出世レースのGIIIアルテミスSを制したチェルヴィニア。photo by Sankei Visual

 今年、ここまでに行なわれた中央競馬の2歳戦で、牝馬限定戦を除く芝の重賞、オープンレースにおいて、牝馬は11勝を挙げ、2着も11回を数える。三冠牝馬リバティアイランドが躍動した昨年の世代であっても10勝、2着9回だったことを考えると、今年の2歳は牝馬の層が一段と厚い世代と言える。

 それはつまり、ハイレベルな群雄割拠の状態と言い換えることもできる。だとすれば、多大な関心が寄せられるのは、今週末に行なわれる「2歳女王決定戦」GI阪神ジュベナイルフィリーズ(12月10日/阪神・芝1600m)だ。

 そこで今回は、この注目の一戦を前にしての、2歳牝馬の『Sportivaオリジナル番付(※)』を発表したい。
※『Sportivaオリジナル番付』とは、デイリー馬三郎の吉田順一記者、日刊スポーツの木南友輔記者、JRAのホームページでも重賞データ分析を寄稿する競馬評論家の伊吹雅也氏、フリーライターの土屋真光氏、Sportiva編集部競馬班の5者それぞれが、来春のクラシックを目指す2歳牝馬の、現時点における実力・能力を分析しランクづけ。さらに、そのランキングの1位を5点、2位を4点、3位を3点、4位を2点、5位を1点として、総合ポイントを集計したもの。

 1位は、チェルヴィニア(牝2歳/父ハービンジャー)。出世レースのGIIIアルテミスS(10月28日/東京・芝1600m)を快勝した良血馬だ。同レースの勝ちタイムは、このレースが創設されて以来、最速となる1分33秒6。昨年の勝ち馬ラヴェル、2着リバティアイランドをも上回るタイムをマークし、来春のクラシック有力候補とされるのも当然か。

吉田順一氏(デイリー馬三郎)
「つなぎは寝気味で短めですが、クッションは上々。馬体重480kg前後のハービンジャー産駒で、腹のラインがスカッとしていて余分な脂肪がつかないタイプです。完歩は小さい分、ギアチェンジは俊敏な類い。それでいて、スピードやキレの持続力があるのは、天性の資質と見ていいでしょう。

 折り合いに問題なく、馬込みやキックバックもしっかりと我慢できます。アルテミスSでは、2着に入ったサフィラ(牝2歳)に外からフタをされそうになっても慌てずに盛り返し、ラストは極上のキレ味を見せて、あっさりと突き抜ける芸当を披露しました。

 オークス2着の母チェッキーノ同様、当馬も牝馬クラシック路線の王道を歩んでいくのではないでしょうか」

木南友輔氏(日刊スポーツ)
「木村哲也厩舎(美浦)のこの世代は牝馬が粒ぞろい。他にもガルサブランカ(牝2歳)、アルセナール(牝2歳)など良血馬がそろうなか、この馬の素質はかなりのものです。

 初戦の新馬戦(6月4日/東京・芝1600m)は逃げる形でボンドガール(牝2歳/父ダイワメジャー)に屈しましたが、2戦目の未勝利戦(8月12日/新潟・芝1800m)は2着に6馬身差の完勝。前走のアルテミスSも完璧な内容でした」

伊吹雅也氏(競馬評論家)
「11月26日終了時点(以下同)の本賞金は3740万円。JRAに所属する現2歳世代の牝馬としては、コラソンビート(牝2歳/父スワーヴリチャード)の6130万円、アスコリピチェーノ(牝2歳/父ダイワメジャー)の3820万円に次ぐ単独3位です。

 母のチェッキーノは、現役時代にオークスで2着となった実績のある馬。現3歳の半兄には日本ダービーで5着と健闘したノッキングポイントがいます。

 左トモに違和感が見られたとのことで、阪神JFは回避。いかにもこのレースが合っていそうなタイプだっただけに、残念です。ただ、母のチェッキーノも、半兄のノッキングポイントも、本格的によくなったのは3歳になってから。まだまだ伸びしろはあるはずですし、復帰を楽しみに待ちたいと思います」

 2位に入ったのは、ボンドガール。デビュー戦ではチェルヴィニアを破って、続くGIIIサウジアラビアロイヤルC(10月7日/東京・芝1600m)では牡馬相手に2着と奮闘した。チェルヴィニア同様、阪神JFは負傷で回避することになった。

伊吹氏
「一走あたりの賞金は1010万円で、JRAに所属する現2歳世代の牝馬としては単独5位。デビュー2戦目のサウジアラビアRCで2着に食い込んだ点は高く評価していいでしょう。

 母のコーステッドは、現役時代にアメリカで活躍。GIBCジュヴェナイルフィリーズターフ(アメリカ・芝1600m)で2着となった実績があります。また、半兄には今年の海外GIドバイターフ(UAE・芝1800m)で2着に入ったダノンベルーガがいます。

 近年の阪神JFでは、関東圏の競馬場を主戦場としてきた馬が強く、東京か、中山のレースにおいて"着順が3着以内、かつ4コーナー通過順が2番手以下"となった経験のある馬が2014年以降、8勝、2着9回、3着7回、着外35回(3着内率40.7%)と堅実です。この条件をクリアしているボンドガールはとても楽しみだったのですが、残念ながら右前肢打撲で出走を回避するとのこと。まずは無事に復帰してくれることを祈っています」

本誌競馬班
「チェルヴィニア、コラソンビートら好メンバーが集った新馬戦を快勝。2戦目のサウジアラビアRCでは牡馬相手に2着に敗れるも、2歳牝馬のなかではトップクラスの実力馬と見ます」

 3位は、2戦2勝のアスコリピチェーノ。2戦目には、牡馬相手にGIII新潟2歳S(8月27日/新潟・芝1600m)を快勝した実力馬だ。

土屋真光氏(フリーライター)
「まだ素質だけで走っているような感じがありながら、デビューから無傷の2連勝。しっかり馬体重を増やして臨んだ新潟2歳Sでは、追い出しの反応がよく、さらにパワーがつけば、前受けでも競馬ができそうな印象を受けました。

 GIオークス(東京・芝2400m)まで見越した場合、距離適性には疑問がありますが、GI桜花賞(阪神・芝1600m)までなら、主役としてこの世代をけん引していってもおかしくありません」

 4位には、世代唯一の3勝馬コラソンビートが入った。前走のGII京王杯2歳S(11月4日/東京・芝1400m)では、牡馬相手にも1番人気に支持されて鮮やかな勝利を飾った。

木南氏
「1着ボンドガール、2着チェルヴィニアというハイレベルな新馬戦で3着に入線。その後の好成績も納得です。体形的には距離に限界があるように見えますが、血統的には融通が利きそうな感じがします」

 5位にランクインしたのは、レガレイラ(牝2歳/父スワーヴリチャード)。前走のオープン特別・アイビーS(10月21日/東京・芝1800m)では1番人気に推されながら3着に敗れたが、牝馬相手ならまだまだ見限れない。

吉田氏
「新馬戦(7月9日/函館・芝1800m)では、のちにGIII札幌2歳S(9月2日/札幌・芝1800m)を逃げきったセットアップ(牡2歳)を強烈な決め手で差しきり勝ち。2戦目のアイビーSでは好位で運んで、前をいく2頭を捕まえることができずに終わりましたが、上がり32秒7というタイムをマークした末脚は強烈でした。3着という結果はポジションと流れによるもので、悲観する内容ではなかったと思います。

 新種牡馬のスワーヴリチャードからは質の高い産駒が多く出ており、当馬もつなぎは通常で適度にクッションがあり、長くいい脚が使えるタイプ。回転は速めでも、ある程度ストライドが稼げるあたりは素質の高さによるものでしょう。2戦目で発馬に進境が見られ、折り合い面に不安がない点も強調材料です」

 昨年はこの時点で2位だったリバティアイランドが阪神JFを制して、一気に世代の頂点へと駆け上がっていった。はたして今年も、阪神JFから世代の主役となる存在が登場するのか、必見である。