横顔を眺めながら ーー爪 切男の助手席ドライブ漂流ーー 第3話「ハスキーボイスの彼女」(三菱デリカミニ ✕ 中村真帆)

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おっとりした外観とドスの利いた声。そんなギャップが私をビビらせる”彼女”とのドライブデート。三菱デリカミニのハンドルを握る姿を横目で見ながら、いつしか思いはあらぬ方向へ!? ダメ男的人生を作品に昇華した著作が話題の作家、爪 切男が描く、助手席からのちょっぴり切ないストーリー。

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 とにかくクルマと縁のない人生だった。

 クルマと聞いて一番に思い出すのは、大好きな映画『男はつらいよ』シリーズの主人公「フーテンの寅さん」こと車寅次郎ぐらいなもんである。
「寂しさなんてのはなぁ、歩いているうちに風が吹き飛ばしてくれらぁ」
「どこにいたって、愛がありゃあ、天国なんじゃないの? そういうもんだよ」
 深い意味があるようで、じつはなんとも適当極まりない寅さんの言葉。誰よりも人を愛するが故、誰よりも孤独を愛する寅さんの生きざまは、いつだって私のお手本だった。
 そんな私が今、クルマに興味を持ち始めている。正確に言えば「クルマを運転する女の子ってなんかイイよね」というよこしまな気持ちでしかないのだが。
 昔のバイト先の後輩に幼馴染にと、ここ最近、イイ女が運転するクルマに乗る機会にやけに恵まれた。そんな偶然が重なり、今までいっさい興味が湧かなかった「クルマ好きの女性」への関心が一気に高まっているのだ。まるでエロ漫画のような理由であるが、ときに人生はエロ漫画よりもエロ漫画なのだ。

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 今までのような顔見知りではなく、見ず知らずの女性が運転するクルマに乗ってみたい。そんな男の欲望を叶える魔法のツール。それがマッチングアプリだ。「なんでえ、そんな奇天烈なもんに頼りやがって、情けねえったらありゃしねえ!」と寅さんに叱られそうだが、背に腹は代えられない。



 若いころに使っていた出会い系アプリとは全然違うな……と悪戦苦闘しながらも、プロフィールに「クルマ好き」「ドライブ好き」と書いてある女性に積極的にアプローチ。運よくマッチングした女性と今日初デートを迎えることとなった。
 女性の立場からすると初対面の男とのドライブデートはNGに違いないとばかり思っていたのだが、今回のお相手は快くOKしてくれた。まさか美人局? いや、これぐらい積極的な女の子もたまにはいるだろう。疑念を抱きつつも待ち合わせ場所へと急ぐ。そうさ、私はいつだって自分の下心を信じて生きてきた。

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 下北沢駅の改札近くに佇む彼女。三十四歳の都市銀行勤務、実年齢より十歳以上若く見える童顔がチャームポイントと書いてあったプロフに偽りなし。おっとりした雰囲気とは裏腹に可愛いおへそがチラチラと見え隠れするセクシーな服装がよく似合っている。



「お~い、こっちこっち~!」
 椿鬼奴や内藤やす子を彷彿とさせるハスキーボイスで、彼女が私を呼ぶ。タバコやお酒の飲み過ぎではない、これは神が与えた天性のハスキーボイスだ。今度カラオケに行く機会があったら、大黒摩季や中村あゆみの曲を歌ってもらいたい。
 草食系の皮をかぶった肉食系、アニメ声を発しそうなキュートな風貌から場末のホステスを彷彿とさせるしゃがれ声、天使ではなく悪魔。清潔感溢れる真っ白なシャツの下に、男を誘惑する黒の下着を装着したセクシーアマゾネス。それが彼女だ……っていかんいかん、出会った瞬間から、私の頭の中は卑猥な妄想でいっぱいになるのであった。





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 彼女の愛車は三菱のデリカミニ。フロントデザインが特徴的で、前から見ると犬の顔のように見えてなんともダサかわいい。犬好きの私の心をくすぐる萌えるデザインだ。デリカミニのキャッチフレーズは「かわいいフリしてタフなやつ」、ギャップ萌えが過ぎる彼女にピッタリの一台である。



 本日のドライブは、都心から三浦海岸を目指すコース。ところが天気は生憎の曇天模様、海に着くころにはどうなっていることやら。
「ね、行きはあなたが運転してみる?」と助手席に乗り込む彼女。「いやいや、死にたいの?」とかたくなに首を縦に振らない私。クルマの運転が苦手だと伝えてあったのに意地悪なヤツめ。「つまんな~い、ノリが悪い男はモテないよ」と容赦のない言葉がグサリ。運転ができない男ってやっぱりダメなのか。そういうのはギャップ萌えにはならないのか。





「ね、ランチはどこにする? 三浦に行くのならやっぱりお刺身だよね~、サカナサカナサカナ~♪」とハンドルを握りながら歌い出す彼女。こんなにドスが利いた『おさかな天国』は初めてだ。
「あのさ、俺、生魚が苦手なんだよね」
「………」
 信じられないといった顔でこちらを睨みつける彼女。やっぱりこれもギャップ萌えでは片づかないらしい。







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 いつしか車内の雰囲気はちょっとしたお通夜ムードに。うまくいかないときは何をやってもダメなもので、臨時休業や店内激混みなどの理由で、彼女が目星をつけていたお店は全滅。



「む~、とりあえず海に向かおうか」とクルマを走らせると、マリーナ近くにハンバーガーショップを発見。お店の目と鼻の先に海が広がる絶好のロケーション。たとえ灰色の海だとしても、広大な海を見ながら食べるハンバーガーの味は格別だ。こんな贅沢なハンバーガーの食べ方があったんだなぁ。





「幸せだなぁ、僕はハンバーガーを食べてるときが一番幸せなんだぁ」とぼやく私に「それ加山雄三のつもり?」と突っ込む彼女。ようやく笑顔を見せてくれたね。
「初対面で悪いんだけど、あなた、食べ方汚いね」
「そっちだって結構ヤバいじゃん」
「美味しいもの食べるときはマナーなんてどうでもいいの、恋愛だって行儀よく愛されてもつまんないじゃん」
 ハンバーガーを食べながら恋愛を語るなんて面白い子だ。俺、マジになりそうです。



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「もう少し近くまで行ってみよっか」
 空腹が満たされた私たちは、海岸沿いを目指す。強風に加え小雨まで降り出す最悪のロケーション。停車したクルマの中から荒れ狂う海を静かに眺める私たち。



 大雪や台風の影響で外に出られず、愛する恋人と部屋に引きこもっているとき、あの何ともいえない幸せを感じていたころを思い出す。無性に人恋しくなった私は、いつもの如く助手席にてけしからん妄想に耽るのであった。





「今日はありがとね。ここまでうまくいかないと逆に笑えるね」
 別れ際、彼女はそんなことを口にする。確かに笑うしかない。でも不運もここまで重なれば、それを「運命」と信じてもいいんじゃないか。
「もう一度会って欲しい」
「あ~、うん……まぁ考えとくね、また連絡して」
 彼女の気のない返事から次がないのは明らかだった。素敵なしゃがれ声でハードボイルドにフってくれてありがとう。



 私を置いて走り去るデリカミニのエンジン音。クルマのエンジン音なんてどれも大差ないと思っていたけれど、こんなにせつなく聴こえることもあるんだな。ああ、失恋すると無性にファーストフードが食いたくなる。さっき食べたはずなのに、もうハンバーガーが食いたくて仕方ない。マックとかロッテリアとかモスじゃなくて、スーパーの惣菜コーナーでタイムセールされているパン生地がぺっちゃんこの下品なハンバーガーが食べたい。まだまだ「男はつらいよ」なんて言えない若輩者の私は、ハンバーガーで失恋の傷を癒すしかないのであった。



(※)ストーリーはすべてフィクションです。

<今回の”彼女”=中村真帆 ヘアメイク=渡辺真樹 写真=ダン・アオキ 文=爪 切男>

■今回のデートカー
三菱デリカミニ
Tプレミアム(4WD) 223万8500円

かわいくもタフなデザインが好評なデリカミニ。4WD車はサスペンションを改良し、三菱自慢のグリップコントロールなどで「デリカ」の名に恥じない悪路走破性が自慢だ。



■中村真帆(なかむら まほ)
神奈川県出身。血液型A型。趣味はセルフネイルと料理、美容…あたりは順当だけれど、おっとりした外見とはうらはらに、じつはラーメン好き!? 今回は、三菱のイヌ…じゃなくて、デリカミニの化身たる「デリ丸。」と絡んでもらいましたが、実生活でも大のイヌ好き。実家には、10匹の犬がいるとか!
”彼女”をもっと見たい方は、こちらをご覧ください。
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■爪 切男(つめ きりお)
作家。1979年香川県生まれ。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)でデビュー。同作はドラマ化もされ大きな話題を呼ぶ。現在集英社発のWebサイト『よみタイ』で、美容と健康に関するエッセイ『午前三時の化粧水』を連載中。