Vol.135-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはNetflixで記録的なヒットとなっている実写ドラマ版「幽☆遊☆白書」。今後、Netflixが注目している領域である、スポーツへのアプローチを解説する。

 

今月の注目アイテム

Netflix

幽☆遊☆白書

↑週刊少年ジャンプでの連載作品を実写化し大ヒット。原作は冨樫義博。子どもを助けるため交通事故に遭い命を落とした不良少年の浦飯幽助は、“霊界探偵”という役目を与えられ、人間界で妖怪が関わる事件の解決に挑む

© Y.T.90-94

 

コロナ禍が終わり、アメリカはインフレ懸念に揺れている。特にネットサービス業については、コロナ禍の「巣篭もり需要」向けに投資が行なわれ、企業同士の競争が激化したこともあり、コストを抑えて調整する局面に入った……との見方が有力だ。

 

さらにハリウッドでは、全米脚本家協会のストライキが長引いた関係もあり、制作の長期中断とコスト上昇にどう対処するかが課題となっている。そのため、ドラマなどへの投資にはブレーキがかかるとの憶測もある。そのうえに、映像配信事業は少々過当競争な部分もある。

 

では、各社は単純に手綱を緩めるのか? どうやらそうではない。ドラマ以外の領域に投資し、消費者の注目を集めようとしている。

 

その領域とは「スポーツ」だ。従来スポーツ中継は「放送」の領分だったが、いまは放送と配信が本格的に戦う時代になっている。だから、配信事業者がコストをかけてスポーツの配信権を取得し、サービスに組み込もうとしている。

 

Netflixは、他社に比べスポーツが苦手だった。「生配信」をやらないビジネスモデルを続けてきたためだ。

 

だが、2025年からその方針が変わる。アメリカのプロレス団体「WWE(World Wrestling Entertainment)」と10年間の契約を交わし、2025年1月からWWEの人気番組「RAW」の配信をスタートするのだ。当初はアメリカなどが中心だが、追って対象国を広げていく。

 

WWEはケーブルテレビ、すなわち放送の目玉コンテンツだったが、ここに来て配信の象徴であるNetflixが権利を獲得する。これは、「放送から配信へ」という流れを強調する効果も持っている。

 

ではなぜWWEだったのだろうか? フットボールや野球、ゴルフなどでも良さそうなものだ。だが、NetflixはWWEをあえて狙ったのだ。

 

Netflixの共同CEOでコンテンツ施策を担当するテッド・サランドス氏は、1月に配信したアナリスト向けの説明会にて、次のように述べている。

 

「WWEはスポーツ・エンタテインメントであり、弊社と相性がいい」

 

WWEはシンプルなスポーツではなく、「ストーリーラインのあるプロレス」だ。アスリート同士のぶつかり合いである一方で、ある種のドラマ性を持つエンタテインメントにもなっている。

 

Netflixは各地域でヒットするドラマを作り、世界に広げることで成功してきた。スポーツにおいても、中継をただ配信するのではなく、「ドラマ」的要素を加味して差別化しようとしているのである。

 

もうひとつおもしろい話がある。

 

NetflixはF1のドキュメンタリー・シリーズである「Formula 1: 栄光のグランプリ」を制作しているが、これも「ドライバーにフォーカスし、どこかプロレス的な演出だ」と批判されることがある。

 

だがこの制作方針は特にアメリカの若者に支持された。過去、ヨーロッパやアジアと比較し、アメリカは「F1不毛の地」とも言われた。その点、「Formula 1: 栄光のグランプリ」はアメリカでF1のブームを起こし、状況を変えた。

 

Netflixは、WWEでは逆の流れを狙う。アメリカ発のスポーツであるWWEを、世界にドラマ性のあるエンタテインメントとして広げようとしているのだ。

 

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