揺れ動くデジタル広告、見直される ダイレクトメール
記事のポイント
デジタル広告のターゲティングが困難になる中、ダイレクトメールは質の高いインプレッションを得やすい手段として再評価されている。
郵便物は開封される可能性が高く、デジタル広告よりもユーザーの注意を引きやすい。
QRコードなどのデジタル要素を組み合わせることで、効果測定とアトリビューションが容易になる。
デジタル広告のターゲティングが困難になる中、ダイレクトメールは質の高いインプレッションを得やすい手段として再評価されている。
郵便物は開封される可能性が高く、デジタル広告よりもユーザーの注意を引きやすい。
QRコードなどのデジタル要素を組み合わせることで、効果測定とアトリビューションが容易になる。
長いあいだデジタルマーケティングは、きめ細やかな効果測定、ピンポイントに的を絞ったターゲティング、オフラインマーケティングに比べると低い価格設定で、まさに時代の寵児となっていた。
堅実な成長を見せるダイレクトメール
独立系の広告エージェンシーGS＆FのEVPでインサイト・アンド・エンゲージメント担当ディレクターを務めるララミー・ローソン氏は「唯一変わらないことは変わっていくということだけ、というのはデジタルでも同じ」と話す。「すっかりあたりまえのようになっていた素晴らしいターゲティングの一部は、従来ほど簡単にはできなくなるだろう」。
そこで出番となるのが、ダイレクトメールだ。
現在、デジタル広告費の上昇とデータプライバシー規制の強化で、マーケターや広告主はデジタル戦略の見直しを迫られている。エージェンシー幹部たちはダイレクトメールなど、デジタルの範囲を超えた従来のチャネルを含めた多様化を、すべてのクライアントに提案しているという。
クライアントも提携エージェンシーも、少なくとも今はダイレクトメールにそれほど広告費をかけているわけではないが、その状況は変わり始めている。戦略コンサルティング企業のウィンターベリーグループ（Winterberry Group）の年間米国広告費レポートによると、オフライン広告費が急激な落ち込みを見せる一方でダイレクトメールは堅実に1.5％上昇し、米国の2024年のオフラインマーケティング費のうち382億ドル（約5兆5400億円）を占めることになる。エージェンシー幹部たちは、GoogleのCookie廃止で、ダイレクトメールでメディアミックスをさらに多様化することをクライアントに受け入れてもらいやすくなったと話す。
カルチュラルマーケティング企業のセンシスエージェンシー（Sensis Agency）のプレジデントであるホセ・ヴィラ氏は次のように述べた。「デジタルのレスポンス率が下がり続け、クリックスルー率が下がり続け、CPAも上がり、コンバージョン率も下がり続けるなか、デジタルに対するダイレクトメールの競争力が高まってきている」。
ヴィラ氏によると、広告予算の平均60〜70％強がデジタル広告だが、従来メディアの広告費も増え始めており、特にミレニアル世代の目に留まりたいブランドでそれが顕著に見られるそうだ（広告費の具体的な数字は明かさなかった）。
現実世界の郵便箱は貴重な一等地
本稿に関連して米DIGIDAYが話を聞いた5人の幹部によると、ダイレクトメールに対する関心がもっとも高いのはB2B分野で、そのほかに大規模小売店、住宅、ファッション、金融サービス、保険会社がある。
「実際に目を向けてもらうことが非常に難しくなりつつある場所は多い。特にデジタルな世界ではそうだ」と広告エージェンシー、バダーラダー（Badder Rudder）の最高クリエイティブ責任者、ネド・ブラウン氏は話す。「いいかえると、2、3年前に比べてそのようなもの（ダイレクトメール）を受け入れてもらうことが簡単になってきている」。
エージェンシー幹部たちによれば、現実世界の郵便箱は貴重な一等地だ。家庭や職場に届いた郵便物は、デジタルバナーやソーシャルメディアのスポンサード投稿のようにスクロールされることなく、実際に開封してもらえる可能性が高いため、ダイレクトメールはデジタルキャンペーンに比べて質の高いインプレッションを得られる可能性が高い。デジタル広告市場が込み合ってくるにつれて、ユーザーがデジタルバナーやスポンサード投稿に対して行動を起こす可能性は低くなっていく。幹部たちによると、この騒々しい環境の中で話を聞いてもらう方法の一つが、ダイレクトメールなのだ。
ヴィラ氏の話では、ダイレクトメールのコンバージョン率は1％から5％だ。Shopify（ショッピファイ）によると、eコマースの平均コンバージョン率は約2.5％から3％である。エージェンシー幹部たちは、QRコードのようなデジタル要素を追加することで、効果測定とアトリビューションが容易になると話す。
従来、ダイレクトメールの評判は悪かった。名簿リストは必ずしも簡単に入手できるものではなかった。郵送や印刷の費用を考えると高価でもあったし、デジタル広告に比べると追跡・効果測定も色あせて見える。
広告のシグナルロスという事態で唯一救いといえるのは、ファーストパーティデータが業界のなかで金のごとく価値あるものになったことだ（ファーストパーティデータを売り物にして儲けられることが、リテールメディアネットワークの爆発的な拡大につながっている）。各ブランドが社内データを整備するにつれ、ダイレクトメール用の名簿リストも扱いやすくなるだろう、と幹部たちは話す。
オフラインとデジタルの組み合わせ
同時に、QRコードが再び勢いを取り戻し、米国郵便公社が郵便物追跡に関する技術革新を進めていることで、従来のオフラインチャネルにデジタル要素が追加され、ダイレクトメールの効果測定が得やすくなった。相手がダイレクトメールを受け取ると、マーケターはそのデータを使ってデジタルのリターゲティングができる。ダイレクトメールのキャンペーンをデジタル的な戦術で取り囲み、効果を向上させることができる、というわけだ。
コストに関していえば、ダイレクトメールは悪評を打ち負かすには至っていない。封書タイプの場合、紙代、印刷代、郵送代を合わせ、1通当たり0.50ドル（約74円）かかる。さらにフルサイズのカタログになれば、紙代、印刷代、郵送代で1通当たり0.80ドル（約119円）にはなる、とマーケティング企業のベラルディウォン（Belardi Wong）のプレジデント、ポリー・ウォン氏は語る。
ウォン氏は「ダイレクトメール単独のインプレッションは、メタ（Meta）のインプレッションの30倍から40倍は高価だ」と述べる。「それでもダイレクトメールを選ぶのは、有効な相手に絞れるからだ」。
参考までに、グプタ・メディア（Gupta Media）によれば今年のメタの平均CPMは7.62ドル（約1128円）だ。だがデジタルのコストがじわじわ上がり続けるにつれ、ダイレクトメールのコストとの差は縮まっている、と幹部たちは話す。
とはいうものの、よりバランスの取れたメディアミックスへの移行を受け入れてもらうのはなかなか難しいそうだ。特にマーケティング予算に対する視線が厳しいなかではなおさらで、そうなるとROIなどの指標が極めて重要になる。オフラインの場合はデジタルのような細かいレベルでの追跡情報が入手できないため、クライアントも踏み切れずに躊躇するのだ。
ローソン氏は「クライアントは即座に手ごたえを感じたいがために、ときにデジタル広告からは離れがたく感じる」と話す。「エンゲージメント率、レポートの内容、クリックスルー率などそれらすべてを把握することを望む」。
オンオフ両方の活用が必要
それでもバランスは必要だ、とエージェンシー幹部たちは話す。デジタルマーケティングには課題があるかもしれないが、仮にいつか廃れることがあるにしても、今すぐなくなることはない。
つまり、マーケターも広告主も、デジタル広告がメディアミックス／マーケティングミックスのなかでどのような役割を果たすべきかをあらためて検討し、オンラインとオフラインの両方のチャネルを活用すべきだ、ということだ。これは、少なくとも2023年から議論されている。
「オンラインとオフラインのどちらのチャネルも、経済やビジネス全体の制約を受けながら、広告費を投じるマーケティングミックスの拡大で、同様に控えめの成長を続けるだろう」とウォン氏は話す。「実際、デジタルとオフラインのどちらも成長は一桁台にとどまると思う」。
［原文：In rocky digital advertising landscape, advertisers reconsider direct mail］
Kimeko McCoy（翻訳：SI Japan、編集：分島翔平）
