●特殊な野外利用を想定したGPSスマートウォッチ

ガーミンの「Tactix 7 AMOLED」は野外利用を想定したスマートウォッチだ。アウトドア、それも“かなり特殊な”場面を想定してデザインされたモデルゆえに、ハードコンデションでの使用に耐えられる堅牢性を備えている。

もちろん、ガーミンのスマートウォッチなので、スポーツアクティビティやヘルスケアを指向した高機能アプリも用意している。そんな、すこぶるヘビーデューティーなスマートウォッチの使い勝手を見ていこう。

ミリタリーユーザーへの訴求を重視したガーミンのスマートウォッチ「Tactix 7 AMOLED」。発売日は10月15日で、価格は198,000円

○ハードダーティーな状況でも安心の堅牢性

ミリタリー機能や航空機能を搭載し、高難度のミッションやアクティビティに対応したGPSスマートウォッチ・Tactix 7 AMOLED。

野外行動中、しかも、Tactix 7 AMOLEDの想定ユーザーである「戦闘行動中の歩兵、特に狙撃兵」が使うスマートウォッチに求められるものといったら、とにもかくにも「表示された情報を瞬時かつ的確に読み取れる表示盤の見やすさ」と「外部からの衝撃や悪天候などにも耐えて動作し続ける堅牢性」だろう。

Tactix 7 AMOLEDの表示盤は直径1.4インチ(35.56mm)とスマートウォッチの中でも最も大画面の1つだ。Apple Watchのラインナップでこのサイズの相当するのは最もサイズが大きい「Apple Watch Ultra 2」しかない(ただし、Tactix 7 AMOLEDのディスプレイが円形であるのに対してApple Watch Ultra 2は方形)。

本体サイズは51×51×16.4mmとスマートウォッチとしては大きい。厚みもあるのでアウトドアでロープを扱う作業では絡めないように注意したい

左側面にはボタン3個を備える

右側面にはボタン2個を備える

このスマートウォッチ最大級のディスプレイには、解像度454×454ドットという高解像度で情報を表示できる。

前機種「Tactix 7 Pro Sapphire Dual Power」が同じ1.4インチ円形ディスプレイで、解像度が280×280ドットだったことを思うと、表示できる情報量が多くなった=一目で把握できる情報量が増えたことになる。一方で、表示されるフォットサイズが小さくなったために瞬時における視認が困難になっているのではないかと危惧するユーザーがいるかもしれない。

しかし、ディスプレイパネルに有機ELを採用しているおかげで、表示画面が明瞭でコントラストがはっきりしており、ディスプレイサイズと解像度から想像しているよりは格段に見やすい。

実際、評価期間中に地図表示も多用したが、表示されているフォントが視認しづらくてストレスと感じたことは一度もなかった。

直射日光下でも表示画面の視認は容易だった

ディスプレイ関連機能では、夜間使用に適した「レッドシフト」モードと“暗視ゴーグル装着時”に見やすい「ナイトビジョン」モードを用意している。

レッドシフトモードは、潜水艦を題材にした映画でみる赤色灯をイメージするとわかりやすい。波長の長い光は目に対する刺激が弱く、瞳孔があまり閉じないため、画面から視線をそらした直後でも暗いところの認識が比較的容易で周囲の状況をすぐ把握できる。夜間の野外行動では必須の機能だ。

一方、ナイトビジョンモードのグリーン基調設定も最近の軍事関連ニュース映像で知る人は多いだろう。こちらもディスプレイ輝度が低くなるので夜間使用に適している。実際に使っていても、目への刺激は弱かった。

夜間利用を考慮したレッドシフトモード

ナイトビジョンモードも目の対する刺激は弱い

本体側面上部には腕にはめたままでも使いやすいLEDライトを備える

白灯では4段階で輝度が変更できる

加えて、ナイトビジョンモードでも有効な緑灯も用意する(輝度は1段階のみ)

本体の堅牢性では、表示盤パネルにサファイアクリスタルを採用したほか、ベゼル部分にはチタン、本体部分にはFRPとチタン(底面部分)を用いているため、耐衝撃だけてなく腕時計でありがちな“こすり傷”にも十分耐えられる。チタン部分にはダイヤモンドライクカーボンによるコーティングも施しているので、こちらも傷に強い。

全天候型デバイスに必須の防水性能に関しても、MIL-STD-810準拠の耐衝撃性能、耐水性能、そして、耐熱性能を備えるとしている。

なお、ガーミンでは準拠しているMIL-STD-810の末尾文字やテストレギュレーションの具体的な内容(例えば耐衝撃試験において与えている力の大きさや落下試験における高さ、耐熱試験における温度など)を明らかにしていないが、防水性能に関しては「10ATM」(10気圧防水)と具体的な値を公開している。

シリーズで新たに加わった航空機能もチェックしてみよう。

●パイロットとして航空機の運航を疑似的に体験できる

○航空計器としても十分使える高機能アプリ

スマートウォッチでは、導入しているアプリが提供する機能も重要な要素になる。Tactix 7 AMOLEDでも他の製品と同様にヘルスケアやエンターテイメント、スポーツサポート関連のアプリを揃えている。

特にヘルスケアで関連の深い心拍数の把握では、本体底面に組み込んだ光学式心拍センサーをTactix 7 Pro Sapphire Dual Powerの4基から6基に増やして精度を向上させている。

底面に内蔵した光学式心拍センサーは従来の4基から6基に増えている

このような機能の中、Tactix 7 AMOLEDの特徴として航空関係アプリと位置情報関連データを挙げることができる。

航空関連アプリには「航空天気情報」「フライトプラン」「フライトアクティビティ」を用意している。

いずれも飛行計画の作成や飛行中におけるパイロットの支援、もしくは、航空機計器類のバックアップとして使用することを目的としているが、実際に空を飛ばないユーザーでも自分がパイロットとして航空機の運航を「疑似的に」(これ重要)体験できる。

航空天気情報では、空港コードで指定した空港の「METAR」(定時航空実況気象通報式)もしくは「TAF」(運航用飛行場予報気象通報式)で提供される観測日時(METAR)、予報対象時間(TAF)、風向風速、視程、雲量と雲低高度、気象現象が表示される。

空港周辺の天気(特に雲と風に関する情報)における現況(METAR)や予報(TAF)として、日常生活でも利用することは可能だ。

フライトアクティビティでは、現在位置から空港コードで指定した空港への方位や距離、フライトコンデション、さらには無線周波数から滑走路の情報が表示できるほか、操縦席に備えている「水平位置指示器」のデザインを模した画面で、コース偏差やコース逸脱距離、TO-FROMインジケーター、最も近い空港の方位まで確認できる。

これは本職のパイロットが操縦中に航空計器のバックアップとして利用することを想定したアプリだが、パイロットでないユーザーも街を移動しながら(はい、ここ重要)、今自分の進んでいるコースは着陸アプローチからどれだけずれているのかを実感できるだろう。

フライトアクティビティでは多彩な表示を用意している

「水平位置指示器」のデザインを模した画面。中央上部の数値は針路を磁方位で示しており、矢印は目標に設定した羽田国際空港(RJTT)の方位を示す

こちらは針路と目的空港との方位の差をピンクの帯で示し、気圧高度計と上昇率現地時間と飛行時間を示す画面

こちらは方位の差をブルーの帯で示し、針路と目的地方位、距離を示す画面。このように、航空計器のバックアップとしても利用できる

位置情報をMGRSコードで表示できることも特徴だ。シン・ゴジラで東京防衛最終ラインとなった多摩川台公園へ向かってみた。

●シン・ゴジラの東京防衛最終ラインをMGRSコードで見る

○位置情報をMGRSコードで表示できる

位置情報データでは、GPSで取得できる緯度経度のデータを「MGRS」形式に変換して表示できる。

MGRS(Military Grid Reference System)は現在NATOが採用しているグリッドコードで世界中どこでも示すことができる。戦争関連コンテンツで「支援爆撃(もしくは支援砲撃)を要請する! 目標の座標は54SのUE、79264の39131!」などというときの座標がMGRSだ。

軍用の座標データではあるが、Tactix 7 AMOLEDでは10ケタのMGRSを扱えるので、1m四方のグリッドで場所を特定可能だ。

ただし、Tactix 7 AMOLEDでは位置情報としてGPSに加えて、GLONASS、Galileo、そして、準天頂衛星「みちびき」も利用できるが、その精度は好条件でも3m程度にとどまるため(Tactix 7 AMOLEDではGNSSであっても高精度用補完データは利用できない)、1mグリッドで位置情報を特定しても、位置情報誤差はそれより大きいことを認識しておく必要がある。

緯度経度とMGRS座標を同時に表示する画面も備えている。写真を撮影したこの場所は、シン・ゴジラで東京防衛最終ラインとなった多摩川台公園。なので、あの場面でも航空自衛隊の支援爆撃にこのMGRSコードを指定していた可能性は高い

このときの場所をマップで確認するとこんな感じになっていた

地図の黄色い枠がこの“あずまや”だとすると精度はけっこう高い

●本機の存在意義ともいえる「Applied Ballistics」アプリ

○腕に射撃盤を載せられる現代社会

ここまで、Tactix 7 AMOLEDがスマートウォッチとして特異な性格を持っていることを紹介してきたが、しかし、Tactix 7 AMOLEDをTactix 7 AMOLEDたらしめている特徴とは何か問われたら、「Applied Ballistics」に言及しないわけにはいかない。Applied BallisticsこそがTactix 7 AMOLEDの存在意義といってもいいだろう。

Tactix 7 AMOLEDの神髄ともいえる「Applied Ballistics」

Applied Ballisticsはライフル銃などによる長距離射撃において、その命中率を向上させるための支援機能だ(正しくはデジタルデバイスによる支援機能アプリを実現した開発組織の名称がApplied Ballistics)。

射撃は照準器の真ん中にターゲットの狙いを定めてドンッと撃てば命中する……モノではない。銃の特性や個体差、弾丸の形状や重さ、火薬の特性、そして射撃する場所の環境による影響を全て加味した上で「狙いを適切にずらす」ことでようやく命中する。

これらを反映した上で、「狙いを上下方向、左右方向のそれぞれでどれだけずらしたらいいのか」を計算してその結果を示してくれるのがApplied Ballisticsの目的だ。

使用する銃と弾の特性、射撃時の位置と気象条件を加味して算出された照準修正量を表示する(Garmin FranceのYouTubeより)

撃った弾丸を命中させるために影響する要素は膨大な量になる。Applied Ballisticsでは銃や弾ごとの特性を収録したデータベースを構築しており、そのテーブルにアクセスして使用する銃器と弾、そして銃に備えた照準器を指定することで、データベースからネットワークを介して入力できる(その後、ユーザーがカスタマイズすることも可能)。

さらに、射撃する場所の風向風速に気温、気圧、湿度、さらには、緯度によって変わるコリオリ力の影響まで反映して照準の修正量を出力する。

その機能を軍艦に例えると「射撃盤を備えた射撃指揮装置」(FCS:射撃指揮装置もしくは射撃統制システム)に相当する。いわば、Tactix 7 AMOLEDを腕につけるということは、即ち「腕に射撃指揮装置を載せている」に等しいともいえる。

とはいえ。

軍人でもなく警官でもなく(いや軍人であっても警官であっても超遠距離狙撃を生業にする人はごくごく限られるが)競技ライフルをやるわけでもないごくごく普通の民間人の日常生活でTactix 7 AMOLEDは必要なのか。

○ハードコンディションに余裕で耐えるTactix 7 AMOLEDの価値

ここまで読んで「うーん」と唸ったあなたに贈りたい言葉がある。それは、ちょっと前(とはいっても2018年ごろの話)にTwitterで流れた「戦闘力が求められる現代社会」だ。生ハムから端を発したこのネットミームは、“生ハム”をそれぞれが「いち推しなアレコレ」に変えることで拡散していった。

その文脈でいうならば、「Tactix 7 AMOLEDがあれば、ちょっと嫌なことがあっても“まあどんなに遠くても絶対狙撃できるしな”ってなるし、仕事でむかつく人に会っても“そんな口きいていいのか?私は腕に射撃指揮装置を巻いている身だぞ”ってなれる。戦闘力を求められる現代社会においてTactix 7 AMOLEDを所有することは有効」となる。そのとき、Tactix 7 AMOLEDの価値は「腕にはめたときの満足度がお値段以上」なブランド高級ウォッチと同等、といえるのではないだろうか。

もちろん、冒頭でも紹介したようにスポーツアクティビティやヘルスケア用の多彩な高機能アプリも、Tactix 7 AMOLEDの価値を高めてくれるのは言うまでもない。特に従来モデルからセンサーを増やした光学式心拍センサーの実装で、心拍数をカウントしてユーザーの状態を分析してくれるアクティビティアプリの信頼性は大きく向上したといえる。ハードコンディションにおける精度の高いコンデション把握は、ユーザーの安全を高いレベルで確保してくれる。

ハードコンディションで行動するユーザーの安全の確保。これこそがTactix 7 AMOLEDが持つ「お値段以上の価値」といえるだろう。