サッカー日本代表 6月の消化試合で必要なのは「新陳代謝」「再構築」 識者が提言
ミャンマー戦、シリア戦利用術(後編)
「現状維持は衰退。発掘と挑戦に充てるべき」
小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
「2026年W杯アジア最終予選進出が決定」
日本サッカーにとって朗報である。
今年3月、日本はW杯アジア2次予選で北朝鮮をホームで1−0と下すと、次戦をアウェーで戦う予定だった。しかし北朝鮮側の一方的な主張で、突然の中止に。FIFAの裁定により、没収試合として0−3で日本の勝利扱いになった。これにより、グループ首位を独走していた日本の最終予選進出が決まった。
誤解を恐れずに言えば、政治的に深刻な問題を抱える国に、「選手たちを放り込むようなことがなくてよかった」。もともと取材記者のパスも10人程度に絞られるほどの厳戒態勢が敷かれると言われていた。試合展開のなかでスタジアム全体が興奮状態になった場合、相手がどう反応するのか、治安も含めて不安は尽きなかった。
代表戦が1試合消えたのは損失だが、没収試合は正しい決定で、最終予選進出は喜ばしい。これまで戦ってきた選手たちの殊勲と言える。つまり、森保ジャパンは小さな前進をしたわけだが......。
現状維持では、「W杯ベスト8」という目標は絵に描いた餅になる。なぜなら、世界のサッカー界は激しく動いているからだ。
ホームで北朝鮮に勝利したものの、課題が残った日本代表 photo by Sueishi Naoyoshi
今年6月、ドイツで開催されるEURO2024では、ジョージアがかつての欧州王者ギリシャを破って史上初めて国際大会に出場を決めた。2018年ロシアW杯で日本を苦しめたポーランドも、プレーオフでどうにか本大会へ勝ち上がった。欧州における競争はし烈を極める。
昨年9月、日本はドイツを敵地で1−4と下し、その名声を高めた。たしかに希望を感じさせる試合で、その内容、結果に文句はつけられない。ただし、当時のドイツはカタールW杯惨敗のショックを引きずり、引き分けを挟んで3連敗中だった。調子が底をついていた相手に勝った、とも言える。今年3月に行なわれた代表戦では、ドイツはフランス、オランダを連破し、復調の兆しを見せている。
変革のための新陳代謝は、世界中で盛んに起こっている。カタールW杯後、ブラジル、スペイン、ベルギー、ポルトガル、イタリア、オランダ、ドイツなどの列強は揃って指揮官交代。ブラジルは17歳エンドリッキ、スペインは16歳ラミン・ヤマルなど、各国で新鋭が台頭している。
現状維持は衰退を意味する。
カタールW杯で、日本を破ってベスト8に進んだクロアチアは、同じズラトコ・ダリッチ監督が務めている。しかしダリッチは、2018年W杯準優勝、2022年W杯3位、昨年のネーションズリーグも準優勝(ちなみに優勝はスペイン)と華々しい成果を挙げている。自ら世代交代を促せる、際だった手腕を持っているのだ。
一方、ベスト16の壁を越えられなかった日本は森保一監督が続投したが、アジアカップはベスト8止まり。革新は欠かせないはずだが、相変わらず「受け身のサッカー」を捨てられないでいる。ボールプレーでやり合える戦力を擁しながら、イージーに蹴ってしまう。相手にボールを預け、パワープレーで劣勢に陥る。端的に言えば、それが今回のアジアカップの敗因だった。アジアレベルであっても、フィジカルコンタクトに勝敗を委ねると日本人はその強みを出せない。
「世界を相手にした場合、耐えて守ってのカウンターは威力を発揮する」
そういう意見は根強く、正論でもある。しかし、同じ手は2度と通用しない。カタールW杯で、ドイツ、スペインに攻められ続けながら、失点を最少に抑えられたのは、僥倖にすぎなかった。相手が日本を軽視した油断で、勝利を拾ったのだ。
具体的に、森保ジャパンは来るべき6月のミャンマー、シリア戦にどう挑むべきか?
ひとつ言えるのは、ベストメンバーは必要ない、ということだ。
欧州のシーズンは終わり、体力的負担は少ないだろう。ただ、少なくとも冨安健洋(アーセナル)、三笘薫(ブライトン)のようにケガが多くなっている選手は呼ぶべきではない。主力の半分は入れ替え、戦力の底上げに用いるべきだ。
たとえばJリーグで台頭著しい荒木遼太郎(FC東京)はトップ下で創造性を発揮でき、鎌田大地(ラツィオ)、伊藤涼太郎(シント・トロイデン)のバックアッパーとして試すべきだろう。また、MLSで活躍するGK高丘陽平(バンクーバー・ホワイトキャップス)は海外の猛者を相手に堂々としたプレーで、経験も積み重ねている。他にも大迫勇也、宮代大聖(以上ヴィッセル神戸)、鈴木優磨(鹿島アントラーズ)は、現在の代表にはいないポストプレーヤーであり、本来はリストに入れるべきだろう。
日本サッカーの武器は、「(俊敏性+技術)×コンビネーション」と言える。縦パスを差し込み、フリックで展開し、ゴールに迫る。パスを食われるリスクも懸けた能動的サッカーを押し通すことにより、失敗からの成功も見込める。「石橋を叩いても渡らない」慎重すぎる戦い方では、大きなうねりを起こすことはできず、停滞を余儀なくされる。
6月の2試合こそ、発掘や挑戦に充てるべきだ。
「勝敗よりも攻守両面の戦術再構築に重点を」
中山淳●文 text by Nakayama Atsushi
次回の2026年W杯から、本大会出場国枠はこれまでの32から48に拡大した。とりわけアジア枠は、4.5枠から8.5枠に倍増(前回大会はカタールが開催国枠で出場したため、1+4.5枠)。アジアのなかでトップランクに位置する日本にとっては、W杯予選で敗退する可能性はほぼなくなったと見るのが妥当だろう。
すなわち、今年9月からスタートするアジア最終予選も、これまで以上に余裕を持って戦えるはず。それを考えれば、3月26日の北朝鮮戦の不戦勝により、現時点で2次予選突破を確定した日本は、6月に予定されるアジア2次予選の残り2試合では、これまで出場機会のなかった1.5〜2軍のメンバーを編成し、最終予選や本大会を見据えて選手層に厚みを増すための機会にしたいところだった。
しかし、残念なことに、現在の日本にそれほどの余裕はない。余裕どころか、本来あるべき姿を見失った状態にある。
このままの調子でアジア最終予選(18カ国が3組に分かれてリーグ戦を行ない、各組2位までが本大会出場権を獲得)を迎えれば、予選敗退はないにしても、苦戦する可能性大だろう。グループ3、4位となってプレーオフを戦わなければいけなくなることも考えられる。本大会までの強化日程を考えると、それは望ましいことではない。
そういう意味で、6月6日のミャンマー戦と11日のシリア戦は、チームとしての下地をもう一度見直し、再構築する機会にする必要がある。
W杯ベスト8以上の目標を掲げ、昨年3月に船出した第2次森保ジャパンは、そのために必要とされた「主導権を握って勝つ」というミッションを無視したまま、チーム強化が行なわれた。そんななか、対戦相手との兼ね合いもあり、いつのまにか、ボール保持率が低い試合では強さを発揮するが、保持率が高い試合で苦戦するという傾向が定着してしまった。
当然、格下もしくは同レベルの相手との対戦が続いたアジアカップでは、後者の試合展開となったために大苦戦。さらに、相手が引いて守り、攻撃はロングボール主体というサッカーを展開してきたことで、日本の強みである個の力や組織力も半減してしまった。
そこで浮かび上がったのは、チームが立ち返る場所、つまりチームの下地がない、という問題だった。対戦相手の選手と比べ、日本には日常的にヨーロッパの高いレベルでプレーする選手が多いにもかかわらず、その優位性が脆くも失われてしまった原因だ。
どんなサッカーを目指し、そのためにどんな戦術を構築するのか。試合中は選手のアドリブが必要な場面もあるにせよ、最低限、目指すサッカーを実行するためのチーム戦術を機能させるためのベースは必要になる。
ある意味、現在の日本はそのベース作りをゼロから作り上げる必要がある。少なくとも、2018年9月にスタートした第1次森保ジャパンの時代より自由度が増した分、現在はチーム戦術のレベルが低下。3月21日の北朝鮮戦などは、その問題点が露呈した試合内容だったと言える。
幸い、6月のミャンマー戦とシリア戦が行なわれる時期は、ヨーロッパ組もシーズンを終えた直後で、とんぼ返りでヨーロッパに戻る必要はない。しかも、次の代表ウィークは9月に予定されるW杯アジア最終予選であることを考えると、もはやチームを再構築する機会は、6月の2試合しかないということになる。
もちろん、同じフルメンバーで2試合を戦う必要はなく、フレッシュな選手がそこに加わってもいいだろう。重要なのは、勝敗よりも攻守両面の戦術再構築に重点を置き、残された2試合を有効活用することだ。
もしそのスタンスで戦いながらも改善の兆しが見えないなら、会長も代わった日本サッカー協会は、いよいよそれまでの体制との"違い"を見せる必要があるだろう。