ニュウニュウ  (c) Paul Tsang

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アーティストのヴィジョン実現に向けてサポートを行うイープラスの「エージェントビジネス」。角野隼斗や亀井聖矢(ピアノ)、上野耕平(サックス)ら若手アーティストが名を連ねるが、2024年6月、ピアニストのニュウニュウが新たにエージェント契約を結んだことを発表した。

6歳でコンサートデビュー、11歳で初来日しサントリーホールでの公演を果たして以来、日本を含む世界各地でワールドワイドな活躍を続けるニュウニュウ。20年以上にわたり第一線でステージに立ち続け、作曲家として、そしてプロデューサーとしても踏み出しつつある彼が、なぜ今イープラスとパートナーシップを結ぶのか。これまでの歩みとヴィジョンを聞いた。

――6歳でコンサートデビュー、9歳でCDデビューと、“神童”と呼ばれた頃から今まで長い演奏活動を続けていらっしゃいます。改めてデビューから今までを振り返って、どう感じますか?

私はもう20年以上ステージに立ち続けていますが、“神童”、“天才”と呼ばれたことは、自分自身を越え続けるモチベーションと励ましを与えてくれました。

歳を重ね、演奏経験、人生の物語の経験が増えたことで、作品に対する理解が深まり、より個人的で感情を込めた演奏ができるようになったと思います。またピアニストとして在りたい姿も見えてきて、より強いカリスマ性のある魅力的なパフォーマンスを追求するようになりました。若い世代として、『ピアノの森』のようなクロスオーバープロジェクトにも挑戦しています。

ターニングポイントをひとつとなったのは、2020年から作曲家としての活動を開始したことです。アルバム『Fate & Hope』(2021)と『Lifetime』(2023)に、2曲のオリジナル作品(「Hope」「Miss」)を収録していますが、作曲することで数百年前の作曲家たちの心に近づき、彼らの作品をより深く理解できるようになったと感じます。

Niu Niu Zhang Shengliang: Impromptu n. 2: "Miss"

一方でずっと変わらないのは、音楽に対する情熱、「音楽を通して愛と希望を伝えたい」という想いです。6歳のデビューコンサートでも、チケットの売り上げを家庭環境が厳しい子供たちに寄付し、彼らが音楽を学べるような支援をしましたし、最新アルバム『Lifetime』では、「Amazing Grace」を、平和を表現するアレンジでみなさまにお届けしました。平和は今、一番大切なものです。多くのファンや友人がこの「Amazing Grace」にとくに感動したと言ってくれて嬉しかったです。

――音楽家としてのご自身を支えているポリシーはありますか?

「努力に勝る天才なし」、「人生を精一杯生きる」。そして私が尊敬する音楽家、ヨーヨー・マさんがあるインタビューで語っていた、「音楽は何かを証明するものではなく、何かを共有するものだ」という言葉です。お客様と一緒に忘れられない思い出を作ることが一番大切だと思っています。

――今回、イープラスとエージェント契約をされましたが、これからの活動にどんな期待がありますか?

イープラスさんとは、『ピアノの森』プロジェクトからご一緒するようになりました。彼らは日本の大きなチケット販売プラットフォームであるのに加えて、とても強力なマーケティングチームを備えています。オープンマインドで新しいことに挑戦する方たちですし、一緒に仕事をしていると家族のような雰囲気も感じます。

さらにイープラスの契約アーティストには、角野隼斗さんをはじめ、個性的な若いミュージシャンがたくさんいます。今後、彼らとクラシックやクロスオーバーのプロジェクトでご一緒できたらと期待しています。同世代のアーティストとのコラボレーションは、イマジネーションを刺激してくれるでしょう。

――イープラスとの新しいプロジェクトとして、具体的な計画はありますか?

2023年にリリースしたアルバム『Lifetime』の収録曲を演奏するリサイタルツアーを計画中です。これは、世界中の17人の作曲家による小品を通して、人生における17の異なる感情や旅路を表現するプログラムです。伝統的なクラシックの作品だけでなく、私がアレンジした「Amazing Grace」や坂本龍一さんの「エナジーフロー」など、みなさんがよく知っている曲も多く含まれています。それぞれの思い出とリンクする曲がたくさんあるでしょう。すでにイタリアや中国でこのプログラムを披露しましたが、若い方たちを中心に、みなさんとても気に入ってくれました。

――クラシックのピアニストとしてデビューして、今は幅広いジャンルの曲を取り上げられています。音楽のジャンルというものについてはどんな考えがありますか?

ジャンルが分かれていると考えたことはありません。区別があるとしたら、“きれいな音楽”と“きれいでない音楽”ですね(笑)。

私がプログラムを決めるとき念頭に置くのは、お客様にとって聴きやすい有名な作品を優先的に取り入れること。曲が有名になるには、やはり理由があります。私のコンサートは、クラシックに明るくない方でも楽しんでいただけると思います。

――逆に、あまり有名でない作品やヘビーな作品に取り組んでみたい衝動に駆られることはありませんか?

バッハの「ゴルドベルク変奏曲」のような作品ですか?(笑) 確かに、将来の計画として取り組んでみたいものはありますよ。直近では、来年(2025)、香港フィルとチャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番という、あまり演奏されないけれどすばらしい作品を演奏する機会があります。もっと多く取り上げられるべき作品ですよね。

――今後、社会のなかでこうありたいという考えはありますか?

「音楽を通して愛を伝えたい」という想いから、若い才能あるミュージシャンを見つけたらコラボレーションしたり、自分のコンサートでフィーチャーしたりという形で世の中に紹介したいです。

先日は中国のテレビ番組で、10歳くらいの天才ピアニスト3人を招いて紹介しましたし、8月には香港のテレビ番組で大変才能のある自閉症の若いピアニストと4手連弾をする予定です。それから、「We Are the World」のような曲を製作するプロジェクトもあります。未来への大切な希望である子どもたちのために、活動を続けていきたいです。

――ニュウニュウさんご自身は、子供時代はどんなお子さんでしたか? 20年以上ステージに立ち続けていると仰っていましたが、どのような気持ちで演奏活動をされていたのでしょう。

私もみんなのように遊びたいといつも思っていましたよ!(笑)天才と呼ばれ、才能を持っていても、ピアノ以外の部分は普通の子供と一緒です。

私のプロフィールには、3歳の時に突然ピアノの前に座って弾き始めたとあります。それだけ聞けば魔法のような出来事ですが、実際には、母が、私がお腹の中にいた頃からずっとモーツァルトを聴いていたこと、父がピアノの先生で、レッスンをしている横でずっと遊んでいたことの影響も大きいと思います。才能をどう見つけ、どう育てるかは重要です。

私自身、子供の頃からいろいろな先輩の応援をうけてきました。例えば8歳の頃、ラン・ランさんと4手連弾をする機会がありましたが、彼はとても謙虚な姿勢で接してくださり、「ニュウニュウはすばらしいピアニストだ」と言ってくれて感動しました。私も次世代にそのようなことがしたい。

長い音楽史の中、ベートーヴェンの時代にも、似通ったエピソードがありますよね。ベートーヴェンがまだ子供だったリストの演奏を聴いておでこにキスしたことを、リストが一生誇りに思っていた、と。私もそんなふうにレガシーを受け継ぐ存在でありたいのです。

――これから新たに取り組みたいことはありますか?

先日、香港で行ったフルートのCocomiさんとのデュオ・コンサートでは、8歳の子供2人が中国語とフランス語で詩歌を朗読して、私が中国とフランスの音楽を演奏する企画をプロデュースしました。そういうプロデューサー的な役割にも興味があります。また、将来的には指揮もできるようになりたいです。

多様性のある活動ができるアーティストとして、クラシック音楽をもっとファッショナブルにしたいと思っています。

――ファッショナブルな音楽家としての活動を広げるために取り組んでいること、気をつけていることはありますか?

まずは僕自身が、ピアニストとしてアイドルのような存在でありたいと思っています。アイドル性を持つピアニストを目指すというとみなさん驚きますけれど、リストは200年前、アイドルのような存在でしたよね。客席にハンカチを投げたら女性ファンが熱狂したというようなエピソードがたくさんあります。決して新しい話ではないんです。

スタイルと健康を保つため、睡眠をしっかりとって、規則正しい生活を送ることは心がけています。あとはピアノだけでなく、歌やダンスも勉強していて、いつかこれらを融合させた活動がしたいです。

特に歌については、以前からエルトン・ジョンのような音楽家に憧れているので、近い将来、歌いながら弾くということができたらと思っています。もちろん簡単なことではないので、ちゃんと準備しなくてはいけません。ダンスはまだ、体のエクササイズやリラックスのために習っている段階ですが、実際のところ、演奏中の身体的な連携や表現力の向上には役立っています。ダンスを始めてから、ステージ上でのカリスマ性を持った動きが磨かれたように思います。

――最後に、日本のファンのみなさまにメッセージをお願いします。

日本では、リサイタルやコンチェルトのツアーを計画しています。会場でお会いできることを楽しみにしています!

Liszt: William Tell Overture, S. 552 (after G. Rossini) - IV. Finale. Allegro vivace

取材・文=高坂はる香