラムを展開するための人員の追加採用はなかった。

それに伴い、リバッグの既存メンバーシッププログラムである「Rebag Rewards」は廃止予定だ。リバッグの全顧客対象の無料優待プログラムだったこのプログラムでは、購入で獲得したポイントに応じて段階的な特典を用意していた。

スターバックスを我慢すればルイヴィトンが手に入る?



Rebag+が顧客にどのような利益をもたらすかについてのゴーラ氏の説明は、女子たちが自身の購買行動を正当化させるための都合のいい方程式「ガールマス(Girl Math)」という造語から生まれたTikTok動画を想起させる。しかしゴーラ氏はこれを「スマートマス(Smart Math)」と呼ぶ。「リバッグの入門的な購入金額は500ドルから600ドル(約7万5000円〜9万円)だが、それでもほとんどの人にとって高額だ」と同氏は分析する。「しかし月額50ドル(約7500円)なら、その10分の1にすぎない。週に換算すれば12ドル(約1800円)、スターバックス(Starbucks)でカプチーノやフラペチーノを2、3杯飲むのと同じだ。それらを我慢すれば、ルイヴィトン(Louis Vuitton)が手に入る」。

リバッグの顧客のなかでもたとえばセリーヌ(Celine)やシャネル(Chanel)のバッグを毎年購入している人たちは、エルメス(Hermès)のバーキンを購入するために節約できるタイプだとゴーラ氏は見込んでいる。さらにルイヴィトンの商品を買い慣れている人は、R+ Creditを活用してシャネルに買い替えるだろう。なお同社によると、リバッグの平均注文額は2000ドル(約30万円)である。

「現在我々が暮らしている世界ではインフレが進み、あらゆるものが高価になっていることは理解している。クレジットカードで1回に2000ドルから3000ドル(約30万円から45万円)も支払うのは、近年ではさらにハードルが高くなっている。この方法ならばそんなことをする必要はない」。

新たなメンバーシッププログラムの詳細は、特に顧客アンケートやインタビューなどの調査テストで決定した。Rebag+プログラムは今後も会員活動を基盤に進化していくだろうとゴーラ氏はみている。

「D2C企業は新規顧客獲得による成長を重視する傾向がある。しかしリバッグにとっての次世代型成長とは、これまでに構築した関係を活用することにある。同社はこれからも熱心にリバッグとの旅を続けたいと切望している顧客に働きかけ、そうした顧客を特に大切にし、それに見合った報酬を与えたいと考えている」。

Rebag+のメンバーシップモデルとその利点



「スマートマス」のほかにもゴーラ氏はさまざまな比較やフレーズを使ってRebag+の特徴を説明した。そのうちのひとつが、車購入と「逆予約販売(reverse layaway)」だ。家具やインテリアを取り扱うレストレーションハードウェア(Restoration Hardware)のメンバーシップモデルのように、今後リバッグで販売される商品には会員価格と非会員価格が用意される。また動画配信プラットフォームのNetflixのように「1カ月間視聴できなくても、無意味に料金を払わなければならない」というモデルとは違い、リバッグのこのプログラムへの参加費は一切かからないとゴーラ氏は話す。

リバッグではこれまで収益源や機能を試験的に導入し、さらにはテクノロジーのイノベーションも積極的に活用してきた実績がある。同社の価格設定AIツール「クレア(Clair)」はその証といえる。2022年には継続はしなかったもののオンサイトオークションをローンチした。同年には「Rebag Wallet」も導入し、出品者がそのプラットフォームで稼いだ収益をリバッグで消費してもらうことを狙った。そして2023年後半には委託販売モデルを導入し、これは現在も「ビジネスにおける相当な割合」を牽引しているとゴーラ氏は説明した。委託販売をはじめるまで、リバッグは販売している商品を買い取るだけだった。同社売上の70%から75%はハンドバッグが占めており、残りのほとんどがジュエリーと腕時計である。

ほかのリセール企業が小規模業者を買収したり新たな企業が市場に参入したりするなかで、リバッグは競争激化に直面している。さらにゴーラ氏が指摘するように、成長を目的とした資本調達がこれまで以上に難しくなっている。同社は現在まで1億300万ドル(約155億円)を調達してきたが、「企業を経済主体として継続させるには、より大きな資産基盤が必要だ」と同氏は話す。「ありがたいことに我々は現在、この市場で大手に数えられる企業だ。今後この市場は間違いなく自然淘汰が進むだろう」。

同氏はRebag+に関して、サイトにおける会員価格が買い物客の関心の向上につながると期待している。またソーシャルメディアやインフルエンサーによる投稿、rebag.comのランディングページでリバッグはこのプログラムのメリットを説明している。一方でeメールや1対1のやりとりは、上位顧客に最新情報を提供する役割を果たしている。マーケティングで利用するメッセージングは、主に目標商品を獲得するための「節約」というコンセプトと、どのようなメンバーシップがさまざまなタイプの顧客に最も適しているのかを見極めるためのバックトラッキングが中心となっている。

「我々は顧客を投資家に変えようとしている。これは単なる消費ではなく、資産の構築なのだ」。

ファストファッション vs リセール:ヴェスティエール・コレクティブの「swap this for that(あれとこれを交換)」キャンペーン



4月22日のアースデイ(Earth Day)に合わせてラグジュアリーリセール企業のヴェスティエール・コレクティブは、循環性に対する自社の取り組みと過剰消費という世間で広く取り上げられている問題に注目した年次報告書「サーキュラリティ・レポート(Circularity Report)」を発表した。2024年度の報告書では着用単価というコンセプトに焦点を当て、自社のリサーチ結果を駆使しながら、「ファストファッションはリセール品よりも価格が手ごろだ」という一般常識を論破しようとしている。

同社は環境の影響に特化したソフトウェア企業のバーユ(Vaayu)と協働し、5つの市場で1万3000人以上の買い物客を対象に購買行動に関する調査を実施した。調査の結果、消費者はファストファッションの購入品よりもリセール品をはるかに高い頻度で着用していることがわかった。これはつまり、リセール品の方が着用単価が低いことを意味する。たとえばリセールで購入したドレスはファストファッションの小売店で購入したドレスの約8倍は着用されており、着用単価に換算するとリセールは平均1.72ドル(約260円)、ファストファッションは4.82ドル(約720円)にあたるという。

この報告書を受けて、ヴェスティエール・コレクティブはコスト面に焦点をあてたマーケティングキャンペーンを展開し、消費者に「あの」ファストファッション商品を、似たようなスタイルの「この」リセール品に「交換」するよう提案した。

さらに2023年11月に同社は、自社P2Pショッピングプラットフォーム上でH&MやZARA(ザラ)をはじめとする30のファストファッションブランド商品の販売を禁止した。

ヴェスティエール・コレクティブのチーフインパクトオフィサーを務めるドゥーニア・ヴォン氏は、「幼い頃に父が『あまりにも貧乏だから安くて質の悪い服さえ買えやしない』とよく話していた」と語った。「ファストファッションにまつわる議論は常に、より多くのものを手に入れることにあり、安ければ安いほど人々はお金を使う可能性が高くなるというものだ。しかし我々の調査が明らかにしたように、中古品のほうが投資先として優れている」。

また同氏は「ソーシャルメディアには『ガールマス』について取り上げ、それは真実だと話している人たちがいるが、それを信じるには証明が必要だった。我々は現在ZARAを購入している人が明日にでもエルメスのバッグを買うと言っているのではない。ファストファッションにかけるお金が増える代わりに、中古市場で代案品を見つけることができると言っているのだ」と付け加えた。

今後は「サステナビリティ」がカギに



顧客がヴェスティエール・コレクティブで買い物をする一番の理由は、サステナビリティよりもむしろ手ごろな価格、次いで信頼にあるとヴォン氏は自社データを引用しながら指摘した。とはいえ、サステナビリティが年を追うごとに重要な要素になっているのも事実だ。「顧客は、経済的にも地球にとっても、そしてサプライチェーンに関わる人々にとっても、よい消費の方法が絶対に何かあると気づきはじめている」。

ヴェスティエール・コレクティブはこれまでも販売商品のリセール価格と小売価格を比較してきた。しかし価格に関係なく、高品質の商品を購入した人は、その商品を丁寧に扱いリセールに出す傾向にあると同氏は言う。

今後の動きとしてヴェスティエール・コレクティブは独自のロイヤルティプログラムを展開し、会員がリセールで稼いだお金を「財布」に追加し、そこから寄付したり、家具などのヴェスティエール・コレクティブで販売していないものにも投資したりできるようにしたいと考えている。「どんな業界であれ人々が循環性を受け入れるようになれば、生活のほかの部分においても循環型消費を検討するようになる可能性が高い」。

まもなくフランスではファストファッション禁止法が施行されるが、ZARAなど同法の影響を受ける可能性のあるブランドが値上げをはじめているとヴォン氏は指摘した。たとえば同氏は最近、ZARAのジャケットが700ドル(約10万5000円)で販売されているのを見かけたという。

「サプライチェーンを変えたり、生産ペースを遅らせたり、労働者の賃金を上げたり、より高品質な商品を生産したりしない限り、価格を上げたところで意味がない。しかしもしブランド自らが変わるならば、もちろん我々ヴェスティエール・コレクティブは、そうしたブランドをこのプラットフォームにまた迎え入れるつもりだ」。

[原文:Fashion Briefing: For resale companies, luxury spending dips - and girl math - are inspiring new price-focused initiatives]

JILL MANOFF(翻訳:SI Japan、編集:都築成果)