haveでもmakeでもない…使いこなすだけであなたの英語が急に"こなれた印象"になる「t」から始まるキラー動詞
■ビジネスや日常会話でものすごく使われている
「呼吸を止めて1秒、あなた……」
この後に続く言葉は?
この問いかけから、テーマ曲のメロディと共に岩崎良美の歌手名がすらすら出てくるのは、私と同年代の人たちだけではないはずです。
世代を超えて愛される漫画『タッチ』。あだちみつる先生の超ロングセラーで、テレビアニメ、実写やドラマ、映画にもなっています。
このタイトルが今回のテーマ。「touch」という単語は「触る」「触れる」という意味で覚えるのがふつうですが、そうではない形で、ビジネスや日常の英会話でものすごくひんぱんに使われています。
私たちからするとなにげなく普通に思える英語の表現でも、ネイティブには意外にぎこちなく聞こえたり、あまり使われないような表現が数多くあるのです。
「touch」を使うことで、すんなりと聞こえて、ネイティブの人たちとの会話にも自然なノリで入っていける。そんな表現を4種類カバーしていきましょう。この4つを使いこなせるだけで、だいぶこなれた感じが出ますので、ぜひマスターしてください。
■そもそも『タッチ』のタイトルの由来は?
ちなみに、国民的漫画『タッチ』のタイトルの由来は、「バトンタッチ」。優等生で野球スターの道を駆け上がる弟が亡くなってしまったあと、その夢を兄が引き継いでいくという意味が込められていたようです。
『タッチ』のタイトルの由来のように、「バトンタッチ」という言葉は、文字通りリレーで次の走者にバトンを渡すことから転じて、役割やプロジェクトなどを引き継ぐという意味で使われています。
バトンを「touch」するというところから、「引き継ぐ」。そんなふうに、「touch」という動詞は、何を触るかによって、全く異なる意味合いを出す便利な動詞なのです。
もっとも重要な「touch」をつかった万能でクールなフレーズを4つのカテゴリーに分けて見ていきましょう。
■ビジネスシーンの「touch base」とは?
一つ目のフレーズが「touch base」。
「base」(ベース)」というのは野球のベース。一塁、二塁、三塁、そしてホームと、打った選手が足や手で「touch」しながら進んでいくものです。
それぞれの塁に守備の選手がいて、打った選手がベースをタッチするごとに、その守備の選手と出くわすようなイメージ。
「touch base」は誰かと会って打ち合わせをしたり、コミュニケーションをとって確認するというようなことを意味します。
Please touch base with your direct reports on this project.
(このプロジェクトに関して、直属の部下と打ち合わせておいてください)
Just in case, I want to touch base with him to avoid any misunderstanding.
(一応、誤解のないように、彼と話しておきたい)
こんな感じで「touch base」は非常によく使われます。会って話すということで、「meet with XXX to talk about YYYY」などというのは間違っていませんが、「touch base」の方がこなれていて、ひんぱんに使われます。
■英語は野球由来のフレーズが多い
会議中に進行上その場では議論しきれないトピックが出てきてしまったりしたときにも以下のようなかたちでサラッということができます。
(次に進まなくてはいけませんが、これについては後で打ち合わせしましょう)
また、あまり関係がなかったり、会議の流れが滞ってしまうようなトピックや発言が出てきた場合にも、「That’s interesting. Let’s definitely touch base later」(興味深いですね。絶対後で話しましょう)などといって、相手に嫌な思いをさせることなく、やんわりと後回しにして次に進むことなんかもできます。
ちなみに、英語には野球のたとえが由来のフレーズが結構いっぱいあって、よく使われています。「ballpark」は「野球場」のことですが、「ballpark figure」などといった場合「大体の数」という意味になったり、「curveball」は変化球の一種ですが、予期せぬ難しい課題や問題のことを意味したりします。
For now, we don’t need a precise budget projection, but just need a ballpark figure.
(今のうちは、正確な予算予測はいらず、大体の概算で構いません)
That specific request from the client was certainly a big curveball.
(クライアントからのあの具体的なリクエストは、本当に全く予想外のチャレンジだった)
■メールの締めにもこんなふうに…
次の表現は、同じようにコミュニケーションに関係するものです。
人と人とが「touch」する、つまり、触れ合う。するとコミュニケーションが生まれるということで、「touch」は連絡をとっている状態の意味でも使われます。
「in」をつけて「in touch」とすると、連絡をとっている状態にあるという意味になります。「stay」や「keep」などの動詞を使えば、その状態を維持するということです。
知り合いや友達としばしお別れというときに「Stay in touch!」(連絡取り合おうね!)なんていうのは「Good bye」に並ぶ別れ際の常套表現です。
また、これから新しい職場に移っていく同僚や知り合いにメールで挨拶する場合に、「All the best on your new adventure! We’re going to miss you around here. Keep in touch!」(新しい門出に幸運を祈ります! 寂しくなりますが、連絡取り合いましょう!)などとメールを締めくくると、とっても粋な感じです。
■「contact」より「get in touch」
また、連絡をとっていないときに、連絡をとる状態にするという意味で、「get in touch」なんていう表現もよく使います。
(ジェームスはその悲しいニュースを聞いて、妹に連絡をとろうと決意した)
その反対に「失う」という意味の「lose」を使って「lose touch」とすると、連絡をとらなくなるという意味になります。
(アメリカに引っ越してきてから、カケルは兄弟と音信不通になった)
連絡がない状態が続いている場合には、「out of……」で「……がない」という表現を使って、「out of touch」ということができます。
(10年ほど彼女と連絡をとっていない)
これらどの例文でも、「communicate」や「contact」などの言葉を使うことができなくはありません。ただしそれでは、意味は伝わっても、少しぎこちなく聞こえてしまうので注意しましょう。
■何かが心に触れたとき…
三つ目の表現は例文から始めましょう。
(『タッチ』の最終回にすごく感動して、涙が止まらなかった)
漫画や映画、話や出来事。何かが私たちの心に触れる。つまり、感動する。そういった意味でも「touch」がよく使われます。
特に、人が何かしてくれたことや、人と人との関係に心がほっこりしたというようなときには特に「touch」を使うことが多いです。
同様に、感動したことを表す単語に「move」や「impress」があります。
「move」は「touch」とかなり似たような意味で使うことが多くあります。
I was very much moved by the recent film by Hirokazu Koreeda.
(是枝裕和監督の最近の映画ですごく感動した)
Brittanie was impressed with her son’s piano performance.
(ブリタニーは息子のピアノの演奏に感動した)
「impress」「move」「touch」の違いについてはいろいろ言われていますが、かなり互換的に使われています。
ただ、人に何かやってもらってほっこり心が温かくなった、などは「touch」がおすすめです。ネイティブの自然な英語の雰囲気が出てきます。
■「finishing touch」と「magic touch」
最後に「絵画のタッチ」などといったときの「touch」のニュアンスが使われている表現をご紹介しましょう。こちらは少し上級編です。
指や筆が触れる勢いやその感じのことを「タッチ」といいます。「モネの『睡蓮』の曖昧で繊細なタッチ」などというときの「タッチ」のことです。
こうしたニュアンスを使って、たとえば、まさに絵画の最後の仕上げという意味で、「finishing touch」という表現がよく使われます。絵画だけでなく、プロジェクトや作品でも「最後の仕上げ」のことを指す表現です。
(昨晩マーケティングチームは新しいプロダクトのWebページの仕上げ作業に取り組んでいた)
それから、「magic touch」というフレーズもぜひ押さえておいてください。「魔法の一筆」ができるような「特別な能力」のことを指します。
Our team can’t operate without his magic touch.
(彼の特別な力がないとうちのチームは回らない)
Spielberg’s magic touch makes another masterpiece.
(スピルバーグの魔法のタッチで新たな傑作が生まれる)
さあ、今回はせっかく漫画『タッチ』のテーマで来ましたので、少し胸の熱くなるような口説き文句で締めくくらせていただきましょう。
長きにわたって語り継がれる名曲「Only You」で知られる黒人シンガーグループのプラターズ。知る人ぞ知るその名曲に「(You’ve got)the magic touch」(魔法のタッチを持つあなた)というのがあります。
そこからの一説を見てみましょう。
It’s like a fourth alarm
You make me thrill so much
You’ve got the magic touch
こちらを雰囲気を残しながら意訳してみるとこんな感じです。
大火事を知らせる第4アラームが鳴ったよう
あなたは本当にどきどきさせる
魔法のタッチの特別な力で
いかがですか。ナチュラルな響きで、ネイティブの懐にスッと入り込む「touch」のフレーズ4カテゴリー。職場での便利な表現や、恋の口説き文句まで。ぜひ実践してみてください!
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星 友啓(ほし・ともひろ)
スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長
哲学博士、EdTechコンサルタント。1977年東京生まれ。東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。その後渡米し、Texas A&M大学哲学修士、スタンフォード大学哲学博士を修了。同大学哲学部の講師として教鞭をとりながらオンラインハイスクールのスタートアップに参加。2016年より校長に就任。現職の傍ら、哲学、論理学、リーダーシップの講義活動や、米国、アジアにむけて教育及び教育関連テクノロジー(EdTech)のコンサルティングにも取り組む。全米や世界各地で教育に関する講演を多数行う。著書に『スタンフォード式生き抜く力』(ダイヤモンド社)、『全米トップ校が教える 自己肯定感の育て方』『脳を活かすスマホ術 スタンフォード哲学博士が教える知的活用法』(共に朝日新書)がある。
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(スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長 星 友啓)