将来を嘱望される尾方真生 photo by Gunki Hiroshi

【魅力はオンオフのギャップ】

 ガールズケイリン若手のホープ、尾方真生の魅力は「ギャップ」だと関係者は言う。

 プライベートではディズニーをこよなく愛する24歳。関東でのレース開催時には、ディズニーランドへ足を運び、ぬいぐるみを買うことを楽しみにしている。勝つごとにディズニー映画のDVDを1枚ずつ買い、ついにはすべてを揃えてしまった。また、話好きで、誰とも仲良くなり、レースの際も「直前まで話をしていることが多い」と言う。普段の姿はのんびりとした印象を周囲に与える存在だ。

 しかし、ひとたび自転車に乗ってレースに向かうと雰囲気は一変。気持ちのこもった走りで、勝利を重ねている。

「取材していただいている記者さんからも、これまでで一番ギャップのある選手と言われました。自分としてはその自覚はないのですが・・・」

 本人はこう言って首を傾げる。

 謙遜し、決して強気な発言をしない尾方だが、力が本物であることは実績が示す。2020年5月にデビューすると、そこで初勝利、初優勝。以来、戦績は高いレベルで安定している。デビュー2年目での5位を皮切りに、賞金ランキング上位の常連であり、ガールズケイリンの最高峰の舞台「ガールズグランプリ」にも2021年、22年と連続で出場。どちらも出場した7人のなかで、もっともプロキャリアが短く、年齢も若かった。

「まだまだ先輩たちには技術も脚力でも差があると思っています。それにグランプリもそうですが、プレッシャーのかかる大きなレースで結果を残せていませんので、本当の意味での強い選手にならなければいけないと思っていますし、まだまだです」

 12月29日(金)に立川競輪場で行なわれるガールズグランプリ2023への出場も決まった。今回こそ、これまでと違う姿を見せたいと静かに闘志を燃やす。



ディズニーのキャラクターが大好きという尾方 photo by Gunki Hiroshi

【生まれつき、負けず嫌い】

 熊本県球磨郡多良木町生まれ。「いつも外で遊んでいた」と本人は振り返り、活発な幼少時代を過ごした。同時に早くから高い身体能力を発揮し、小学生の時にエアロビック競技で全国優勝。中学校から始めた陸上競技では短距離を専門とし、九州学院高に進んでからはインターハイにも出場をしている。

「エアロビック競技は人見知りを心配した家族が連れて行ってくれて始めたんです。かけっこも保育園の時から速くて常に1番でした。ただ運動会で一度、転んだことがあって、そこで走るのをやめてしまったことがありました。『もう勝てない。ならば走らない』って思ったんですね。そのくらい負けることが嫌いだったんです」

 そんな尾方だったが、陸上競技を突き詰めるのではなく、管理栄養士になるために大学進学の道を選ぶ。そして高校卒業を控えた高校3年生の頃、初めて競技用の自転車に乗った。下宿先が元競輪選手の家だったこともあり、競輪場に連れて行かれたことがきっかけだった。

「最初は自分からやりたいと思ったわけではありません。ただ自転車が楽しいという感覚は、初めからありました。大学に行く前や休日に練習しているうちに、周りから早くガールズケイリン選手になることを勧められるようになったんです。最初は大学卒業後に養成所に行くつもりだったのですが、『ここからの3年間がもったいない』と周りに言われて、大学1年目で受験しました。最初は休学していたんですが、『きっともう戻ってこないでしょ』って言われて、結局、大学は辞めました。こうして私は結構、周りに流されて人生を決めているんです(笑)」

 だが、その身体能力の高さを自転車競技でも遺憾なく発揮する。養成所内での競走訓練で勝利を積み重ね、卒業記念レースでも優勝。そしてプロデビュー後の快進撃は冒頭に記した通りだ。今はガールズケイリンに進んだ決断に後悔はない。

【先行を選んだ理由】

 安定して高い勝率を残している尾方だが、プロとしてやっていける自信を持てない時期があったと振り返る。

「そんな時、同じ久留米競輪場で練習している先輩の児玉碧衣さんに『若いんだからもっと思い切ったレースをしていくほうがいい。それが先につながるし、上で戦うことにもつながる』って言われたんです。たしかにそうだなと思い、そこから先行という前に出るスタイルに挑戦していくようにしました」

 集団の先頭を走り、主導権を握るそのスタイルは自分でペースを管理できるメリットがあるが、風の抵抗を真正面から受ける局面が増えるため、体力、筋力の消耗が激しい。だが、尾方はそこで自分の持ち味が出せると考えた。

「よく周りの選手に、私に先に仕掛けられると嫌だって言われます。それは私が先行しても、後半にスピードが落ちずに、伸びるからだと思うんです。まだ大きなレースで勝てていないので、今は正直、これでいいのかという迷いはあります。ただ今の形が一番、勝ちパターンにもっていきやすいですし、心のどこかに先行へのこだわりは持ち続けています」

 すでにトップクラスの実力を見せているが、まだ進化の過程にあり、発展途上だという自覚がある。ホームバンクを同じくする児玉碧衣(福岡/108期)や小林優香(福岡/106期)の偉大さを日常的に感じているだけでなく、ガールズケイリンで長くトップを戦う石井寛子(東京/104期)、小林莉子(東京/102期)について「2秒先に何が起きるかわかっているような動き方をするんです。気がつくと、"なんでそこにいるの"っていうところにいつの間にかいる」と力の差を口にし、「レースの運び方ももっと学びたい」と話す。

「本当に自分はまだまだなんですよ」

 尾方はこう繰り返す。しかしそれは伸びしろを残しているということに他ならない。デビューからまだ4年目。本領発揮はこれからだろう。


ほんわかした独特の雰囲気を持つ尾方 photo by Gunki Hiroshi

【3度目の挑戦、集中力高く】

 過去2度出場したガールズグランプリでは、一昨年が6位、前回が4位。今年が3度目の挑戦となるが、今回も最も若く、思い切ったレースをすると誓う。

「負けたくないって気持ちは強いんですが、まずは自分の力を出し切ること、思い切ったレースをすることが大切だと思っています。私は3日間のレースで調子を上げていくタイプなので一発勝負は苦手なのですが、絶対に後悔はしたくないです。先輩たちのレース前の集中力は本当にすごいのですが、私も負けないようにしっかり心の準備をして挑みます」

 最高峰の大舞台で集中力高く、力を発揮できるか。大器が覚醒する瞬間を待ちたい。

【Profile】
尾方真生(おがた・まお)
1999年5月7日生まれ、熊本県出身。中学・高校と陸上競技を行ない、大学1年の時に日本競輪選手養成所の試験を受けて合格。養成所では持ち前のポテンシャルの高さを発揮し、在所成績2位で卒業する。2020年5月にデビューすると、いきなり完全優勝を果たす。翌2021年にはガールズグランプリに初出場して6着となり、2022年のガールズグランプリでは4着に入る。2023年も3年連続でガールズグランプリの出場権を獲得している。