「探偵!ナイトスクープ」局長2代目の西田敏行と3代目の松本人志(写真:共同)

ダウンタウン松本人志の活動休止に伴い、さまざまなレギュラー番組が対応に追われている。そんな中、私がいちばん気になっているのは、朝日放送テレビ『探偵!ナイトスクープ』(以下「ナイトスクープ」)で松本を継ぐ新局長は誰かということだ。

ナイトスクープとは、1988年から放送されていて、1993年には最高視聴率32.2%(関西地区)を獲得した、大阪朝日放送テレビの人気長寿番組である。

「局長」とは、番組のメインMCであり、番組内にある「探偵局」のリーダー的存在だ。これまでの変遷は、初代:上岡龍太郎(1988年〜2000年)→2代目:西田敏行(2001年〜2019年)→3代目:松本人志(2019年〜現在)。この3人、毛色がまったく違う。むしろ、毛色の変化によって、番組としての鮮度を維持してきたともいえる。

そんな中、松本人志の活動休止が決定。報道では、1月は昨年に収録済みのものを通常通り放送し、2月放送分からは、探偵のレギュラー出演者(間寛平、カンニング竹山ら)が「局長代行」を務めるというが、しかしいつかは「新局長」を決めなければならない。

というわけで今回は、次期局長には誰がいいのかを考えてみたいのだが、具体的人選を考える前に、その前提となる番組としての素晴らしさを先に確認しておく。

ナイトスクープの魅力の本質

今年で36年目を迎えるが、視聴者から来た「依頼」に対して、探偵とその視聴者が一緒に「調査」をして究明する(だけ)という、番組フォーマットは基本変わっていない。つまり番組の企画そのものが魅力的だったと言わざるをえない。

では、そんなナイトスクープの魅力の本質とは何か。「笑い」と「知性」、そして「人間愛」だと私は答えたい。この三大栄養素が詰まっている完全栄養食だからこそ見たいし、家族に見せたい番組になる。

まず「笑い」はいうまでもないだろう。少なくとも私の感覚では、今のどんなお笑い番組よりも笑いの総量が大きい。

そんな「笑い」量産の背景にあるのは「依頼の量と質の充実」だと思う。

そもそも多くの依頼者が、ちゃんと笑える(泣ける)ポイントをしっかりと計算した依頼を送ってくる。いわば「依頼者総放送作家体制」が強固に出来上がっている。

「アホ・バカ分布図」という大発見

「知性」は、この番組が全国的な評判を得るきっかけであり、1991年の日本民間放送連盟賞テレビ娯楽部門最優秀賞を受賞した「アホ・バカ分布図」に象徴される。

大阪(アホ)と東京(バカ)の間で、どこに「アホとバカの境界線」があるかを調査していくと、「アホ」と「バカ」の間に「タワケ」の領域があることが判明。さらに念入りに調べていくと、京都を中心として「アホ」「アヤカリ」「アンゴウ」「バカ」「ウトイ」「トロイ」「タワケ」などの言葉が京都から同心円状に広がっていることが判明したのだ(つまり当時の都=京都で流行った言葉が、段階的に全国へと波及していく構造)。

「知性」に言葉を補足すると、もしかしたら今世間にもっとも欠けているかもしれない「実証主義的知性」となる。今やネットですべてわか(った気になれる)時代だ。しかしナイトスクープは、丁寧に取材や実験という「実証」をていねいに積み重ねる。だからこそ、その結果として、「アホ・バカ分布図」のようなとんでもない大発見に行き着いた。

「人間愛」の例証については、比較的新しいネタとして、関西地区1月12日放送分の依頼『憧れの「ギャル」になりたい』をご紹介したい。

学生時代にいじめや不登校を経験、専門学校も2日で辞めて、心の病と闘いながら生きている19歳の女性から、自分を持ってポジティブに見える「ギャル」になりたいという依頼が来て、探偵のゆりやんレトリィバァとともに「ギャル」の1日を満喫するというだけの調査だったのだが、これが泣けた。

根本にあるのは、いじめ・不登校で社会からの疎外感を感じている依頼者へのあたたかく優しい目線、つまりは「人間愛」だったと思う。

「依頼を受けて調査する」という同種の番組は珍しくないが、「人間愛」が根幹に置かれている(それも、決してお涙ちょうだいだけにならず「笑い」や「知性」と両立しながら)ところが、番組としての本質的な差別化になっていると思うのだ。

新局長候補を3カテゴリで考える

前置きが長くなったが、以上の前提の上で、新局長を考えたい。このテレビ史に残る名番組を背負う重要な役割を背負えるのは誰か。先に挙げた番組の魅力の維持拡大を願う視点から考えてみる。

先の「笑い」「知性」「人間愛」――これは局長の変遷と見事に重なる。

インテリジェンスにあふれ、ネタと探偵を批評する上岡龍太郎は「知性」寄り。人間味にあふれ、ネタと探偵に笑い泣く西田敏行は「人間愛」寄り。お笑いセンスにあふれ、ネタと探偵からの笑いを広げる松本人志は当然「笑い」寄り。この視点から、

(1)上岡龍太郎後継「知性が光るインテリ枠」

(2)西田敏行後継「人間味にあふれた俳優枠」

(3)松本人志後継「笑いを生み出す芸人枠」

という3カテゴリで考えてみる。それぞれの方向性の詳細を以下の表にて示しておく。


(1)「知性が光るインテリ枠」

昨年5月に上岡龍太郎が亡くなった。特に関西の芸能界において、後継がいない感じがするのだが、そんな中で考えれば、関西出身ということで松尾貴史はどうだろうか。

あの独特の語り口や切れ味は、上岡龍太郎に通じるものがある。また、オカルトネタに激怒して番組収録を途中退席するような上岡の反骨精神も継いでいる。若い探偵と馴れ合わず、鋭くツッコミを入れる上岡的な探偵像を期待したいと思う。

探偵からの内部昇格枠はありか

(2)「人間味にあふれた俳優枠」

もう36年も経つのだから「探偵からの内部昇格枠」があっていいと思いながら、例えば現役探偵の間寛平や石田靖は、局長というより「生涯一現役探偵」という感じがする。

そこで「人間味にあふれた俳優枠」×「内部昇格枠」として、生瀬勝久はどうか。実は彼、あまり知られていないが初代探偵の1人だったのだ(当時の芸名は「槍魔栗三助」=やりまくり・さんすけ)。

初回放送で話題となった「カーネル・サンダースを救出せよ」(1985年の阪神優勝のとき、道頓堀に投げ込まれたカーネル・サンダース人形を探す印象的な調査)を手掛け、知名度だけでなく実績(?)も十分。同じく兵庫県出身ながら、松本人志からの変化感もあり、適任だと思う。

(3)「笑いを生み出す芸人枠」

ここがいちばん難しい。松本人志の後ということで、尻込みする人も多いかもしれない。なので複数提案させていただきたい。

まずは漫才ではなく、上方の落語家を選ぶという発想はどうか。思い付くのは桂米團治。人間国宝の3代目桂米朝の息子でもあり、格としては十分だ。ただ、すでに65歳ということなので、若返りという意図を加えると、関西で人気の落語家・桂吉弥もあり得よう。年齢は52歳。

それでも漫才系でとなるのなら、朝日放送らしく「M-1グランプリ枠」として捉えた上で、第2代王者・ますだおかだの増田英彦(53歳)はどうか。先述の「インテリ枠」に通じる冷静さや、独特の清潔感は、番組本来のカラーに合っていると思う。

以上3カテゴリ以外の「その他枠」として、時代の流れを受けて「女性局長」にするのはどうだろう。上沼恵美子だと別の番組になってしまいそうなので(笑)、「最高顧問」に落ち着いていただいて、藤山直美、キムラ緑子、アンミカあたりを局長に据えるとか。あと、超飛び道具としては、番組ファンを公言し、顧問として2回出演しているビートたけしとか――妄想は広がる。

「笑い」「知性」「人間愛」は関西文化の本質

「笑い」「知性」「人間愛」を行きがかり上、ナイトスクープ独自の魅力として語ったが、本来この3つは関西発の番組、ひいては関西文化の本質といっても良かろう。

それがいつのまにか、大阪/関西といえば、「笑い」ばかりがクローズアップされ、「知性」「人間愛」の代わりに、下品さ、粗暴さ、関西弁でいう「えげつなさ」が付随するようになってしまった。

そんな中、「笑い」「知性」「人間愛」を36年間振りまき続けたナイトスクープは、大阪出身者(私)として数少ない誇りだ。新局長就任を契機に、この3つの魅力トライアングルを固め直してほしい。そして――迷ったら変化度が大きい選択をしてほしい。それが本来のナイトスクープらしさだと思う。

(スージー鈴木 : 評論家)