この記事をまとめると

■レクサスの「ラグジュアリームーバー」となる2代目LMに試乗した

■海外ではアルファードからLMに乗り換えるオーナーが目立っている

■レクサスらしい作り込みが随所に感じられる1台だ

アジア圏ではLMがとにかく大人気!

 先日レクサスブランドの「ラグジュアリームーバー」となる「LM」に試乗する機会を得た。今回日本国内に登場したLMは世界市場的には2代目となる。初代は2019年に開催された上海モーターショーでワールドプレミア(世界初公開)され、2020年に中国を皮切りに世界各国で発売された。

 筆者は試乗する直前にタイの首都バンコクを訪れていたのだが、市内では先代LMに交じり、すでに多数の2代目LMを見かけることができた。その勢いを見ていると、かなりの人気な様子だ。そもそもタイは東南アジアのなかでも、筆者が見てきた限りでは香港と並ぶかそれ以上にトヨタ・アルファードの人気が高かった。2000万円に迫る販売価格からも、主要ユーザーは桁違いの地元富裕層がメインとなっている。

 所有するオーナー自らがステアリングを握るというケースもあるだろうが、多くは運転手付きで後席にオーナーが乗る、「ショーファードリブン」として使用されていることが多いと聞いている。そのなかでタイでも初代LMがデビューすると、アルファードからLMへ移行する人が目立ち、2代目デビューでそれがさらに先鋭化しているものと考えられる。

 2代目LMは初代に比べると、さらにある意味押しの強い顔つきになっている。しかし、アルファードにインスパイアされた中国メーカーがラインアップする、「アルファード的ミニバン」に比べるとギラギラとした「しつこい」高級イメージや押しの強さが抑え込まれており、嫌味を感じさせない。

 アルファードでは最上級グレードとなる「エグゼクティブラウンジ」でも3列7名乗車となるが、試乗したLMでは乗車定員は4名となり(6名乗車が5月9日に追加されているが、試乗時は4名乗車仕様のみであった)、前席と後席の間にはハリウッド映画などで出てくる「ストレッチリムジン」のような、開閉可能な窓のついた「壁」があり、LM自体が「ファミリーミニバン」ではなく、「ショーファードリブンカー」であることを物語っている。

新型のLMはレクサスらしさ溢れる1台

 運転席に座るためにドアを開けるが、電気式のドア開閉システムで重厚な音ともにドアが開く。シフトをDレンジに入れ走りだすとその乗り味に驚かされた。まず静粛性の高さはいまさら語る必要はないとは思うが、静粛性のなかに心地よいエンジン音が車内に入ってくる。搭載される2.4リッターターボエンジンベースのハイブリッドユニットはV型エンジンのようなスムースな加速を見せる。組み合わされる6速ATとのマッチングもいいのが伝わってくる。少しアクセルを踏んで加速させるが、とにかく車体の揺れを感じさせない。減速するためにブレーキを踏んでも「前のめり」はほぼ感じなかった。これはブレーキシステムを前後独立油圧制御式としていることが大きいようだ。

 ショーファードリブンカーでもあるので、「操る楽しさ」というよりは、「後席乗員の快適性」をより重視しているのはすぐに伝わってくるし、「これが2000万円のクルマなのだ」と納得させてくれるクルマという印象で試乗を終えた。

 搭載される2.4リッターターボエンジンベースのハイブリッドユニットは、過去にはレクサスRX500hで試乗した経験がある。そのときは、アメリカンブランドでV型エンジンを搭載するクロスオーバーSUVといった印象を強く受け、「ハイブリッド=省燃費」というよりは、「ハイブリッド=モーターでアシスト」という印象を強く受けるほど、そのやんちゃな走りによって運転して楽しかった印象がいまも鮮明に残っている。同じエンジンを搭載しているものの、カテゴリーやキャラクター、ターゲットが異なるということもあり、まったく異なった印象に仕上げられている。

 あくまで筆者の私見であるが、日本国内でレクサスブランド車の正規販売が始まったころは、はっきりいってトヨタブランド車との「差」というものが、はっきりしていなかった。当時はいまほどブランド自体も「エモーショナル路線」ではなく、「優等生的なプレミアムブランド」といった印象が強かったが、ここ最近はモデルラインアップが増えていくなかで、同じブランドであっても、さまざまなキャラクターのモデルを用意し、多様なニーズに対応している印象を強く受けている。

 レクサスLXを試乗するときも、その前にランドクルーザー300を試乗していたのだが、すでにランドクルーザー300でもかなりの満足感を得ていたので、「LXはどうなっているのだろう」と期待をもって試乗すると、「まだそこまでブラッシュアップできたんだ」と感じるほど、ランドクルーザー300との差を感じた。

 中古車市場では先代アルファードのエグゼクティブラウンジはもともと、同年式のアルファードのなかでは値落ちが早かった。決め打ち的な仕様であったり、ガソリンでは3.5リッターV6しかないし、ハイブリッドは4WDのみというので価格的なものもあり敬遠されていたようだ。しかし、LMの国内発売を契機に中古車相場は下落が目立つ状況から、横ばい状況に変化してきているとのこと。

 外観をメインに初代LM風に架装する「なんちゃってLM」の人気が根強いなか、LMの国内発売でさらに注目されているのかもしれない。ただし、そのアルファードとの差というか方向性の大きな違いを埋めることはできないだろう(見た目では前席と2列目以降のシートに壁を作ったとしても)。

 アルファード&ヴェルファイアはファミリーミニバンといい切れるモデルではないし、使われ方も多様化している。いまでは政治家や企業幹部の移動用やハイヤーとしてもよく使われている。ただし、オーナー自らがステアリングを握り、家族や仲間などとドライブを楽しむというニーズがメインなことは変わらない。世界市場で見てもハイヤーやVIPの移動用車としてのニーズを集約させるためにLMの初代がデビューし、2代目でさらにそれに磨きがかかり特化させているように見える。

 いわゆる車内に「壁」があれば家族で楽しくドライブというわけにはいかないだろう。その意味ではアルファードとLMの明確な差別化ができているのである。そして明確な差別化ができるからこそ、前述したようにタイではすでに2代目も街なかで頻繁に見かけることができた。つまりターゲットユーザーである富裕層には十分魅力的なクルマに映っているのだと感じている。

 ここ数カ月東南アジアで相次いで複数の中国メーカーのミドルサイズセダンタイプのBEV(バッテリー電気自動車)に同乗する機会を得たのだが、BEVとしての性能は別として、クルマとして、そして一定以上のクラス以上のセダンとしての走行性能としては「?」がついてしまった。BEVなので静粛性が高いとはいうものの、足まわりから伝わるノイズなどの違和感というか、浅い作り込みというようなものが目立ってしまい、モヤモヤとした気分になってしまった。

 タイでは中国メーカーのBEVミニバンがヒットしているが、これはアルファードやLMを所有する富裕層がセカンドカーなど複数保有車として購入しているとも聞いている。BEVという先進性(あくまで世間のイメージ)はあるものの、ラグジュアリーモデルとしてのクルマの基本性能はまだまだなのかなあと、前述した中国メーカーのBEVセダンに同乗して感じている。

 その証拠に中国ではようやく今回の北京モーターショーでPHEV(プラグインハイブリッド車)が追加された、アメリカGM(ゼネラルモーターズ)の現地合弁会社上海GMが製造する「ビュイックGL8」がいまもなお「ラグジュアリーミニバンの雄」として君臨しているのかもしれない(GL8が現地生産なのに対し、アルファードやLMは日本からの輸入モデルとなるので、比較にならない価格差となるので、アルファードやLMと直接比較することはできない)。