「皮膚がんの転移スピード」はご存知ですか?治療法や予防法も解説!【医師監修】

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皮膚がんが転移するのかを知っていますか?
本記事では皮膚がんの治療や転移のスピードについて以下の点を中心にご紹介します。

・皮膚がんとは

・皮膚がんの治療

・皮膚がんの転移の特徴やスピード

皮膚がんの治療や転移のスピードについて理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。

監修医師:
高藤 円香(医師)

防衛医科大学校卒業 / 現在は自衛隊阪神病院勤務 / 専門は皮膚科

皮膚がんとは?

皮膚がんは、皮膚の細胞が悪性に変化して発生する病気です。代表的な種類には、高い悪性度を持つ「悪性黒色腫(メラノーマ)」、日本人に最も多く見られる「基底細胞がん」、カリフラワー状の外見を持つ「有棘細胞がん」、そして陰部や脇下に発生する「乳房外パジェット病」があります。
皮膚がんは紫外線の影響によって発生する可能性が考えられており、特に肌の色素が少ない人種に多い傾向があります。日本では高齢化に伴い皮膚がんの発症件数が増加しており、年間約3万人が新たに診断されています。これは10年前の約2倍以上です。

皮膚がんの種類

皮膚がんにはさまざまな種類があり、それぞれ特徴が異なります。以下で解説していきます。

有棘細胞癌

有棘細胞癌は、皮膚の表皮にある有棘層の細胞から発生する皮膚がんの一種です。有棘細胞癌は、紫外線の影響や治癒しない湿疹などが原因で発生することが多く、特に顔の突出部分(頭部、鼻、耳、唇、まぶた)にできます。有棘細胞癌はしばしば、赤みを帯びた湿疹のような外見を持ち、時に独特の臭いを伴うことがあります。基底細胞癌に次ぐ2番目に多い皮膚がんとされており、早期の適切な治療により治癒が可能なケースも多いとされています。
治療可能な前癌病変段階では、皮膚が乾燥して粗くなる症状が現れます。治癒しない湿疹や慢性的な肌の変化が長期間続く場合は、医療機関を受診することが重要です。

基底細胞癌

基底細胞癌は、皮膚がんの中で多く見られるタイプの一つです。基底細胞は主に皮膚の基底層にある細胞から発生し、しばしばほくろのような外見を呈しますが、青黒く、表面に特徴的なろう質の光沢が見られます。多くは顔面、特に眼瞼や鼻などに好発し、高齢者に多く見られます。
紫外線、外傷、放射線治療の後遺症、やけどの痕などが原因となることがありますが、明確な原因はまだ完全に解明されていません。基底細胞癌は、他の種類の皮膚がんより転移する確率が極めて低いとされていますが、適切な治療が行われない場合、腫瘍は周囲の組織へと浸潤し、場合によっては筋肉や骨にまで及ぶことがあります。

悪性黒色腫(メラノーマ)

悪性黒色腫はメラニン色素を生成するメラノサイト細胞が悪性化した皮膚がんで、皮膚がんの中でも特に悪性度が高いとされています。日本では年間100万人あたり約10~20人が悪性黒色腫と診断されており、高齢者に多く見られます。
悪性黒色腫の原因はまだ完全には解明されていないものの、紫外線や皮膚への継続的な摩擦や圧迫などの外的刺激が関係している可能性が指摘されています。
悪性黒色腫は、不規則な形状のホクロやシミ、爪の中にある黒い筋など、特異的な外見を呈することがあります。悪性黒色腫は、手のひらや足の裏、爪、顔、胸、腹、背中や眼球や口腔などの粘膜など体の多くの部位に発生する可能性があります。
悪性黒色腫は小さな状態でも転移するリスクが高いため、ほくろとの区別が難しい場合でも、早期の医療機関での診断と治療が求められます。

乳房外パジェット病

乳房外パジェット病は、皮膚がんの一種で、主に高齢者に見られます。乳房外パジェット病は主に外陰部や肛門周辺に発症し、原因は明らかになっていませんが、汗管起源の細胞が癌化することが考えられています。病変は、しばしばかゆみを伴う湿疹のような外観を呈し、徐々に拡大していきます。痛みがないため、また病変が発生する場所が恥ずかしいと感じるために、多くの患者さんが広範囲に病変が拡大した後に医療機関を受診する傾向があります。

皮膚がんの診断・検査

皮膚がんが疑われる場合に、どのような診断や検診がされるのでしょうか?以下で解説していきます。

視診・ダーモスコピー検査

皮膚がんの診断には、ダーモスコピー検査が重要な役割を果たします。ダーモスコピー検査では、皮膚の色素分布、血管のパターンなどを詳細に観察し、表皮下の細かい構造を詳細に観察します。ダーモスコープは光を皮膚に当てることで、表皮下の細かい構造を10倍程度に拡大して見ることができます。
特に悪性黒色腫や基底細胞がんなど、特定の皮膚がんの初期診断に役立ちます。ダーモスコピー検査は、皮膚がんの疑いがある場合に、特徴的なサインを見つけるために行われます。

病理組織検査(皮膚生検)

皮膚がんの最終診断において、病理組織検査(皮膚生検)は重要な役割を果たします。この検査では、局所麻酔を施し、皮膚の疑わしい部位から一部の組織(部分生検)や腫瘍全体(全摘生検)を採取します。特に、悪性黒色腫の疑いがある場合は、可能な限り全摘生検が行われることが多いです。また、皮膚の深部に病変が存在する場合には針生検が適用されることもあります。
採取された組織は、顕微鏡を用いた詳細な検査によって、がん細胞の存在やその種類、進行度などを精査するために用いられます。この結果から、皮膚がんのタイプ、悪性度、治療法の決定などが行われます。生検は、皮膚が体表に近いため容易に実施でき、患者さんにとっては侵襲が少ない検査方法です。ただし、検査結果が出るまでには1~2週間以上の時間がかかることもあります。

画像検査

画像検査は、皮膚の深いところに存在する病変の診断に重要な検査です。超音波、CT、MRIなどを行い、これらの検査は、病変の周辺の明瞭さや、形状などを診断できます。
病変が進行している場合、リンパ節転移や遠隔転移が見られることがあります。それらの診断には、超音波、CT、PET-CTなどの検査が使用されます。画像検査によって、病変の位置、大きさ、形状、そして進行状況を詳しく調べられます。

皮膚がんの治療

皮膚がんの治療は、種類や進行度に応じて異なります。以下で解説していきます。

手術

皮膚がんの治療では、転移がない場合、手術による切除が第一選択とされています。手術は、単に表面の腫瘍を取り除くだけでなく、周囲の正常に見える組織も含めて、がん細胞が浸潤している可能性がある部分も切除します。この処置は、腫瘍の根本的な除去を行い、再発のリスクを減少させるために重要です。

薬物療法

皮膚がんの治療における薬物療法は、進行がんや外科治療が困難な症例に対して重要な選択肢となります。この治療法は主に以下の3種類に分けられます。

化学療法: 伝統的な抗がん剤を使用し、がん細胞を直接攻撃します。有棘細胞がんや血管肉腫などの皮膚がんがこの治療法の適応となります。

免疫チェックポイント阻害薬: 悪性黒色腫の治療に効果が期待できます。この薬はがん細胞を直接攻撃するのではなく、患者さん自身の免疫システムががん細胞を攻撃するのを容易にします。長期的な治療効果が期待できる一方で、免疫系に関連する副作用があることが特徴です。

分子標的薬: 特定の遺伝子変異を持つがん細胞に対し、特異的に高い効果が期待できる治療薬です。悪性黒色腫ではBRAF/MEK阻害薬、血管肉腫ではマルチキナーゼ阻害薬(パゾパニブ)、皮膚悪性リンパ腫ではHDAC阻害薬(ボリノスタット)などが使用されます。

薬物療法は、遺伝子検査の進歩により、それぞれのがんの特性に合わせた治療が可能になってきています。

放射線治療

放射線療法は、高エネルギー放射線を体外からがん細胞に直接照射し、これを死滅させることでがんの進行を抑制します。特に、手術が困難な場合で手術が望ましくないと判断された皮膚がんに対して適用されることがあります。
主に基底細胞がん、有棘細胞がん、メルケル細胞がんの治療に用いられ、これらの皮膚がんに対しては、特に高齢者や重篤な合併症を有する患者さんに対して放射線治療が選択されます。また、手術後にはリンパ節への再発予防や手術範囲の周囲への追加治療としても行われます。
血管肉腫のような特定の皮膚がんでは、小さい腫瘍を除いて手術が行われず、放射線治療と化学療法が併用されます。放射線療法の副作用には、照射部位に発生する皮膚炎、脱毛、粘膜炎などがあります。
悪性黒色腫においては、初期の腫瘍治療に放射線療法は使用されませんが、脳転移や骨転移に対して行われる場合には高い症状改善効果が期待されます。放射線療法は、治療計画に応じて適切に実施されることで、多くの皮膚がん患者さんの治療に重要な役割を果たしています。

皮膚がんの転移の特徴やスピード

皮膚がんの転移は特徴や進行速度が異なるのでしょうか?以下で解説します。

基底細胞癌の転移

基底細胞がんは、転移する可能性は非常に低いとされています。約85%の症例が2cm以下の大きさで発見され、多くは外科手術により治療されます。基底細胞がんは、皮膚の深い層への浸潤は起こりますが、リンパ節や内臓への転移は約0.5%と非常にまれです。
初期に適切に治療されれば、予後は良好ですが、放置すると皮膚だけでなく筋肉や骨を破壊し、深部へ進行します。局所再発が見られる場合、周囲の組織への浸潤が進む恐れがあるため、十分な切除範囲を確保した手術が重要です。

有棘細胞癌の転移

有棘細胞がんは、腫瘍の角化傾向によって分化度が異なります。角化傾向の少ない未分化腫瘍は悪性度が高く、再発や転移を起こしやすいとされています。結節や潰瘍を形成し、大きくなると特有の悪臭が発生することがあります。
放置すると徐々に大きくなり、最終的には内臓やリンパ節への転移を引き起こすことがあり、これにより治療が複雑かつ困難になることがあります。

悪性黒色腫(メラノーマ)の転移

悪性黒色腫(メラノーマ)は、皮膚がんの中でも特に悪性度が高く、進行は非常に速いです。初期段階であっても、早期に他の臓器へ転移する傾向があります。メラノーマの兆候には、中央部分の潰瘍化、腫瘍の盛り上がり、サイズの増大などがあります。
日本人では特に足の裏に発症することが多いため、足の裏に以前にはなかったホクロが出現した場合には特に注意が必要です。初期治療から長年後に再発や転移を起こすケースも報告されており、患者さんの長期的な経過観察が重要です。

乳房外パジェット病の転移

乳房外パジェット病は、進行するとリンパ節や内臓、骨に転移する可能性があります。リンパ節転移を起こすと、抗がん剤や放射線治療に対する抵抗性を示すことが多く、その結果、治療が難しく予後が悪化することがあります。
特に骨への転移がある場合、激しい疼痛を引き起こすことがあり、患者さんの生活の質に大きな影響を与えます。年齢が高い患者さんでは、乳房外パジェット病はより進行しやすいとされており、特に70歳以上の高齢者においては、その悪性度と治療への抵抗性が顕著です。
近年では治療法の開発により、徐々に予後が改善している傾向にありますが、早期発見と迅速な治療開始が重要であり、定期的な皮膚検診の必要性が高まっています。

皮膚がんについてよくある質問

ここまで皮膚がんを紹介しました。ここでは皮膚がんについてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

皮膚がんのステージを教えてください。

高藤 円香医師

皮膚がんのステージは、他のがんと同様に進行度に基づいて分類されます。以下のようなステージ分類があります。

ステージI: この段階では、腫瘍は皮膚の表面近くに局所化しており、2mm以下の厚さです。潰瘍の有無は考慮されません。

ステージⅡ: このステージには複数のサブカテゴリがあります。例えば、ステージIIAでは腫瘍の厚さが1~2mmで潰瘍があるか、2~4mmで潰瘍がない場合に分類されます。IIBとIICでは、腫瘍の厚さが4mm以上で、潰瘍の有無によって分けられます。

ステージⅢ: ここでは、腫瘍の厚さにかかわらず、リンパ節への転移や皮膚への局所転移が発生しています。

ステージⅣ: 一番進行した段階で、腫瘍が内臓などへの遠隔転移を起こしています。

ステージが進むにつれて、治療の複雑さや必要性が増加します。初期段階では局所切除だけで十分なことが多いですが、進行するとリンパ節郭清術や化学療法、放射線治療などの集学的治療が必要になることがあります。早期発見と適切な治療が重要で、特に遠隔転移が発生するステージⅣでは治療がより複雑になり、予後も悪化します。

皮膚がんの予防法はありますか?

高藤 円香医師

皮膚がんの予防には、紫外線対策が非常に重要で、以下の方法が推奨されています。

日焼け止めの使用: 強い日差しの中での長時間の外出時は、適切な日焼け止めを使用しましょう。肌に合った製品を定期的に塗り直すことが大切です。

保護服の着用: 日傘や帽子、長袖の服を着ることで、直接的な日光の暴露を避けられます。

日陰を利用: 屋外での活動時は、可能な限り日陰を利用することを心掛けましょう。

ピークタイムを避ける: 日差しが最も強い時間帯(正午前後)は外出を避けるか、必要な場合は特に注意を払いましょう。

定期的な皮膚チェック: 自身の皮膚の変化に注意を払い、定期的に皮膚の状態をチェックすることも予防に役立ちます。怪しい変化や新しい痣(ほくろ)があれば、早めに皮膚科医に相談することが大切です。

これらの予防策を意識して行うことで、将来的な皮膚がんのリスクを減らすことができます。

まとめ

ここまで皮膚がんは転移するのかについてお伝えしてきました。皮膚がんは転移するのかについての要点をまとめると以下のとおりです。

⚫︎まとめ

・皮膚がんは、皮膚の細胞が悪性に変化して発生する病気のこと

・転移がない場合は「手術による切除」、進行がんや外科治療が困難な症例の場合は「薬物療法」、手術が望ましくないと判断された場合には「放射線治療」が行われる

・皮膚がんの転移は特徴や進行速度が異なるが、早期発見と治療が非常に重要

皮膚がんと関連する病気

皮膚がんと関連する病気は2個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法などの詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

皮膚科の病気

ボーエン病

メルケル細胞がん

具体的な症状や治療法については、担当の医師と相談しましょう。

皮膚がんと関連する症状

皮膚がんと関連している、似ている症状は9個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

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これらの症状が持続する場合、または新たにあらわれた場合、医師の診察を受けることが大切です。

参考文献

日本医科大学 武蔵小杉病院

岩手医科大学附属病院 がんセンター

九州大学病院 がんセンター