「レイシャル・プロファイリング」による職務質問人種差別に当たるとして国などを訴えた件について日本外国特派員協会で語るモーリス・シェルトン(編集部撮影)

海外でも注目されつつある、日本の警察による「レーシャル・プロファイリング」。人種や肌の色を理由に捜査対象を選別する行為だ。

1月29日、モーリス・シェルトン、ザイン・サイード、マシュー(苗字は非公表)の3人の在日外国人がこのレイシャル・プロファイリングに終止符を打つために立ち上がった。日本国と東京都、愛知県を相手取り、民族差別による頻繁な職務質問を理由とする訴訟を東京地方裁判所に起こしたのだ。

2月1日に日本外国特派員協会で開かれた記者会見で訴訟について語ったシェルトンは、「本当にもう十分だ。もう疲れてしまった」と語り、公民権運動家ファニー・ルー・ハマーの言葉を付け加えた。「疲れること自体に疲れてしまった」。

彼は日本の警察による虐待にうんざりしているのだ。過去10年間で、彼は16、17回警察に止められ、質問された。

彼を止める警察は決まってこう聞く。「ビザのオーバーステイか? どこから来たのか? どこへ行くのか? 在留証明は持っているのか? 今まで何をしていたのか? 仕事は?」

「本当にもう懲り懲りだ」とシェルトンは言う。

もう1人の原告マシューは、2002年に来日して以来、警察に少なくとも70回は尋問されたと述べている。8歳の時にパキスタンから来日し、13歳で日本国籍を取得したザイン・サイードは、2016年に10代で名古屋に引っ越して以来、15回警察から尋問を受けたと主張している。

裁判で彼らの言い分が認められれば、原告らはそれぞれ330万円の賠償金を受け取ることになる。シェルトンと、この日記者会見に同席した原告代理人の谷口太規弁護士は、無実の人を犯罪者として扱い、自白を強要し、保釈を拒否することで世界的に知られる司法制度に今こそ挑むときだと考えた理由を説明した(ヒューマン・ライツ・ウォッチ、世界的な人権侵害を調査する団体による解釈)。つまり、これは金の問題ではない。

アメリカ出身で日本に10年以上住んでいる41歳のパーソナル・トレーナー、シェルトンは、この訴訟が何人かの人々を目覚めさせ、沈黙を守っている人々が声を上げる勇気を持つ手助けになることを願っている。

「私の家族でさえ、妻は報復を恐れて、私たちの名前をこの件に関連付けたがらなかった。それが外国人を差別する人たちの狙いなんだ。彼らは、差別される人は誰もが恐れており、1人では何もできないと考えている。でも私たちが団結して、自分たちの集団の力に気づけば、そんなたわごとに付き合う必要はないんだ」とシェルトン。

「違法な捜査や、人間としての尊厳の引き下げに応じる必要はない。日本を非難しているのではない。この話(日本の警察官による不当な職務質問)がこれほど国際的に注目されているのは、世界中の人々の共感を呼んでいるからだと思う」


民族的ルーツ別の過去5年間に職務質問を受けた割合。アフリカ系、中南米系の比率は8割を超えている(編集部撮影)

私自身は、日本で暮らしている20年間で、警察に呼び止められたことは数回しかないが(2022年にここに書いた)、その頻度は人によって、都道府県によってさまざまだ。

東京弁護士会が2022年1月から2月にかけて実施した外国人、および外国にルーツを持つ人を対象としたアンケートでは、回答者2094人のうち62.9%が過去5年間に警察から職務質問を受けたことがあると答えた。

このうち85.4%が「身体的特徴」などから外国にルーツを持つ人だと認識したと回答している。また、76.9%は、外国人であること以外に、警察官が自分に近づく要因はないと考えていた。

アメリカ大使館でさえ、在留外国人が日本人に見えないというだけで、日本の警察に「拘留、尋問、捜索」される疑いがあると公式に警告を出さざるを得ないと感じている。言い換えれば、これは日本の何百万人もの「視覚的マイノリティ」に影響を与える可能性のある現実の問題なのだ。

しかし、一部の人々にとっては、これは単なる迷惑行為であり、日本には場所も歴史もない「西洋的な問題」であり、日本が彼らの好みに合わせて十分に西洋化されていないために外国人が文句を言っているのだと考えている。

シェルトンは、このような問題はこうした人々にとってあまりにも異質であるため、共感するのに苦労する日本人が一定数いると断言する。警察がやっていることは、手に負えない法を犯す外国人から自分たちを守るためのことだ、と。それを知っているからこそ、警察外国人いじめを続けられるのだ。

「校庭にいじめっ子がいたとして、そのいじめっ子は歯にパンチを食らわす以外、何も理解していないことがある」とかつては格闘家として活躍したこともあるシェルトンは言う。

「もし私がそこに座って、理解を得ようと説明したいとしても、私が反撃する以外、この尻叩きを免れる方法はない。それでも尻を叩かれるかもしれないけど、少なくとも私はパンチとスイングをして倒れる。ただ横になって、尻を叩かれるだけのことはしない。誰かが自分の環境と視点をコントロールする能力を奪い取ろうとしない限り、権力にはけっして屈服しない」

シェルトンも谷口弁護士も、この訴訟は、高齢化と人口減少による労働力不足を解消するために日本が労働力を求めていることに応えるために、外国人が日本に押し寄せ続けているという事実に注意を喚起するためのものであることを明らかにしている。


原告側の弁護人を務める谷口弁護士(写真右、編集部撮影)

実際、日本はどんどんと「同一民族」の国ではなくなっている。すでに数百万人に達している目に見えるマイノリティの数が増え続け、日本の人種構成が変化するにつれて、多くの社会問題に対する日本のアプローチも変化していく必要がある。

会見で谷口弁護士は、外国人の数が増え続ける中、レイシャル・プロファイリングが日本の文化の一部にならないようにするために何ができるかという質問に対し、警官にボディカメラを装備させるための資金が利用できるようになる可能性について語った。

一方、シェルトンは日本が 「警察に、今の仕事をより効率化するためにより多くの金を与えるというわなにはまるべきではない 」と語った。「レイシャル・プロファイリングはすでに日本の文化の一部になっている。私がそれを証明している」。

記者会見で流された人種差別の被害者が撮影した悲痛なビデオによると、その男性はドレッドヘアのせいで明らかに警察から嫌がらせを受けていた。シェルトンは被害者の行動に同意し、何が起こったかをデジタルで記録することは有益だと述べた。

「尋問を受けているときに携帯電話を取り出したことで、おそらく3回ほど違法切符を切られずに済んだ」とシェルトン。「もしあなたが虐待されていることを記録するために携帯電話を取り出す必要があるのなら、ぜひそうしてほしい」。

谷口弁護士によれば、この事件の判決は早くても2025年まで出ない見込みだという。日本に住む多くの視覚的マイノリティのためにも、この社会的病気が手に負えなくなる前に、救済策が提示されることを願う。

(バイエ・マクニール : 作家)