北米ホンダのフラッグシップSUV「Pilot(パイロット)」は、2022年11月に4世代目となる新型が登場(写真:平野 陽)

新型SUVの「WR-V」が話題のホンダ。WR-Vはアジアで開発と生産を行い、日本には輸入して販売する形となるグローバルモデルだ。大きさと価格帯が日本の道路環境や消費指向にマッチしているのも注目されている理由だろう。

北米ホンダのラインナップ


全長×全幅×全高は5077×1994×1800mmで、ホイールベースは2890mm。専用の外装を持つ「TrailSport(トレイルスポーツ)」に関しては全長が5085mm、全高が1830mmだ。3列シートを備え、セカンドシートの仕様に応じて7名乗りか8名乗りとなる(写真:平野 陽)

対して、道幅が広く、ドライバーの体格も大きい北米においては、ホンダもより大きなSUVを販売している。現在、ホンダが北米向けに展開しているSUVで、最も車体が大きいのが「パイロット」だ。ボディサイズは標準グレードで全長が5077mm、全幅が1994mm、全高が1800mm、ホイールベースが2890mm(いずれもインチから換算)。すべてのグレードで3列シートを備え、乗車定員は7名もしくは8名となっている。

ホンダが北米で展開しているSUVは、日本で「ZR-V」として知られる「HR-V」が最も小さく、続いて「CR-V」、「パスポート」、「パイロット」の順でラインナップされている。そして、まもなくパイロットと近い大きさの新型電動SUV「プロローグ」も、2024年モデルとして登場する予定だ。

パイロットの5.0m以上〜5.1m未満の全長は、日本では帯に短し襷に長しなのか、市場の空白地帯になっている。だが、北米ではあくまでミッドサイズにカテゴライズされ、トヨタの「グランドハイランダー」やジープの「グランドチェロキー」、フォードの「エクスプローラー」など、多くのライバルが存在する激戦区。パイロットも過去3世代にわたって一定の地位を築き、着実にセールスを拡大してきてはいるのだが、決してクラストップの実績とは言い難い。


オフロードを意識したグレード「TrailSport(トレイルスポーツ)」は、グロスブラックのフロントグリルなど専用装備も多数備える(写真:平野 陽)

そんな状況を打破すべく、4世代目として2022年11月に現行のパイロットがデビュー。2023年のアメリカ国内での販売台数は11万298台と、まずまず順調な立ち上がりを見せている。今回はそんなパイロットの中でもオフロード走行に適した装備を備え、イメージリーダー的なポジションに位置付けられる「TrailSport(トレイルスポーツ)」を試乗した。

現行パイロットの第一印象


「TrailSport(トレイルスポーツ)」はワンタッチ電動ムーンルーフも標準装備(写真:平野 陽)

第一印象で好感を持ったのは、ディフューズド・スカイブルー・パールという、あか抜けたボディカラー。ディフューズドというとおり、少し彩度は抑え気味なのだが、パールが入っているのでハイライトは明るい。実際、カリフォルニアの青空やネバダの荒野にも映え、撮影のたびにしばし見入ってしまった。

エクステリアデザインはWR-Vともイメージが近く、SUVらしいスクエアなフォルムを採用。シンプルながらもキリリと引き締まった表情が印象的だ。BEVのプロローグも類似したデザインを採用しているので、今後しばらくホンダSUVのデザインは、この路線で行くのかもしれない。


3471ccのV6自然吸気エンジンを搭載。最高出力は285hp(289ps)/6100rpm、最大トルクは262lb-ft(355Nm)/5000rpm(写真:平野 陽)

パワートレインは3471ccのV6自然吸気エンジンと10速ATの組み合わせ。グレード別にFFとAWDが用意されるが、試乗車のトレイルスポーツはAWDのみの設定だ。


「TrailSport(トレイルスポーツ)」は電子制御駆動配分システムのi-VTM4を搭載したAWDを採用(写真:平野 陽)

そのAWDには路面状況に応じて前後駆動配分を最適制御するi-VTM4を搭載。定常走行ではFFとして走る一方、各種センサーが後輪への駆動配分も必要と判断すれば、リヤデフ内部の左右に備わる電子制御可変トルククラッチを作動させる。滑りやすい路面のスリップ抑制や登坂時の後輪駆動配分など、さまざまな状況で優れた操縦安定性を引き出してくれる。


「TrailSport(トレイルスポーツ)」は7つのドライブモードを備え、Normal、ECON、Sport、Snow、Trail、Sand、Towから選択が可能(写真:平野 陽)

最高出力は285hp(289ps)、最大トルクは262lb-ft(355Nm)と十分にパワフルだが、加速の出方は意外と穏やか。とくに登坂時はもう少し機敏に加速してくれた方が日本人好みだと思うが、最大で7つの走行モードから選択できるドライブシステムでスポーツモードを選択すれば、溜飲を下げることができる。

荒野で実力を発揮、絶大な安心感


ネバダ州の荒野を走っていると、ちょうどAmtrakの貨物列車と遭遇した(写真:平野 陽)

全体的に腰高なSUV特有のふわふわした乗り味であることは当然として、パイロットはその中でもとくにソフトな印象。なにごともパキッとしたフィーリングを好む人には向かないと思うが、これはこれでアメリカンSUVらしい味だと感じた。


「TrailSport(トレイルスポーツ)」はオールシーズンタイヤのコンチネンタルTerrainContact A/Tを標準装備(写真:平野 陽)

トレイルスポーツは標準でオールシーズンタイヤを装着している点も見逃せない。試乗車にはコンチネンタルのTerrainContact A/Tが備わり、街中やハイウェイを走るときには大きなブロックに起因するコツコツ感が伝わってくる。


マルチビューカメラシステムを搭載し、ドライブモードでTrailモードを選択した場合は自動表示。周囲の路面をモニターで確認できるTrailWatchと呼ばれる機能だ(写真:平野 陽)

一方で、あえて幹線道路をはずれて未舗装路に踏み出すと、それは絶大な安心感に取って変わった。メーター内のマルチディスプレイに四輪の駆動配分を表示することも可能で、登坂時にしっかり後輪にトルク配分されていることを確認。ドライブシステムでトレイルモードを選択すると、TrailWatchと呼ばれるマルチビューカメラ映像が自動で表示され、目視しにくい路面の状況を把握できる。


アダプティブクルーズコントロールやレーンキーピングアシストを含む、Honda SENSINGも装備。制御も緻密で、非常に実用的だった(写真:平野 陽)

また、日本でもおなじみの安全運転支援システムHonda SENSINGも標準装備されており、もちろんアダプティブクルーズコントロール(ACC)も採用されている。アメリカのハイウェイは日本の高速道路ほど車線がくっきりしておらず、ところどころ薄れたり、実線なんだか破線なんだかわからなかったりすることもしょっちゅう。それでもフロントカメラの性能は優秀で、破線もしっかり認識するほか、ほかのクルマがとなりの車線から割り込んでくる際の減速制御も上手だ。これならば雪山で遊んだ帰路も安心だろう。


オフィスビルが建ち並ぶサンディエゴのダウンタウン。現行パイロットは街中でも、かなり映えるデザインだ(写真:平野 陽)


今回の試乗での平均燃費は19.1mpg(約8.12km/L)だった(写真:平野 陽)

トレイルスポーツの燃費は市街地18mpg(約7.65km/L)、高速23mpg(約9.77km/L)、混合20mpg(約8.50km/L)と発表されている。今回はロサンゼルスを起点にラスベガスやサンディエゴなど、総走行距離にして850マイル(約1368km)以上は走ったが、平均燃費計の値は19.1mpg(約8.12km/L)を示していた。公表燃費と実燃費の乖離が少ないことにも驚くが、撮影機材などを積んでの移動だったので、まあこんなところかなという印象だ。

王道SUV、買うなら並行輸入か?


水平基調のシンプルデザインを採用したインパネ。ギアセレクターは電子制御のスイッチ式だ(写真:平野 陽)


「TrailSport(トレイルスポーツ)」はオレンジのステッチが施された専用レザーシートも装備する(写真:平野 陽)

インテリアの質感は高く、ラゲッジルームも広い。スペーシャスで、ファミリーカーとしての資質が高いことが支持されてきた伝統を、現行パイロットもしっかり引き継いでいる印象である。個人的な意見としては、4世代にわたる歴代パイロットの中で、現行モデルは最もハンサムだと思う。奇をてらわず、SUVの王道を追求したスタイリングは出色の出来だ。


パイロットのラゲージルーム(写真:平野 陽)


ラゲッジルームはサードシート使用時でも実測で460mmの奥行きを確保。サードシートは左右独立で格納することができる(写真:平野 陽)


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メーカーが日本に導入するのを期待するというより、並行輸入してでも人との違いを味わいたい。現行パイロットは、そういった人にこそおすすめしたくなる生粋のアメリカンSUVである。


ローカルの海水浴客で賑わうサンディエゴのビーチにて(写真:平野 陽)

(小林秀雄 : ライター)