海上自衛隊が保有する救難専用飛行艇US-2。海上での救難に特化した機体はUS-2が世界唯一、しかも飛行艇を製造できる国は日本を含め3か国のみです。コストが高すぎるといわれますが、果たして「コスパが悪い」のでしょうか。

EEZをカバーするUS-2救難飛行艇

「何時間かは漂流して我慢しなきゃならないけど、必ずUS-2が来てくれる」
 
 そう思っている航空機の搭乗員も少なくないことでしょう。海上を飛ぶ彼らにとって最大の不安は、不時着水して広大な海原に投げ出されてしまうことです。それでも助けてもらえるという保障があれば、大きな安心感につながります。その保障の一端を担うのが、海上自衛隊の救難飛行艇US-2です。


海上自衛隊の救難専用飛行艇US-2。岩国基地に帰還後、海水を洗い流す様子。折よく虹を描いた(月刊PANZER編集部撮影)。

「狭い日本」とよくいわれます。実際、国土の面積は約38万平方キロメートルで世界第61位に過ぎませんが、排他的経済水域(EEZ)と領海を合わせると約447万平方キロメートルに及び世界第6位になり、日本は広大な海洋国家なのです。

 ただ、概念的にEEZを主張するだけでなく、EEZをコントロールできる実行力も必要です。それは安全保障上の意味のみならず、日本のEEZ内であらゆる船舶や航空機に必要な援助・支援を提供する意思と能力を持つことは、責任ある海洋国家としての矜持でもあります。

 US-2は八戸、厚木、岩国、鹿屋、那覇、硫黄島、南鳥島を拠点に配備されており、EEZをカバーすることができます。救難に特化した飛行艇というのは現在US-2が世界唯一で、そもそも飛行艇を製造できる企業を有する国は日本、カナダ、ロシアの3か国のみ。中国がAG-600を開発中という具合です。

運用コストは高い

 昔から海上の救難は問題でした。陸上なら万一の時でもなんとか不時着できますが、海では沈んでしまいます。1930年代に大型旅客飛行艇が黄金期を迎えたのは、信頼性の低い当時の技術でも、飛行艇ならとりあえず着水して沈まないという安心感があったからです。

 太平洋戦争時、アメリカ軍は日本にB-29戦略爆撃機を飛ばしました。しかし基地のあったサイパン島から日本までは往復約5000km。その間はほとんど海です。日本軍の迎撃で被害が出たり、故障してサイパン島までたどり着けなかったりすれば不時着水するしかありません。アメリカが大きな犠牲を払っても硫黄島に上陸占領したのは、B-29の不時着場を確保する意味もありました。それだけ陸上の滑走路には価値があったのです。


3月上旬、海上自衛隊はUS-2を用いた救難訓練を実施。写真は訓練終了後に搬出される訓練用マネキン。出入口がかなり高い位置なのがわかる。本物の担架の場合はホイストケーブルを使う(月刊PANZER編集部撮影)。

 US-2は調達コストも維持コストも高価すぎるといわれます。世界唯一の救難飛行艇を運用するコスパが適正かは、安心安全の代価としてだけでなく、日本が責任ある海洋国家であることを国際社会に示す意味まで含めて、総合的に考える必要があると思います。