1940年に初めて公開され、その後アメリカやカナダの劇場で次々に上映された「オーロラトーン」というフィルムがあります。サイケデリックな映像とリラックスできる音楽を組み合わせて作られ、精神疾患を抱えた患者に治療効果をもたらしたとされるオーロラトーンについて、霊長類学者のアユン・ハリデー氏が解説しました。

Watch an Auroratone, a Psychedelic 1940s Film, Featuring Bing Crosby, That Helped WWII Vets Overcome PTSD & Other Mental Health Conditions | Open Culture

https://www.openculture.com/2023/11/watch-an-auroratone-a-psychedelic-1940s-film.html

INCITE » God Must Have Painted Those Pictures: Illuminating Auroratone’s Lost History, by Walter Forsberg

https://incite-online.net/forsberg4.html

オーロラトーンは心理学者のセシル・ストークスによって開発され、ハリウッドにあるオーロラトーン・ファウンデーション・オブ・アメリカという企業によって制作されたフィルムです。確認されているだけで15種類の映像が作成され、現存する映像の一つがYouTubeにアップロードされています。

映像に写る模様は結晶化する化学薬品と偏光を用いて作られたもので、音楽は1937年にリリースされた「When The Organ Played "Oh Promise Me"」という曲を使用したもの。

1940s AURORATONE (Restored!) featuring Bing Crosby - YouTube

結晶生成の際は、録音されたメロディーの音波をスライドガラスに集束させ、結晶形成の引き金としていたとのこと。これにより結晶が音波の影響を受けて形を変えたため、音楽に合わせて背景が移り変わるような映像に仕上がっているとのことです。

1945年8月、このフィルムはオハイオ州にあるクライル総合病院の研究者、ハーバート・E・ルービンとエリアス・カッツに提供され、精神疾患を抱えた患者、特に戦争帰還兵の治療のために使用されました。

ルービンとカッツの研究によれば、オーロラトーンは「深いリラクゼーション」や「感情の解放」といった治療効果を患者にもたらしたといい、一部のフィルムを見た患者は涙を流したそうです。



PTSDに苦しむ軍人だけでなく、精神障害と診断された患者、青少年犯罪者、慢性的な偏頭痛に悩まされている人、発達障害の子どもなどもオーロラトーンの恩恵を受けたとのこと。

一方でフィルムは一般の人々向けに「オーロラに最も近い」と宣伝されて上映され、デパートで映像を楽しんだ人もいたと伝えられています。オーロラトーンはまた、人々の関心を引くような新しい何かを探していたキリスト教指導者たちにも目を付けられ、教会で上映されることもありました。



なお、芸術作品としての評価は芳しくなく、美術専門家からは「芸術においては考えられた法則だけがあり、(オーロラトーンのような)偶然性は考えられない」「人間の感情を刺激する手段として抽象芸術を用い、支持を得ようとするオーロラトーン・ファウンデーション・オブ・アメリカの試みには感心しない」との指摘もあったようです。