【今秋の神宮大会で一躍注目】

 佐藤柳之介(富士大3年)の投球フォームを見た時、「横浜高校のピッチャーみたい」という感想が頭に浮かんだ。

 狭い幅のなかで体重移動し、力感がなくタイミングを計りづらいモーション。グラブハンドを斜め上に掲げる使い方まで成瀬善久(栃木ゴールデンブレーブス)や伊藤将司(阪神)といった横浜高校OBの左腕と重なる。宮城・東陵高出身の佐藤だが、彼らから影響を受けているのだろうか?


神宮大会初戦の上武大戦で3安打完封勝利を飾った富士大・佐藤柳之介 photo by Kikuchi Takahiro

 本人に聞いてみると、意外な答えが返ってきた。

「SNSでもそう言われているみたいで、よく『載ってるよ』と連絡をもらうんです。でも、誰かを参考にしたことはなくて。自分のなかで『ボールに力を伝えやすい投げ方をしよう』と考えているうちに、勝手に今の形になっていった感じです」

 佐藤の言葉を聞いて、「自力でこのフォームに行き着いたのか!」と驚かされた。成瀬や伊藤らの高校時代に基本を叩き込んだのは、名伯楽の小倉清一郎氏。投手の体の前後にネットを配置し、狭い幅のなかで投げるフォームを習得させている。捕手の方向へ真っすぐにベクトルを向けられるため力の伝達がスムーズになり、コントロールもしやすいとされている。

 だが、佐藤はこんなメソッドを知らずとも、今の形に行き着いているのだ。

 今秋、佐藤の名前は大きくクローズアップされた。明治神宮大会初戦の上武大戦で3安打完封勝利。関東屈指の強豪を相手に、まともにバッティングをさせなかった。切れ味抜群のストレートだけでなく、カーブ、スライダー、カットボール、ツーシーム、スプリットと手数も豊富。いささか気が早いが、来年のドラフト上位候補と言っていいだろう。

 これほど実戦的で、「勝てる左腕」は貴重だ。そんな印象を本人に伝えると、佐藤はうなずいてこう答えた。

「高校時代の恩師の千葉(亮輔)監督からも『勝てる投手になりなさい』と言われてきました。自分のなかで一番の売りは勝てる投球ができることだと思っています」

【上位指名でプロに行きたい】

 12月1日から3日間、愛媛県松山市で実施された大学日本代表候補強化合宿に佐藤は初めて招集された。2日目の紅白戦では、自己最速を1キロ更新する148キロが坊っちゃんスタジアムのスコアボードに表示された。

 自身のバント処理のミスもあって1失点を喫したものの、直後のピンチで佐々木泰(青山学院大)から空振り三振を奪うなど3者連続三振。2イニングで4三振を奪い、ウイニングショットはすべてストレートだった。

 実力をアピールした一方で、合宿中に大きな刺激も受けた。来年のドラフトの目玉格になりうる金丸夢斗(関西大3年)とキャッチボールをした際、佐藤は強い衝撃を覚えたという。

「金丸は力感のない腕の振りなのにボールが伸びてきて、最後まで強さがありました。ここまで伸びて、強いボールを受けたのは初めてです。自分も力感なく強いボールを目指していますけど、金丸は一枚も二枚も上手でした。自分はまだまだだなと感じました」

 金丸が「世代ナンバーワン左腕」と騒がれている理由をグラブごしに伝わる感触で思い知った。ただし、大学野球生活は残り1年間も残されているのだ。佐藤は言う。

「同世代から学びながら、上位指名でプロに行きたいですね。プロに行くからには一番になりたいです」

 心強い仲間たちもいる。今回の合宿は富士大からは佐藤だけの参加だったが、野手陣も多士済々だ。全国大会で青山学院大の下村海翔(阪神1位)と常廣羽也斗(広島1位)から本塁打を放った快足外野手・麦谷祐介(大崎中央)、たくましい肉体にエネルギーが詰まった強打の遊撃手・佐々木大輔(一関学院)、バットヘッドをしならせて力強い打球を飛ばす主砲の渡邉悠斗(堀越)、大学屈指のディフェンス能力を誇る正捕手の坂本達也(博多工)。同期に大学JAPAN入りを狙える好素材がひしめいている。

 佐藤は誇らしげにこう語った。

「ウチは個々の力があるので、今年の青学(大学日本代表に青山学院大から5選手が選出)みたいに来年はいっぱい引き連れて代表に来たいですね」

 それだけのメンバーが揃っているということは、大学日本一を狙えるということでもある。今年は大学選手権、明治神宮大会ともに準決勝で青山学院大に敗れている。

 明治神宮大会の準決勝では、ビハインドを追う試合中に佐藤は安田慎太郎監督に「投げさせてください」と直訴したという。だが、安田監督は決勝戦で先発予定だった佐藤の申し出を退けた。本気で日本一を狙うからこその判断だった。

 北東北大学リーグにも八戸学院大や青森大など、強敵が牙を研いでいる。佐藤は引き締まった表情で決意を語った。

「ひと冬越えて、どのチームも戦力が上がってくるので。でも、ウチもチームとしてまとまって力を出せれば日本一を狙えると思います」

 そして、佐藤は不敵に笑って「自分たちでも来年が楽しみなんです」と言った。チームとして、そして個人として。佐藤柳之介のナンバーワンをかけた戦いは、すでに始まっている。