登壇し、笑顔でコメントする北口榛花

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陸連アワード

 日本陸上競技連盟は20日、都内のホテルで「日本陸連 アスレティックス・アワード 2023」の授賞式を行った。MVPに当たる「アスリート・オブ・ザ・イヤー」は、8月のブダペスト世界陸上女子やり投げで初優勝の快挙を達成した25歳の北口榛花(JAL)が初受賞。2007年にスタートした同アワードは今回が17回目となる。

 黒のドレスで登壇した北口は、持ち前の笑顔を輝かせた。壇上では「2015年にサニブラウン選手と新人賞を受賞してからずっと憧れている賞」と喜びのコメント。「去年も獲れると思っていたけど、獲れなかった。これ以上どうにかしろと言われても難しい(笑)。今回獲れて嬉しいです」と愛嬌たっぷりに語ると、会場も笑顔に包まれた。

 胸に秘めた思いもある。マイクを通じ、女王としての気づきを明かした。

「選手としてトップを目指すのは当たり前と思っているし、そのために犠牲を払うこと、海外に出ることが当たり前だと思ってやってきましたが、日々の生活を送る中でそれを当たり前だと思えることが私の強さだと気づきました。

 それを当たり前だと思っていない人がいることに最近になってわかってきました。今まで出会った人に私の価値観を押し付けて苦しんでいる人もいたと思う。ようやくその違いに気づけるようになったのが成長かなと思います」

 サプライズで贈られた祝福のメッセージVTRでは、サニブラウン・ハキームと橋岡優輝が登場。サニブラウンから「来年は俺が奪いにいくのでよろしくお願いします」と強気の言葉を受け、「2人の試合をいつもチェックしているので凄く力になります。来年も負けないよう、自分がここに戻ってこられるように頑張りたい」と力を込めた。

 会場では快挙を果たした映像が流れ、万雷の拍手。日本陸上界の“今年の顔”となり「何回映像を見ても本当に自分がやったとは思えないくらい不思議な気持ちです(笑)。魔法がかかってるようなここ2シーズンでした。いつ終わるか不安に思いながら練習を続けて、自分で魔法を持続できるようにしています」と笑い、抜群のコメント力を発揮した。

 前人未踏の領域を切り拓いた1年だった。日本女子の世界陸上金メダルは全種目を通じて26年ぶり、トラック&フィールド種目初。1勝するだけでも難しい世界最高峰のダイヤモンドリーグ(DL)で3勝すると、DLファイナルで日本人初優勝に輝いた。世界ランク1位にも君臨。自身の日本記録も塗り替えた。

異業種メダリストから熱血指導「ずっとテレビでも見ていた憧れの人」

 式典後の取材では、2012年ロンドン五輪競泳男子400メートルメドレーリレー銀メダリストの松田丈志氏からバタフライの指導を受けていることが話題に。やり投げに繋がるよう2年前から師事しているという。多くて週1回泳ぎ、「私も水泳をやっていたし、ずっとテレビでも見ていた憧れの人。教わるなら本物から教えてもらわないと意味がないと思い、ご連絡させていただきました」と経緯を明かした。

「松田さんもやり投げに繋がるよういろいろ考えて用意してくださる。でも、バタフライだけずっと泳ぐのはきついです(笑)。バタフライの前にやるいろいろな動き、ウォーミングアップとかも教わって、組み合わせながらやっています。やり投げも胸が前に出て体を背負いながら腕が回る。バタフライもです。そこに水の負荷をかけて泳げるのでいいのかなと」

 来年は勝負のパリ五輪。世界女王としてすでに期待を感じているようで、「世界選手権で金メダルを獲ってしまったので、五輪でも金メダルとしか言いようがない」と苦笑い。「同じ金メダルでも(五輪は)レベルが違う金メダルだと思うので、パリに向けてしっかり練習していきたい」と背筋を伸ばした。

【各賞の受賞者と主な選出理由】
○アスリート・オブ・ザ・イヤー
・北口榛花(JAL)
ブダペスト世界陸上女子やり投げ金メダル、ダイヤモンドリーグ(DL)3勝、DLファイナル日本人初優勝、世界ランク1位

○優秀選手賞
・川野将虎(旭化成)
ブダペスト世界陸上男子35キロ競歩銅メダル(2年大会連続メダル)

・サニブラウン・ハキーム(東レ)
ブダペスト世界陸上男子100メートルで日本人過去最高の6位入賞(2大会連続入賞)

・田中希実(New Balance)
ブダペスト世界陸上女子5000メートル8位入賞、DLファイナル6位、世界ロードランニング選手権8位入賞(女子1マイル)

・泉谷駿介(住友電工)
ブダペスト世界陸上男子110メートル障害5位入賞、DLローザンヌ大会優勝、DLファイナル4位

・三浦龍司(順大)
ブダペスト世界陸上男子3000メートル障害6位入賞、DLファイナル5位

○新人賞(日本陸連選出)
・宮尾真仁(東洋大)
U20アジア選手権男子三段跳び金メダル、U20日本記録樹立(16メートル38)

・瀧野未来(京都橘高)
U20アジア選手権女子400メートル障害金メダル、U20日本記録を樹立(女子300メートル障害41秒45)

○新人賞(東京運動記者クラブ選出)
・村竹ラシッド(順大)
男子110メートル障害13秒04の日本タイ記録樹立

・鈴木優花(第一生命)
マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)優勝、パリ五輪内定

○特別賞(陸上競技を通じた活動や活躍が広く社会に対して貢献したと認められた者、もしくは団体)
・FUNG WANG TAK(ふん・わんたく)
国際競歩審判員。コロナ禍で海外からの審判員の招聘が難しかった2021年4月に、石川県輪島市で開催した大会に来日し国際競歩審判員として従事。渡航に伴う待機期間中もオンラインで本業の勤務を行うなど厳しい環境もいとわず受け入れて、この大会の記録が東京2020オリンピック参加資格対象条件を満たすことに貢献し、日本選手を同オリンピックでの活躍へと導く影の立役者となった。

○日本グランプリシリーズ シリーズチャンピオン
・野本周成(愛媛陸協)
男子110メートル障害
・寺田明日香(ジャパンクリエイト)
女子100メートル障害

○ブダペスト世界陸上入賞者
・女子やり投げ1位、北口榛花(JAL)
・男子35キロ競歩3位、川野将虎(旭化成)
・男子4×100メートルリレー5位、坂井隆一郎(大阪ガス)、小池祐貴(住友電工)、柳田大輝(東洋大)、サニブラウン・ハキーム(東レ)
・男子110メートル障害5位、泉谷駿介(住友電工)
・男子100メートル6位、サニブラウン・ハキーム(東レ)
・男子3000メートル障害6位、三浦龍司(順大)
・男子35キロ競歩6位、野田明宏(自衛隊)
・女子1万メートル7位、廣中璃梨佳(日本郵政グループ)
・女子35キロ競歩7位、園田世玲奈(NTN)
・男子走り高跳び8位、赤松諒一(アワーズ)
・女子5000メートル8位、田中希実(New Balance)

○杭州アジア大会金メダリスト
・男子200メートル、上山紘輝(住友電工)
・男子110メートル障害、高山峻野(ゼンリン)

(THE ANSWER編集部)