駿河台大学は2年ぶり2度目の箱根出場を果たした。悲願の初出場を果たした98回大会では、優勝争いの裏で、監督として箱根路に戻ってきた徳本一善、中学校の教員を休職して箱根を目指してきた今井隆生から教え子・永井竜二への襷リレー、つなぎ切った襷を肩にかけガッツポーズでフィニッシュしたキャプテン・阪本大貴の姿が話題になった。その98回大会のあと、チームには思わぬ反動があった--

「目標は襷を途切れさせずにつなぐこと、そして楽しむこと」。98回大会は初出場を決めた上昇気流に乗って、楽しみ尽くした。駿河台旋風に、周囲もかつてないほどの盛り上がりを見せた。しかし、祭りが賑やかだった分だけ、あとの静けさが虚しくなった。終わってみれば、次の目標が見えなくなった。チームが陥った燃え尽き症候群だった。
チーム内の規律は乱れ、次第に結果は出なくなっていった。その時の箱根予選会は19位、本戦出場には到底届かなかった。

その雰囲気を変えるべく、立ち向かってきたのが新山舜心キャプテン(4年)だ。「箱根を目指せないなら、お前、辞めたほうがいい」と、退部者が出ることをいとわず、文字通り身を切ってチームを律してきた。その方針に合わずに最終的には20人近くが退部、残った4年生は6人にまで減った。

新山が、こうチームに話したことがある。「こんなんなら箱根予選会には出ない方がいい」。
全日本大学駅伝選考会18位という結果を受けてのものだった。18位は20チームが参加した中で2校が失格、つまり順位が付いたチームの中では最下位という結果だった。「このままで箱根に出られるのだろうかと……。どうせ出ても負けるなら、出る意味ないんじゃないかと」、一時はそう考えたそうだ。

思いとどまらせたのは同じ寮に住むメンバーとの日々だった。
「同じ寮に住んでいる1軍の選手は、本当に陸上が好きな選手が多くて。去年の予選会や、箱根に初出場したときの予選会、本戦をテレビで流しながらご飯を食べていたんですけど、その中でですね」
やはり目指すべき場所はここ箱根路だと再確認して、気持ちを立て直した。

これまでキャプテンを辞めたいと思ったことは一度や二度ではない。予選会の2ヶ月前、8月になってもなお徳本監督に辞めたいと訴えたそうだ。そのことを徳本監督は、もはや懐かしそうに振り返った。
「新山はキャプテン気質でもないし、キャプテン失格だって何度も言いましたよ。でもその中で、なぜそう言われるのかを考えるようになって成長してきた。(辞めると言ったときは)『お前の気持ちと一緒だよ。チーム投げ出したいよな。でもな、ここで逃げたら終わりだぞ。俺も逃げねぇから、こんなチームでも最後までやるから、お前もやってくれ』と」
何度もぶつかりながら、お互いを理解し、成長してきた。徳本監督は新山を「運命共同体」だと言い切る。

新山に「襷とは?」と問うとこう返ってきた。

「箱根の襷は4年間の青春だなって思います。ずっと見てきた箱根駅伝の襷……4年間それに向かって走り続けたその青春が襷です」

4年間、苦しいことの方が多かった。それでも逃げずに向き合ってきたから、掴み取ることができた。4年間の想いを込めて走る最後の箱根路。新山がつなぐアクアブルーとブラックの襷は駿河台大学を箱根常連校にする礎だ。