写真左より広末涼子さん(広末さんInstagramより)、写真右が澤尻エリカさん(「欲望という名の電車」公式サイトより)

この1週間あまり、芸能人の“復帰”に関するニュースが相次いでいます。下記に主なものをあげていきましょう。

2月16日、広末涼子さんが26年間所属した芸能事務所・フラームを退社し、独立することを発表。昨年の不倫騒動を詫びたほか、「今後も引き続き俳優業に邁進し、お芝居と真摯に向き合っていきたいと考えております」などと事実上の復帰宣言をしたことが報じられました。

19日、伊勢谷友介さんが映画「ペナルティループ」の完成披露上映会に登壇。大麻取締法違反の罪に問われ、2020年12月に懲役1年、執行猶予3年の有罪判決を受けて以来、今作が3年ぶりの俳優復帰作となり、初めて公の場に現れました。

19日、ピエール瀧さんが主演映画「水平線」の完成披露上映会に登壇。2019年3月に麻薬取締法違反容疑で逮捕され、その後、懲役1年6カ月、執行猶予3年の有罪判決を受けながらも復帰していましたが、今回は初めての舞台あいさつに登場したことが報じられました。

10日から沢尻エリカさんの主演舞台「欲望という名の電車」がスタート。2020年2月に麻薬取締法違反の罪で懲役1年6カ月、執行猶予3年の有罪判決を受けて以来の俳優復帰作であり、約4年ぶりの出演作となります。舞台初出演にして初主演、即完売したことなども含め、大きく報じられました。

16日、東出昌大さんが狩猟に挑む姿を追ったドキュメンタリー映画『WILL』の初日舞台あいさつに登壇。2020年の不倫騒動で批判を受けていたころから撮影がはじまっていたこともあって、“復活”の程度に賛否の声があがっています。

なぜ今、このような芸能人の復帰に関わる記事が相次いでいるのか。故・ジャニー喜多川氏、松本人志さん、伊東純也選手、榊英雄さんの性加害報道が大きく報じられていることとの関連性はあるのか。

さらに、この相次ぐ復帰という現象に私たちは何らかの関与をしているのか。

不倫や薬物などの過ちを犯した人に対する感情の変化はあるのかなどを掘り下げていきます。

いかに味方を増やしていけるか

まず現在、復帰にかかわる記事が相次いでいることについて。これは前述した「伊勢谷さん、瀧さん、沢尻さん、東出さんの騒動が4〜5年前に集中している」という時期の問題によるところがあります。特に薬物の罪に問われた人の復帰は執行猶予の満了を目安にしていることがわかるでしょう。


映画の舞台挨拶に登場したピエール瀧さん(映画「水平線」公式サイトより)

もちろん復帰に際して世間の反応は考慮されていますし、瀧さんが逮捕から1年弱で活動再開した際には「甘い」などの厳しい声があがっていました。さらに現在まで出演作が映画と配信ドラマに偏り、テレビドラマへの復帰は果たしていないことからも、本人と制作サイドが世間の反応を考慮している様子が伝わってきます。

瀧さんに限らず、特に地上波のテレビドラマは視聴者の数が多く、反響が大きくなりやすい上に、スポンサーへの配慮が求められるだけに、ニーズの高まりがない限り復帰は困難。映画、舞台、配信ドラマなどの有料コンテンツで素晴らしい演技を見せ続けて評判を呼び、「そろそろテレビドラマでも見たい」という待望論を生み出すというステップが求められます。つまり、「ファンを中心に活動しつつ、少しずつ味方を増やしていくことでテレビドラマへの復帰が見えてくる」ということです。

もともと俳優だけでなく、すべての芸能人が人気商売。不祥事を起こしてもお金を払って見に来てくれるファンがいればビジネスは成立します。俳優で言えば、映画、舞台、配信ドラマ、アーティストで言えば、ライブやリリースなどがそんなファン向けのビジネスであり、そこから復帰するのは自然な流れ。世間の待望論が盛り上がらなければ、そのまま活動を続けていけばよく、必ずしもテレビ出演で不特定多数から支持を得なければいけないという訳ではないでしょう。

大舞台復帰に必要な「気になる」

冒頭にあげた映画の舞台あいさつを例にあげると、その会場には復帰に好意的な人々が集まっています。しかし、会場を一歩出たら否定的な人々もいて、さらに今なお「許さない」と怒っている人もいるでしょう。

だからこそ不祥事を起こした芸能人に求められているのは、そんな現実を受け入れたうえで、どう活動して味方を増やしていくのかを考えること。ファンとまではいかなくても、「気になる」「見届けたい」という人々を増やすことが大舞台への復帰につながっていきます。

もしそれがうまくいけば、「過ちを犯したが、それでも生きていく強い人」「苦しい時期を経て芸が磨かれた」などと認めてくれる人がいるかもしれません。その点、前述した芸能人たちが数年後、再び世間の人々から認められる存在になっていても驚かないのです。

また、この点は薬物だけでなく、不倫騒動があった東出さん、さらにベッキーさん、渡部健さん、ファンキー加藤さんらも同様。大手メディアは世間の反応を見ながら彼らへのオファーを検討しているだけに、大舞台での活躍を願うのならいかに味方を増やしていけるかが重要でしょう。

ちなみに広末さんの復帰が早くなりそうなのは、不倫騒動への関心が以前よりも高くないから。もし広末さんの不倫騒動が社会的な問題として扱われていた2016〜2020年ごろに報じられていたら、もう少し復帰までの時間がかかったのではないでしょうか。

優先順位のトップは「命と人権」

次のポイントは、相次ぐ復帰報道に、故・ジャニー喜多川氏、松本人志さん、伊東純也選手、榊英雄さんと昨年から性加害報道が続いていることとの関連性はあるのか。

結論から言えば、復帰の記事が大きく多く報じられていることの関連性はある一方で、復帰そのものに関連性はないでしょう。復帰に向けたスケジューリングや制作サイドからのオファーは一連の性加害騒動よりも前に行われたものであり、関連性は考えづらいところがあります。

ただ、性加害騒動のインパクトは大きく、しかも1年近く続いているため、相対的に不倫や薬物に関する報道への関心度が下がっているのは事実。3社3誌の週刊誌編集者に尋ねてみたところ、「今、不倫の記事はよほど大物で悪質でなければ厳しい」「薬物も人気がある人で降板騒動などがなければ影響力は低い」などの返事が返ってきました。

また、ある週刊誌のデスクは「『セクシー田中さん』の件も含めて、他人の命や人権にかかわる重大事が起きると、そこに関心が集中する」という優先順位をあげていました。いい意味で不倫や薬物の優先順位が下がっているからこそ本人や各作品の制作サイドは、「重大事が起きている今、“復帰”を大きく報じてほしい」という思いがあるはずです。

さらにここまであげてきた「インパクト」「他人の命や人権」の他にもう1つ、世間の関心度を上下する要素は、議論につながるかどうか。

「悪い」と言語道断の不倫や薬物より、真相がわかりづらく臆測を含めた議論につながりやすい性加害のほうが熱を帯びやすく、怒りが募りやすいところがあるものです。実際、性加害も『セクシー田中さん』の騒動も、「一番叩かれるべきは誰か」という観点で議論が白熱し、優先順位をつけて怒りをぶつける人々の声が目立っています。

もともと、生きている時間、さらに、起きている時間、仕事や勉強などに集中しなくてもいい時間が限られている人間は、無意識で向き合うことの優先順位をつけているもの。その中で怒りの感情を抱ける時間も限られているだけに、常に優先順位の高そうな相手を見つけた上でぶつけているのです。現在はテレビやネットなどが連日、性加害や『セクシー田中さん』の騒動を報じていることもあって、不倫や薬物の優先順位は低いのでしょう。

「怒り」の経年変化を実感する

さらに前提として忘れてはいけないのは、前述した芸能人の不倫や薬物騒動に対する怒りが収まった背景には、年月の経過と気分転換があること。

怒りの感情を抱いたら「6秒間待つ」「場所を移動する」「家族やペット、趣味や推しなど、好きなものを見て気を紛らわす」などの対処法で知られるアンガーマネジメントを踏まえても、時間と気分の重要性がわかるでしょう。人間における怒りの総量には限りがある上に、誰かへの怒りを持続させることは難しく、年月を経るほど好きにこそならないものの、無関心に近い状態になっていくものです。

不倫や薬物騒動が相次いだ数年前、なぜ私たちはあれほど怒っていたのか。そして現在、なぜその怒りは無自覚なままサーッと引いているのか。当時と現在の感情を冷静に比べられる人は自分の変化に気づけるでしょう。そして、その怒りがさほど必要性のない漠然としたものだったことにも気づけたら、これも今後につながるアンガーマネジメントの1つなのです。

他人に対する怒りの感情をコントロールできればそのぶん、自分の人生と向き合う瞬間が増え、充実した日々を送ることにつながっていくでしょう。

もしあなたが冒頭にあげた復帰報道を見て怒りの感情が再燃したのなら、それは自分の人生と向き合えていないということなのかもしれません。テレビなどの視聴者が多く、目にふれやすい無料メディアに復帰したわけではないことも含め、わざわざ怒りの感情を抱く必要性はないでしょう。

(木村 隆志 : コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)