【今年11月にオールスターゲーム開催】

 あのドバイにプロ野球? ドバイといえば、オイルマネーで潤うアラブ首長国連邦を構成する首長国のひとつで、砂漠の中に突如として世界一高い高層建築物"ブルジュ・ハリファ"をはじめとする高層建築物が現れ、その摩天楼の間を無人運転の電車が走る、まさに未来都市である。

 当然のごとく、世界の富裕富が集まり、至るところに大型のショッピングモールがあり、灼熱の真夏でもスキーを楽しめる人口ゲレンデも存在する。そんな街でプロ野球を行なおうという話が、今年になってSNS上で飛び交った。

 といっても、中東はまったくの「野球不毛の地」。人々が好むスポーツと言えば、英国生まれのクリケットかサッカーと相場が決まっている。

 この国の王族マネーの勢いはすさまじく、自国生まれの英雄が引退するからと、王様がポケットマネーで世界中からスター選手を招いて「世界選抜」を結成し、これまたイタリアから呼び寄せた名門・ユベントスと対戦させて、国民に入場無料でふるまうという荒業までやってのけたこともある。

 そんなオイルマネーを野球にも......というわけだろうか。ともかくドバイでプロ野球をやろうという動きが起こっているようだった。

 巷では「中東初のプロ野球リーグ」などと報じられているが、じつは今から16年前、2007年にイスラエルでプロリーグが発足している。アメリカ資本で立ち上げられたこの目論見だったが、少数の現地人選手とアメリカや中南米から集めたマイナーリーガーで構成されたこのリーグは不人気のため、たった1シーズンで頓挫してしまっている。

 その謎のリーグが動き出したのは、10月末のことだった。「世界ドラフト」と称して、元メジャーリーガーの大物や日本のプロ野球で活躍した選手を指名し、発表したのだ。

 アメリカでは実際にプレーする見込みのない者を「記念指名」することはまれにある。実際リストを見ると、ロビンソン・カノやバートロ・コロンなどすでに表舞台から去った往年の名選手や、この夏に故障のため台湾で引退を決断した元阪神の福永春吾らの名が連なっていた。すでにコーチ業をしている福永は、指名のニュースが出るや否や、参加しない旨をコメントし、ドラフト自体が客寄せのために行なわれたのではないかとささやかれた。


オールスターゲームに参加したロビンソン・カノ(写真右)とチアゴ・ダシルバ photo by Baseball United

 しかし、彼らはそこにやってきた。来年に始まる本格的なシーズンの前の「ショーケース」としてドバイ国際スタジアムで行なわれた「オールスターゲーム」には、そのカノやヤンキースなどで強打のショートとして活躍したディディ・グレゴリウスらが姿を現した。

 メンバーのなかには、スティーブン・モヤ(元中日、オリックス)やDeNAを退団した平田真吾など日本でプレーした選手の姿もあった。今シーズンはドバイでの2試合のエキシビションのみだったが、その様子は日本でも大きく報じられた。

【元日本ハム・ミラバルが語る未来図】

 ところで、来シーズン本当に本格的なスタートをきれるのだろうか。現在のところ、ドバイ、アブダビというUAEの2大都市とパキスタンのカラチ、インドのムンバイの4フランチャイズが決定しているが、はたしてこの4都市を飛行機で移動するかたちでリーグ戦が行なわれるのだろうか。運営スタッフとしてこのリーグに携わっている元日本ハムの投手、カルロス・ミラバル氏に話を聞いた。

── 中東に突如として現れたプロ野球リーグに驚いているのですが、どのような経緯で設立されたのでしょうか。

「その経緯については、私にもよくわからない。リーグを立ち上げたのは2年前のことだ。マリアノ・リベラ(元ヤンキース)、バリー・ラーキン(元レッズ)といった大物が始めたんだ。資本金など、財政規模についてはわからない。私は運営に携わっているだけだから、経営にはノータッチだ。とにかく中東にできたウインターリーグだと思ってくれていい」

── 世界中から選手を集めているようですが、彼らに報酬は支払っているのですか? また来シーズンからの選手報酬はどのくらいを想定されているのですか?

「それも知らない。とにかく、今回も来シーズンからも世界中から選手を集めるつもりのようだ」

── 現在4チームが発表されていますが、この4チームで来年はリーグ戦を行なうのでしょうか。何試合くらいを予定していますか。

「チーム数については、これより増やすつもりで動いている。8チームを目指しているところだ。シーズンは11月、12月で、60試合くらいを想定している」

── 各都市をホーム&アウェイで移動するのですか?

「そこについても、現時点ではまだ何も決まっていない。いくつかのチームで各地を転戦するのか、それとも各チームがホームとビジターの移動を繰り返すのか。いま考えているところだ」

── 球場はどうするのですか。中東や南アジアに野球場などないのでは?

「いや、野球場はいくつかあるよ。今回はドバイのクリケット場を使用したけど、将来的には野球専門球場をつくってプレーすることを考えている」

── 今回のショーケースでは、日本の選手をドラフトで指名したり、実際参加した選手もいましたが、来年も日本人選手はウェルカムなんでしょうか。

「もちろんだ。地元をはじめ、インドやパキスタンだけでなく、我々は日本や韓国のプロ野球といったレベルの高いところでプレーした選手を求めている。12月に台湾でアジア選手権が始まるけど、私も現地に行ってどんな選手がいるのか視察するつもりだ」

 現在、ベースボール・ユナイテッドの本格稼働のため世界中を飛び回っているミラバル氏だが、まだ新リーグの全容はつかめていないようだ。

 ちなみに、60試合というのは総試合数のことで、想定しているのが最大8チームということなら、1チームあたり15試合。おそらくポストシーズンはあるだろうから、11月からの週末にレギュラーシーズンを実施し、クリスマス前にファイナルを迎えるフォーマットを想定しているのではないだろうか。

 選手報酬については、別ルートからの情報によると、今回のショーケースに応じた選手には日当と渡航費は支払われたようである。

 今回参加した選手のなかには、現在メキシカンリーグに所属している選手もいた。イタリアや台湾でのプレー経験もあるブラジル人投手のチアゴ・ダシルバは、はるばるドバイまでやって来て、2日間のショーケースを終えると、冬のシーズンを過ごすベネズエラへと旅立っていった。

 このケースを考えると、元メジャーの大物がドバイでバカンスを楽しみながら週末にプレーし、その脇を中南米のウインターリーグのロースターから漏れた若い選手が固めるといった選手構成が可能になる。そのなかには当然、アメリカや日本でのプレーを夢見る選手も混じっていることだろう。

 ここで実績を残した者が、年明けからポストシーズンを迎える各地のウインターリーグへとステップアップしていく。当然、その先にはアメリカや日本をはじめとするアジアのプロリーグがある。

 この中東に舞い降りた新リーグは、"野球不毛の地"に花を咲かせることができるのだろうか。今後の展開から目が離せない。