地球に降り注ぐスペースデブリの数は年間およそ5000tと推定されています。多くは無害なチリになりますが、中には2013年にロシアのチェリャビンスクに落下した隕石のように、周囲に大きな被害を及ぼすこともあります。このため、NASAは小惑星に宇宙船をぶつけて軌道をずらす実験を2022年に実施していますが、宇宙に打ち上げられる質量には限界があるため、代替手段として核を用いる方法の研究が続けられています。

X-Ray Energy Deposition Model for Simulating Asteroid Response to a Nuclear Planetary Defense Mitigation Mission - IOPscience

https://iopscience.iop.org/article/10.3847/PSJ/ad0838



New nuclear deflection simulations advance planetary defense against asteroid threats | Lawrence Livermore National Laboratory

https://www.llnl.gov/article/50716/new-nuclear-deflection-simulations-advance-planetary-defense-against-asteroid-threats

スペースデブリの中には、地球だけではなく太陽系内の他の惑星やデブリと衝突するものもあり、衝突時に放出されるエネルギー量によっては、地球の一部から全体に破壊的影響を及ぼすおそれがあります。しかし、事前にそのことがわかっていれば現代の技術であれば回避が可能であるということで、地球の軌道を通過する地球近傍天体(NEO)を検出する「惑星防衛」キャンペーンが世界的に展開されています。

2005年、アメリカ下院議会はNASAに対して、地域規模で荒廃をもたらす可能性を持つ大きさのNEOの90%の位置特定を義務づけていますが、2021年時点で検出率は最大50%程度にとどまっています。

また、小さいNEOは脅威ではないかというとそんなこともなく、かつてツングースカ大爆発を引き起こしたのは小規模なNEOだとみられています。ところが、早期検出システムにとって、小さいNEOや動きの遅いNEOは深刻な課題となっているそうです。

小惑星の衝突を防止するために考えられた方法の1つが、小惑星の軌道をずらす「DART」です。2022年9月、NASAは実証実験を行い、小惑星ディモルフォスの軌道をずらすことに成功しています。

NASAの「小惑星に宇宙船をぶつけて軌道をずらす実験」が成功、衝突直前の宇宙船が捉えた小惑星の映像も - GIGAZINE



しかし同時に、DARTのように運動エネルギーを用いて小惑星の軌道をずらすには、小惑星の大きさが直径100〜200mであることや、当該小惑星が地球に衝突すると予想されるタイミングより10年前には軌道をずらす必要があることがわかりました。

そこで、もっと多用途で効果的なアプローチとして考えられているのが、「核爆発装置(Nuclear Explosive Device:NED)」を用いる方法です。シミュレーションによると、衝突の少なくとも1ヶ月前に、直径100mの小惑星まで15mの地点で1Mt(メガトン)のNEDを用いた場合、NEOの物質の90%以上は地球に衝突することなく破壊されるとのこと。

ただ、問題はNEDによる破壊ミッションの有効性を予測するためのシミュレーションには、さまざまな複雑な計算が必要になってくるということ。

このため、ローレンス・リバモア国立研究所は、放射線流体力学コードを用いて開発された、X線エネルギー蓄積関数のライブラリを生み出しました。このモデルは、さまざまな初期条件が考慮されており、広範囲にあたる潜在的な小惑星についてのシナリオに適用可能になっているそうです。

惑星防衛プロジェクトのミーガン・ブルック・シャル氏は「実際に地球を守らなければならない緊急事態が発生したとき、小惑星の衝突を防ぎ、重要なインフラを保護して人命を救うことができる実用的なリスク情報を意思決定者に提供する上で、忠実度の高いシミュレーション・モデリングが重要になります」と語っています。