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一般道も走れる初めての「XX」 総合1030ps

フェラーリによると、当初はSF90のラインナップとして、XXが追加される予定はなかったという。しかし、約1000馬力のプラグイン・ハイブリッド・スーパーカーは、より手頃な価格で、動力性能が劣るモデルほどの脚光は集めなかった。

【画像】胸が打たれるほど「公道」で素敵 フェラーリSF90 XX スパイダー HVスーパーカーたち 全131枚

V6ツインターボエンジンを積んだ296 GTBも、プラグイン・ハイブリッド。車内空間にはゆとりがあり、運転体験も素晴らしい。


フェラーリSF90 XX スパイダー(欧州仕様)

結果として誕生したSF90 XXは、そんな現実へのソリューションのように思える。世界最高峰のスポーツカー・メーカーとしては珍しいが、フラッグシップのフォローアップが必要になったのだろう。どうすれば、形勢を立て直せるのか、と。

その答えは、さらに魅力を追求することだった。従来まではサーキット限定で、購入できるドライバーも制限された、特別なプログラムの名前を借りて。

SF90 XXは、一般道も走れる初めての「XX」だ。過去の例より、遥かに多くの数が生産されることになる。クーペは799台、コンバーチブルのスパイダーは、599台が計画されている。

シャシー中央へ搭載されるのは、4.0L V8ツインターボエンジン。通常のSF90から17ps増しの798psを発揮し、8速デュアルクラッチATを介して後輪を駆動する。

改良を受けた駆動用モーターは、フロントタイヤの左右へ1基づつと、エンジンとトランスミッションの間に1基の、合計3基。システム総合での最高出力は、1030psへ上昇した。ちなみにこれは、ユニット毎の単純な合計値ではない。

F50以来のリアウイング 乗り心地はしなやか

ボンネット内に確保されていた手荷物用のスペースは、エアダクトと交換。フェラーリの公道用モデルではF50以来となる、大きなリアウイングがテールに固定され、249km/hでの走行時に530kgのダウンフォースを生成するそうだ。

インテリアでは、装飾的な部分を削除。カーボンファイバー製パネルが増えている。


フェラーリSF90 XX スパイダー(欧州仕様)

今回筆者がステアリングホイールを握ったのは、スパイダー。イタリアの道で、仕上がりを確かめてみよう。

マルチマティック社製の高性能なダンパーが標準だが、試乗車にはサーキット向きのアダプティブダンパーが組まれていた。能力の幅が広く、フェラーリのテストコース、フィオラノでのタイムアタック時にも、このオプション・アイテムが組まれていた。

一方でタイヤは、公道向きのブリヂストン・ポテンザ。サイズはフロントが255/35 R20で、リアが315/30 R20だ。

クーペのXXと異なり、段差を超える場面などでフロントのクリアランスを増やせる、ノーズリフト機能がスパイダーには用意される。モデナ近郊での試乗時も、速度抑止用のスピードバンプなどで活躍してくれた。

イタリアのアスファルトは、英国と同じくらい平滑ではない。意外にもフェラーリの乗り心地がしなやかな理由は、この環境にあるのだろう。肉薄なタイヤでも、ボディロールは抑えられつつ、舗装のツギハギやワダチに悩まされることはない。

高速道路の巡航では、車内は比較的静か。ちょっと前の例だが、フェラーリ458 スペチアーレの方がにぎやかだった。

美しいインテリア ワインディングを快適に登れる

ステアリングは、ロックトゥロック2回転とクイック。しかし、812 スーパーファストより据わっている。安定感が凄い。

運転姿勢は理想的。サポート性が見事なカーボン製バケットシートは、ランバーサポートの調整などはできないものの、素晴らしく心地良い。人間工学的なデザインは、完璧とはいえない。それでも、ドライブモードと減衰力の変更は、運転中でも簡単だ。


フェラーリSF90 XX スパイダー(欧州仕様)

レースハーネスはオプション。筆者は、公道前提のモデルには必要ないと思っている。身を乗り出して左右を確認するのは難しくなるし、助手席に誰も座っていない時は、カタカタとうるさい。

インテリアは美しい。トンネルに入ると、照明がキラキラ反射してロマンチック。イベント帰りのナイトドライブも、きっと楽しいだろう。旅行用のカバンは積めないから、数泊の旅行は難しいとしても。

スパイダーのカーボン製ルーフは、素早く後方へ折りたたまれる。オープン時のボディ剛性はクーペより落ちるようで、強い入力が加わると稀にバックミラーが震える。

クーペと剛性感が違わないのは、マクラーレンのカーボンタブ・シャシーくらいのようだ。とはいえ、ソリッド感は相当に高い。実環境では、殆ど気付くことはないだろう。

シャシーは、シリアスさとコンフォートさとの、絶妙なバランスが突かれている。XXの名を背負っていても、599 GTOほど圧倒されることはない。1000馬力以上のミドシップ・スーパーカーでも、ワインディングを快適に登っていける。

運転時間が長くなるほど、楽しいと思える

駆動用モーターだけで走るEVモードは、最大112km/hまで許容。静かで活発だ。エンジンが必要に応じて始動する、オートマティック・モード時は更に速い。

大きなパドルを弾き自らギアを選んでみたが、気付いたら3000rpm程度でシフトアップしていた。イタリアの峠道では、1030psも引き出す必要がないからだ。


フェラーリSF90 XX スパイダー(欧州仕様)

8000rpmまで引っ張れば、怒涛の勢い。うかつにフルスロットルを与えると、ワープするよう。緊張感も瞬時に上昇する。

以前にサーキットでクーペのSF90 XXを試乗した同僚のマット・ソーンダースは、コーナーの侵入後に軽くブレーキングすることで、旋回性を高められると記していた。これは、公道を走るスパイダーでも変わらないようだ。

早めにブレーキングを済ませ、旋回途中から加速を始めると、フロントが外へ引っ張られるような挙動が現れる。ブレーキング・ポイントを深めに取った方が、ラインを辿りやすい。従来のフェラーリとは、ちょっと異なる特性といえる。

ステアリングの感触は精彩。バケットシートのサポート性は抜群。エンジン音は、市販車では最高。変速レスポンスも最速。電気モーターのアシストは、間髪入れず鋭い。

運転する時間が長くなるほど、SF90 XX スパイダーが楽しいと思えてくる。ダウンフォースの効果は、体感できなかったが。

追加された「XX」のサブネームは、本来の意味ではなく、肩書きとして与えられたのかもしれない。しかし、仕上がりは胸が打たれるほど素晴らしい。あるべき完成度へ、到達したように感じた。

フェラーリSF90 XX スパイダー(欧州仕様)のスペック

英国価格:73万ポンド(約1億4016万円)
全長:4704mm
全幅:1973mm
全高:1191mm
最高速度:320km/h
0-100km/h加速:2.3秒
燃費:13.9km/L
CO2排出量:178g/km
車両重量:1660kg
パワートレイン:V型8気筒3990ccツイン・ターボチャージャー+トリプル電気モーター
使用燃料:ガソリン
駆動用バッテリー:7.9kWh
最高出力:1030ps/7900rpm
最大トルク:−kg-m
ギアボックス:8速デュアルクラッチ・オートマティック(後輪駆動)