2−3で惜敗したチェルシー戦から中2日の強行軍で迎えたプレミアリーグ第15節、8位のブライトンは11位のブレントフォードと対戦した。

 チェルシー戦で後半12分から出場した三笘薫は、左ウイングとしてスタメンに復帰。4人のアタッカーの中でただひとり90分間フルタイム出場した。

 と言えば、活躍のほどが想像できるだろう。選手交代5人制のこの時代において、フルタイム出場するアタッカーはそういない。故障明けの3戦目となるとなおさらだ。次戦も中2日で控えているので、後半30分手前あたりでベンチに下げるのが常識的な采配になる。だが、ロベルト・デ・ゼルビ監督は故障前と同様、三笘を最後までベンチに下げなかった。

 外せない理由がよくわかる試合だった。左ウイングでありながら中心選手。言うならば、左ウイングの位置で構えるゲームメーカーだ。ボールが三笘に渡っている間、ブライトンは安泰だった。サイド攻撃の重要性を再認識させられた試合と言ってもいいだろう。


ブレントフォード戦にフル出場、勝利に貢献した三笘薫(ブライトン)photo by Reuters/AFLO

 この日の三笘のプレーを褒めようとすれば、彼と縦の関係を組むことになった左サイドバック(SB)パスカル・グロスのプレーについて特筆しないわけにいかない。今年9月に行なわれた日本戦で、32歳にしてドイツ代表デビューを飾った遅咲きである。

 ブライトンの基本布陣は4−2−3−1。だがこの日は、守備的MFのカルロス・バレラが、マイボールに転じると2人のセンターバック(CB)の間に入り3バック然と構えたため、4−2−3−1はその都度3−3−3−1に変化した。

 両SBは3−「3」−3−1の「3」の両側で、通常より高い位置で、しかも内寄りに構えた。正確に言うなら中盤ダイヤモンド型の3−4−3だ。デ・ゼルビ監督はマイボールに転じたとき、かつてのアヤックス型、バルサ型システムを敷いたわけだ。

 三笘とグロスの関係が冴えたのは前半31分だった。その4分前、ブライトンはブレントフォードに先制点を許していた。ヤンポール・ファンヘッケ(元U−21オランダ代表)がMFビタリ・ヤネルトを倒しPKを献上。それをブライアン・ムベウモ(カメルーン代表)に決められていた。

【両SBのゴールを陰で演出】

 いやなムードを払拭するふたりのコンビネーションだった。まず、MFビリー・ギルモア(スコットランド代表)の縦パスがジャック・ヒンシェルウッド(U−19イングランド代表)に通る。18歳の右SBが収めたボールは中央のジョアン・ペドロ(ブラジル代表)を経由して、左サイドの三笘の元に回っていった。

 ドリブルで突っかける三笘に、ブレントフォードはマークをふたりつけた。よって三笘の脇が空いた。そのスペースに計算したように入ってきたのがグロスで、三笘に、ゴールへの確信を抱くかのようにパスを要求。ボールを受けると左足で冷静に同点弾を流し込んだ。

 後半3分のシーンでは、グロスが大外を回った三笘の鼻先にスルーパスを送った。シュートを打つかと思いきや、強引なプレーが好きそうでない三笘は、中央に折り返すも得点には至らない。

 後半7分のシーンはその逆だった。三笘が大外を回ったグロスにスルーパスを送るとグロスも中央に折り返した。この時は、ゴール前でヒンシェルウッドがフリーになっていた。次の瞬間、この日がプレミアリーグ初先発の右SBはジャンプ一番、頭でセンタリングを押し込み、これを逆転の決勝弾とした。

 32歳のグロスと18歳のヒンシェルウッド。左SBのラストパスを右SBが決めたわけだ。先制点を挙げたのも左SBである。まさに「SBが活躍したほうが勝つ」という格言通りの、今日的な展開だった。

 三笘はそのいずれにも、陰で演出役を果たしている。1点目はアシスト。2点目はアシストの1本手前のパスだ。マイボール時にはSBとウイングの関係が光る一戦だったが、特に三笘とグロスのパス交換は、ゴールへのルートが見えているような可能性が感じられた。ブライトンの心臓部そのもののようだった。

「中盤」はサイドにも築くことができる。サイドで試合を作ることができる。むしろ、自軍ゴールまで距離が近い真ん中よりリスクは少ない。奪われてもピンチになりにくい場所でゲームを作るメリットが示された試合だった。

 周囲と円滑に絡みながら発揮される三笘のウイングプレー。チャレンジしているにもかかわらず、チームはそれによって落ち着く。常時ピッチに立たせておきたいと考えるデ・ゼルビ監督の気持ちはよくわかる。次戦(バーンリー戦)は9日の土曜日。中2日でも三笘は先発するのだろう。稀なサッカー選手である。