●“低リスク戦略”がさらに進む

新年最初の3連休が終わって、年末年始のムードは終了。テレビ番組も、ほぼ通常の編成に戻り、レギュラー番組が放送されている。

あらためて年末年始のゴールデン・プライムタイム特番を振り返ると、年末は『第65回輝く!日本レコード大賞』(TBS)、『第74回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)などがネット上で賛否の声を集め、年始は能登半島の地震、羽田空港の航空機事故の影響をモロに受けた。

そんな今回の年末1週間と年始1週間の特番全体では、どんな傾向が見られたのか。テレビ解説者の木村隆志が、3つの傾向と、その背景を掘り下げていく。

NHKと民放キー局5社

○さらに一歩進んだ“低リスク戦略”

やはりというべきか、年末年始を通してレギュラー番組の長時間特番が多くを占めていた。

年末定番の『踊る!さんま御殿!!』『ぐるぐるナインティナイン』(日本テレビ)、『アメトーーク!』(テレビ朝日)らだけでなく、年始も地震の影響で放送延期されたものの、新たに『上田と女が吠える夜』(日テレ)、『バナナサンド』(TBS)が元日ゴールデンのメインに編成。恒例の警察特番や映像集特番も含めて、「既存の視聴者層がいる上に、キャストやセットなどで制作費が削減できる」という“低リスク戦略”が、さらに進んだ感があった。

もう1つ、低リスク戦略で象徴的だったのが帯番組の特番。25日の『ぽかぽかゴールデン』(フジテレビ)、26日の『ゴールデンラヴィット!』(TBS)、27日の『羽鳥慎一モーニングショー 2023年 世間をザワつかせたニュース100連発!』(テレ朝)、さらに帯番組ではないが『ワイドナショー年末ゴールデン生放送SP』(フジ)も含め、視聴者に「1年を締めくくる年末特番」という制作意図が伝わりやすい番組の編成が目立った。

ゴールデン・プライムタイムの「この時期しか放送されない純粋な年末年始特番」と言っていいのは、27日の『SASUKE』(TBS)、30日の『第65回輝く!日本レコード大賞』、31日の『第74回NHK紅白歌合戦』、『笑って年越し! THE笑晦日』(日テレ)、1日の『芸能人格付けチェック! 2024お正月スペシャル』(ABC制作・テレ朝)、『ドリーム東西ネタ合戦2024』(TBS)、『有吉弘行のプライベートジェット爆食ツアー』(フジ)、2日の『夢対決2024 とんねるずのスポーツ王は俺だ!!』(テレ朝) 、3日の『さんま玉緒のお年玉! あんたの夢をかなえたろかSP』(TBS)くらいだろう。

一方で寂しさを感じさせられるのが、“新しい純粋な年末大型特番”が見当たらなかったこと。「レギュラー番組の中に恒例の年末年始特番が少し混じっている」というレベルに留まり、テレビフリークですら年末年始らしいムードを感じづらかったのではないか。

●M-1、箱根駅伝、WBCの大型特番も

また、象徴的だったのが、年末の超人気コンテンツ特番化と、年始のスペシャルドラマ量産。

まず年末は、25日の『M-1ネクストデイ〜王者誕生までの舞台裏〜』(ABC制作・テレ朝)、30日の『箱根駅伝 伝説のシーン表と裏』(日テレ)、31日の『WBC2023 ザ・ファイナル』(TBS)を放送。「最高峰のテレビコンテンツであるM-1、箱根駅伝、WBCでもう1つ特番を作ろう」という制作費と視聴率を踏まえた現実的な戦略が見られた。

一方で年始は、1日の『相棒 season22 元日スペシャル』(テレ朝)、2日の『義母と娘のブルースFINAL2024年謹賀新年スペシャル』(TBS)、3日の『侵入者たちの晩餐』(日テレ)、『松本清張 二夜連続ドラマプレミアム 第一夜「顔」』(テレ朝)、4日の『松本清張 二夜連続ドラマプレミアム 第二夜「ガラスの城」』(テレ朝)と5作のスペシャルドラマを放送。

さらに、3日に『Dr.コトー診療所』(フジ)、6日に『イチケイのカラス』(フジ)と“ドラマの劇場版が地上波初放送”された。いずれもネット上の評判は上々だったことを含め、「ここ2年弱、連ドラの放送枠が増え続けている」という勢いが年始に及んでいるのかもしれない。

元日放送予定だった『ドリフに大挑戦! ドリフ結成60周年爆笑大新年会SP』は11日に順延 (C)フジテレビ

○年始の「初笑い」ではフジが奮闘

最後にもう1つ挙げておきたいのは、年始を問わず、音楽系特番の存在感が増していること。

12月は序盤から各局が大型音楽特番を競い合うように放送しているが、最終週にも26日の『発表!今年イチバン聴いた歌 年間ミュージックアワード2023』(日テレ)、28日の『オールスター合唱バトル 年末3時間SP』(フジ)、30日の『熱唱!ミリオンシンガー 奇跡の神声トップ50SP』(日テレ)が放送され、もちろん『レコ大』も『紅白』もあった。

年始にも4日の『新ドラマ俳優対抗 クイズドレミファドン!』(フジ)、5日の『〜アーティスト別モノマネ頂上決戦〜俺にアイツを歌わせたら右に出るものはいない』(TBS)などを放送。

このほかにも、26日に『バナナサンド』(TBS)「ハモリ我慢大賞2023! 年間No.1珍歌唱が決定3時間SP」、29日に『オオカミ少年』(TBS)の「ハマダ歌謡祭 紅白歌合戦3時間SP」、7日に『千鳥の鬼レンチャン』(フジ)の「夢のタッグモード!新春3時間SP」と、レギュラー番組の音楽コーナー特番も量産された。現時点では、「民放各局が求めるコア層(主に13〜49歳)の個人視聴率獲得が最も期待できるのが音楽系の特番」ということなのだろう。

ちなみに年始らしいお笑い番組は、1日の『ドリフに大挑戦! ドリフ結成60周年爆笑大新年会SP』(地震報道で放送されず)、2日の『お笑いオムニバスGP2024』、『千原ジュニアの座王』(カンテレ制作)と、1日朝から午後にかけての『第57回新春!爆笑ヒットパレード2024』も含めてフジの意識が高かった。昭和・平成の年始特番を知っている人ほど、「もう少し“初笑い”をフィーチャーした特番が多くてもいい」と感じたのではないか。

2023年から2024年の年末年始特番で見られた主な傾向は、「レギュラー番組中心の低リスク戦略」「年末の超人気コンテンツ特番化と、年始のスペシャルドラマ量産」「音楽系特番の存在感アップ」の3点。これらの背景には、人・時間・金における各局の苦しい台所事情がうかがえる。

しかし、だからこそ昨夏のドラマ『VIVANT』(TBS)がそうだったように、1つでもしっかり予算をかけた新たな大型コンテンツがあれば、大きなアドバンテージを得られるチャンスにも見えた。

木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら