AMDは2024年5月29日、Socket AM5向けのCPU「Ryzen 7 8700F」と「Ryzen 5 8400F」の国内販売を開始した。2024年の4月には中国で発表、5月15日にはグローバル展開をスタートさせていたのでご存じの人もいるだろう。手頃な価格が強みと言えるが、その実力はどうなのか。さっそく検証していきたい。

すでにグローバルでは発売が開始されていたRyzen 7 8700FとRyzen 5 8400F。いよいよ国内販売がスタート

Ryzen 7 8700FとRyzen 5 8400Fは、2024年1月31日に発売されたRyzen 8000Gシリーズの内蔵GPUを無効化して価格を抑えたモデルだ。Ryzen 8000Gシリーズについては、「AMD、Desktop向けのRyzen 8000GシリーズとAM4向け新製品、及びRadeon RX 7600 XTを発表 - CES 2024」に詳しい。スペックと価格については以下の表にまとめている。スペックの近いRyzen 7000シリーズも加えているので参考にしてほしい。

Ryzen 8000Gシリーズには、全コアがZen 4で構成される上位版“Phoenix 1”ベースとZen 4とZen 4cのハイブリッド構成の下位版“Phoenix 2”ベースの2種類が存在する。Ryzen 7 8700FとRyzen 5 8400FはどちらもPhoenix 1がベースだ。なお、Phoenix 1ベースにはAI処理に特化したプロセッサ「Ryzen AI NPU」が内蔵されていたが、Ryzen 7 8700Fには内蔵、Ryzen 5 8400Fは非搭載となっている。Ryzen AI対応をうたうアプリは増えているが、NPUをフル活用できるものは現状ほとんどない。ただ、将来性を考えてNPUを内蔵したものがよい、という人は注意したいポイントだ。

Ryzen 7 8700FともRyzen 5 8400Fともスペック面で注目は、Ryzen 8000Gシリーズと同じくCPU直結のPCI ExpressはGen4で16レーンであること。M.2スロット用に4レーン×2が使われ、ビデオカード用は8レーンとなる。ビデオカードは多くが16レーン接続だが搭載した場合、8レーンに帯域が制限されるわけだ。とはいえ、Gen4接続なら8レーンでもデータ転送速度は十分あり、ビデオカードの性能にほぼ影響ない。それでもレーン数の少なさやGen5に対応していないという点が気になるなら、素直にRyzen 7000シリーズを選んだほうがよいだろう。

Ryzen 7000シリーズに対して、3次キャッシュは半分、ブーストクロックも低めではあるが価格の安さは大きな強みだ。原稿執筆時点では国内価格が明らかになっていないため、発表時のドル価格での話になるが、Ryzen 7 8700Fは8コア16スレッドで269ドルと近いスペックのRyzen 7 8700GやRyzen 7 7700が329ドルなので、60ドル(約9,000円)も安くなる。そして、Ryzen 5 8400Fは169ドルと恐らく発売時点ではSocket AM5向けでもっとも安いCPUになるだろう。

8コア16スレッドの「Ryzen 7 8700F」。価格は269ドル。日本での発売当日の店頭価格は49,800円前後となった

CPU-Zでの表示。TDPは65Wで3次キャッシュが16MBなのが分かる

Ryzen 7 8700FはRyzen AI NPUを内蔵。デバイスマネージャーの「AMD IPU Device」がNPUに該当する

6コア12スレッドの「Ryzen 5 8400F」。価格は169ドル。日本での発売当日の店頭価格は32,800円前後となった

CPU-Zでの表示。TDPは65Wでこちらも3次キャッシュは16MB。Ryzen AI NPUは非搭載だ

どちらのCPUクーラーとして「Wraith Stealth」が付属する

○今回のテスト環境

続いて、ベンチマークに移ろう。比較用としてRyzen 7 7700とRyzen 7 7600を加えている。パワーリミット関連は定格で、Ryzen 7 8700F/Ryzen 5 8400FはTDP65W/PTT87.8W/TDC75A/EDC150A、Ryzen 7 7700/Ryzen 7 7600はTDP65W/PTT88W/TDC75A/EDC150A。ミドルレンジからエントリークラスのCPUであることを考えて、ビデオカードはエントリークラスのRadeon RX 7600とした。

○ベンチマークテスト

まずは、CGレンダリングでCPUのパワーをシンプルに測る「Cinebench 2024」と一般的な処理でPCの基本的な性能を測る「PCMark 10」から見ていこう。

Cinebench 2024

PCMark 10

8700F/7700、8400F/7600はコア数は同じだがブーストクロックがRyzen 7000シリーズのほうが高いため、マルチコアで約6%のスコア差が出ている。PCMarkでも同じ傾向だ。とくに8400F/7600はStandardで約16.5%も差が付いているが、60ドルという価格差を考えれば、むしろ検討していると言ってよいだろう。

次は実際のゲームでフレームレートを測定してみよう。まずは人気FPSから「Apex Legends」と「Call of Duty Modern Warfare 3」を実行する。Apex Legendsはトレーニングモードの一定コースを移動した際のフレームレートを「CapFrameX」で測定、Call of Duty Modern Warfare 3はゲーム内のベンチマーク機能を利用した。

Apex Legends

Call of Duty Modern Warfare 3

Ryzen 7000シリーズのほうが平均フレームレートは高いが、差は1〜5%程度だ。ビデオカードがRadeon RX 7600ならば、Ryzen 5 8400Fで十分と言える。エントリークラスのビデオカードでは、フルHDであってもCPUの性能差が大きく出る前にビデオカード側が性能限界にぶつかることが多いためだ。

レイトレーシングに対応する描画負荷の高いゲームとして「サイバーパンク2077」を試そう。ゲーム内のベンチマーク機能を利用した。

サイバーパンク2077

平均フレームレートに注目してほしい。サイバーパンク2077はCPU負荷が高めのゲームなので、8コア16スレッドの8700F/7700のほうがフレームレートが高くなっている。とは言え、4〜7%程度の差なので気にするほどでもないが、CPUパワーを求めるゲームではコア数の差は出やすい、ということだ。

クリエイティブ系の処理もテストしてみよう。AdobeのPhotoshopとLightroom Classicを実際に動作させてさまざまな画像処理を行う「UL Procyon Photo Editing Benchmark」を実行する。

UL Procyon Photo Editing Benchmark

ここでは3次キャッシュ量の差が効くようでRyzen 7000シリーズのほうが優勢だ。とくにPhotoshopをメインに処理するImage Retouchingでは、6コアの7600が8コアの8700Fのスコアを上回った。ゲームのフレームレートとは異なる傾向だ。

続いて、動画のエンコードを試そう。HandBrakeを使って、4K解像度で約3分の映像をフルHD解像度のH.264、H.265にエンコードする時間を測定している。

動画のエンコード

全コアをフルに使う負荷の高い処理だ。そのため同じコア数で見ると、ブーストクロックの高いRyzen 7000シリーズのほうがエンコードは短時間で終了できる。CPU負荷の高いクリエイティブ系の処理では、3次キャッシュ量やクロックの差が出やすい、ということだ。

次はシステム全体の消費電力を試す。OS起動10分後をアイドル時、Cinebench 2024実行時の安定値を測定した。電力計にはラトックシステムの「REX-BTWATTCH1」を使用している。

システム全体の消費電力

どのCPUもTDPは65Wではあるが、8400Fが飛び抜けて低い。8400Fに対してCinebench 2024のスコアは7600のほうが約6%高いが、消費電力は約27%も高くなる。電力効率という点では8400Fはとても優秀と言ってよいだろう。また、アイドル時の消費電力はRyzen 7000シリーズよりも、8700F/8400Fのほうが低い点にも注目したい。

最後に、Cinebench 2024のマルチコアテストを10分間実行した際の推移をモニタリングアプリの「HWiNFO Pro」で追ってみよう。CPU温度は「CPU (Tctl/Tdie)」、CPU消費電力は「CPU Package Power」、CPUクロックは「Core Clocks (avg) 」の値だ。室温は冷房を使って24度に調整、バラック状態で動作させている。

CPU温度

CPU消費電力

CPUクロック

CPUクーラーは、iCUEアプリで水冷ポンプ、ファンとも「安定」に設定としている。まず注目したいのは8400Fだろう。ブーストクロックが約4.7GHz動作時でも余力があるようで、CPU温度は平均68.3℃で消費電力も平均59.2Wとどちらも低い。低発熱、低消費電力を重視するならイチオシと言える。その一方で、8700Fは温度が平均87.9℃とトップ。CPU温度のリミットは95℃なので、そこまで気にする必要はないが……。消費電力の推移を見ると、7700/7600は電力リミット(PPT)の88Wでほぼほぼ動作。8700F/8400Fの電力リミットは87.8Wだが、そこまで到達していない。その前にブーストクロックの上限(4.7GHz前後)に達していると見るべきだろう。定格設定において、温度や電力のリミットまでブーストクロックを上げないという動作は評価したいところ(マザーボードによって変わる可能性はあるが)。

と、ここまでがRyzen 7 8700F/Ryzen 5 8400Fのテスト結果だ。Ryzen AI NPUを内蔵し、8コア16スレッドで269ドルという8700Fは面白い存在ではあるが、今回のテストで筆者として輝きを感じたのは8400Fのほうだ。Radeon RX 7600と組み合わせるのに十分な性能を持ちながら、6コアをフルに動作させても低発熱で低消費電力とワットパフォーマンスにも優れる。AM5プラットフォームでなるべく安くゲーミングPCを自作したいというニーズにガチッと応えてくれる存在だ。Socket AM5は2025年以降もサポートされる見込みと将来性は高い。まずは8400Fからスタートというのもよいのではないだろうか。