「撮影所でニコニコしながら…」亡くなる約2年前の三浦春馬さんの姿を、主演映画を撮った監督が明かす
“青春映画といえば”の古厩智之監督にかかるとどんな若手俳優も活気づいてきらめく。長澤まさみ初主演作『ロボコン』(2003年)でも高専の学生を主人公に、ロボットコンテストの熱気を画面からふるわせた。

 2024年3月8日から全国公開されている映画『PLAY! 〜勝つとか負けるとかは、どーでもよくて〜』(以下、『PLAY!』)では、徳島の高専に通う少年たちが、eスポーツ全国高校生大会に挑む奮闘を描く。単なる自転車の走行でさえマジカルな一瞬として映ってしまう不思議……。

 イケメン研究をライフワークとする“イケメンサーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、大学時代の恩師でもある古厩智之監督に前編・中編・後編のロングインタビューを行った。
 後編では、駅伝映画の傑作『奈緒子』(2008年)主演の三浦春馬さんが「大人になったんだな」と感じた撮影所エピソードなど、監督と俳優の関係性について聞いた。

◆故・三浦春馬との撮影秘話

――『PLAY!』を観ていると、映画そのものについて考えさせられました。映画(シネマ)がもともと意味するのは、運動と記録。本作の達郎と翔太の自転車の走行はもちろんですが、特に如実だったのが三浦春馬さん主演の『奈緒子』(2008年)です。三浦さん扮する駅伝のランナーがアスファルトを蹴る音。前走者をぐんぐん抜いていこうとする息の荒さ……。監督はどんな思い入れがありますか?

古厩:『奈緒子』はまだフィルムで撮影している作品です。フィルム撮影はお金がかかるので、むやみやたらとカメラを回せません。だから演出部の僕らは、「このテイクで決めるんだ!」と思って、撮影部と車に乗りました。

普通に走ると早く走っているように見えないので、俳優さんたちにはほんとうの選手よりもスピードを上げて走ってもらいました。一度カットをかけると、倒れて30分動けない。つらいことをさせているわけですから、「やばいやばい、次こそは」と焦るこちらも傍観者ではいられなくなります。

春馬くんと一緒に走ってるような気持ちです。その運動体の中にわぁっと入っていく感覚だったから、まさに運動感みなぎる画面になったのかなと思います。

――三浦さんの中にも自分がどんどん運動体そのものになっていく感覚はあったんでしょうか?

古厩:春馬くんにはあったと思います。芝居とはいえ、誰よりも足が早い役だから、誰よりも早く走らないといけないと思ってやるんですよね。ライバル役の綾野剛くんは、実際に中学、高校と800m岐阜県代表だったので、走り方がめちゃくちゃ綺麗。それで春馬くんは、走り方を教わって、綾野くんより早く走ろうと競っていました。

◆「大人になったんだな」と感じた撮影所エピソード

――負けん気が強いところが、役柄からも本人からも伝わってきますね。

古厩:一見、クールに見える春馬くんでしたが、撮影中の熱量をずっと共有するうちに、仲良くなっていきました。亡くなる1〜2年前だったと思います。お互い別の撮影でしたが、東宝撮影所で、軍服姿の春馬くんが「監督!」と300mくらい向こうから笑顔で走ってきました。

――すごいですね、撮影所で、『奈緒子』が再現されるわけですね。

古厩:なんだか嬉しかったですよ。そんなニコニコして走ってくるような子じゃなかったから、大人になったんだなと思いました。

◆俳優と監督の関係性「共犯者みたいな人を作れたら」

――古厩監督作品では、ほんとうに豊かな才能を持った俳優さんたちが、青春のきらめきを刻んでいます。テレビドラマ作品を初めて演出したのが、『ケータイ刑事 銭形愛』(2002年)。同作主演の宮崎あおいさんにとっては、青山真治監督の『EUREKA』(2001年)から1年後の作品でした。