<BLドラマの主演になりました>愛重め男子と、自己肯定感低め男子。BLに欠かせぬ二大要素をフル装備
<ドラマ『BLドラマの主演になりました』レビュー 文:横川良明>
愛重めの男子が登場するBLほど滋養強壮にいいものはない。
好きな人のことを猛然と語り、その存在を神のごとく称え、あらゆる外敵から全力で守り抜く。何があってもブレない愛に、私たちの胸は高鳴るのだ。
そういう意味でも、12月24日(日)にTELASAにて第1話が配信されたドラマ『BLドラマの主演になりました クランクアップ編』は、ウナギの蒲焼きくらい栄養価が高い。見るだけで一発で疲労回復する。
なぜなら、この物語の主人公・赤藤優一郎(阿部顕嵐)はガチの愛重め男子だから……!
◆阿部顕嵐のガチオタっぷりを愛でよ
ネクストブレイク俳優第1位として人気を集める赤藤が激しめの愛を向けるのは、同じ俳優の青柳萌(阿久津仁愛)。
ただし、赤藤と違い、青柳は子役時代に瞬間風速的に注目を浴びるも、今は脇役止まりのパッとしないポジション。でも、そんな世の評価は赤藤には関係ない。
だって赤藤にとって、青柳は目にするだけで網膜が焼失するレベルに眩しく愛らしい存在だから。そんな赤藤のガチオタっぷりにニヨニヨすると同時に、「この台詞、普段私が推しに思っていることやん…」「お前は俺か」と同志を見るような気持ちになる。
特に、青柳の前で、こっそりパーカーの下に青柳Tシャツを着ているところは、握手会のときのオタクそのもの。しかも、そのTシャツがどう見ても公式のものではなく、赤藤の自作であるところにテンションが上がる。
おそらく地味系俳優の青柳では、グッズをつくったところで採算がとれないと見込まれているのだろう。パンがなければケーキを食べればいいし、供給がないなら自分でつくればいい。赤藤のオタクとしてのあり方が自給自足すぎてオタクの鑑。
(ちなみにアクスタも当然自作です。たぶん赤藤は推しの高画質データを常に求めているタイプのオタク)
ただし、赤藤が青柳のガチオタであることは青柳本人にはシークレット。赤藤自身も、推しを前にすると緊張のあまり対応が塩になるタイプのオタクなので、無意識にそっけない態度をとってしまい、むしろ青柳は赤藤から嫌われていると勘違い。このすれ違いこそが本作の面白さだ。
それを阿部顕嵐がフルスロットルで演じてくれているので、キュンの神だけでなく、笑いの神も完全降臨している。阿部の涼しげな目元は、一見するとクールで近寄りがたい。青柳がビビるのも無理のない話です。
が、青柳の見ていないところでは、うっとりと目を細めたり、白目を剥いたり、ひとり百面相。阿部の振り切った演技のおかげで、そのギャップを思い切り楽しめる。
特に監督からオッケーが出た後、みんなが演技の良さで盛り上がっているのに、ひとりだけ青柳と5秒以上目を合わせられたことに喜んでいるところが最高of最高。卓球の張本ですらそんなガッツポーズしないってくらいガッツポーズしてる。しかもその後ちっちゃく拍手してるの。可愛いかよ。
『BLドラマの主演になりました』は、阿部顕嵐のガチオタっぷりを愛でるドラマである。
◆阿久津仁愛の魔性っぷりに悶えよ
愛重めの男子が登場するBLほど滋養強壮にいいものはないが、実はもうひとつBLに欠かせない栄養素がある。
それが、自己肯定感低めの男子だ。「自分なんか……」と劣等感に苛まされる男子が、深い愛を与えられることで低すぎる自己評価から解き放たれる。日本でヒットしたBLドラマの多くに、この黄金のストーリーラインが組み込まれている。
本作でその役割を担うのが、もうひとりの主人公である青柳萌だ。輝かしい栄光も今は昔。むしろ「元人気子役」という肩書きは、冴えない現状を強調する呪いの言葉となっている。
そもそも赤藤と青柳が出会うことになったのは、人気BL漫画の実写化でダブル主演を務めることになったから。けれど、飛ぶ鳥落とす勢いの赤藤に対し、青柳は「数字を持っていない」と陰口をささやかれるレベル。青柳自身もそれがよくわかっているから、つい赤藤に引け目を感じてしまう。
だが、赤藤のある言葉がきっかけで、青柳は変わりはじめる。手の届かない存在だと思っていた赤藤が、自分のことを認めてくれた。自分で自分を肯定できない青柳にとって、赤藤の全力肯定は折れそうな心の補強材となった。自分を信じてくれる人がいることの喜びが、青柳を通じて伝わってくるから、ついこのふたりを応援したくなる。
そして、そんな青柳の眠れる輝きを、阿久津仁愛が全身で表現しているので、これもまた罪が深い。序盤は、空回り気味の平凡な青年。だけど、少しずつ覚醒の瞬間が近づいてくる。
その片鱗を最初に見せたのが、居酒屋のシーン。ずっと距離感のあった赤藤と青柳は、あることがきっかけで初めて心がほんの少し通い合う。
「赤藤くん」と名を呼ぶ青柳。そのときの阿久津仁愛の可愛さよ!(三角座り+上目遣い)×阿久津仁愛は、確実に混ぜるな危険な案件。やまびこの帽子でイオナズンを唱えたときくらい破壊力がある。
本格的な覚醒はその後。寝室から立ち去ろうとする赤藤の腕を掴む青柳。苦手なお酒のせいで頬が赤く染まっている。そのときの阿久津仁愛の可愛さよ!(ほろ酔いほっぺ+上目遣い)×阿久津仁愛も間違いなく混ぜるな危険な案件。キラーピアスをつけたアリーナくらい火力がある。
気づけば、地味だった青柳がいつの間にか魔性の男に見えてくる。赤藤から肯定されることで、青柳の中に隠されていた色気が解き放たれていったのだろう。もはやガチオタの赤藤にとっては生命の危機。たぶん次回くらいには赤藤のお墓が建っている。
『BLドラマの主演になりました』は、阿久津仁愛の魔性っぷりに悶えるドラマでもある。
他にも、誰とでもすぐ仲良くなれる鬼コミュニケーション能力の持ち主・黒宮遼河(岩谷翔吾)や、ワケありな匂いがする紫宏臣(小越勇輝)と黄島譲二(渡部秀)など気になるキャラクターが勢揃い。赤藤&青柳を中心にここからどうストーリーが進んでいくのか楽しみだ。
愛重め男子と自己肯定感低め男子。BLに欠かせない二大要素をフル装備した『BLドラマの主演になりました』が、ヒット作の相次ぐ日本のBLドラマに新たな風を巻き起こしていく。
(文:横川良明)