プレミアリーグ第14節。ブライトン(8位)の相手はチェルシー(10位)で、ヨーロッパリーグ(EL)対AEKアテネ戦から中2日での試合だった。

 三笘薫は故障明けの一戦となった前戦、いかにも病み上がりといった躍動感のないプレーに終始。ボールに絡む機会がほとんどないまま、後半24分、交代でベンチに下がっていた。代表ウィーク前とはまさに別人のようなプレーだった。そしてこのチェルシー戦はベンチスタートである。W杯アジア2次予選のために日本代表に招集することの意味を、いま一度、問い正したくなるのだった。

 チェルシー戦。三笘以外にもケガ人、コンディション不良者を大量に抱え、満身創痍での戦いを余儀なくされたブライトンは、前半17分、21分と立て続けにゴールを許す、泣きっ面に蜂と言いたくなる最悪の滑り出しとなった。だが前半終了間際、右ウイングとして先発したファクンド・ブオナノッテが鮮やかな左足シュートを決め1点差とする。先日、U−22アルゼンチン代表の一員として来日し、U−22日本代表と対戦した18歳の左利きだ。

 1点差に迫られたチェルシーは前半終了間際、1トップ下のコナー・ギャラガー(イングランド代表)が2枚目のイエローを受け10人となる。ブライトンの追い上げムードは加速しそうな展開になった。三笘薫に出番は訪れるのか。しかし3日前のようなデキならば、逆にいい流れに水を差すことになる。後半開始の笛を複雑な思いで聞いた。


チェルシー戦に後半12分から途中出場した三笘薫(ブライトン)photo by AFLO

 その登場は後半12分。ロベルト・デ・ゼルビ監督が4枚の交代カードを一挙に切ったその1枚だった。同点、逆転を狙い勝負に出たことが明白となる4枚替えだった。三笘はその期待に応えることができるのか。

 最初のタッチはパスカットだった。相手のMFエンソ・フェルナンデス(アルゼンチン代表)のフィードを胸でトラップ。コントロールした瞬間、相手MFモイセス・カイセド(エクアドル代表)に引っかけられ、見る側をヒヤッとさせた。だが三笘は何事もなかったかのようにスッと起き上がり左に開いたジョアン・ペドロ(ブラジル代表)にパスを送った。

【3日前とは別人のような躍動】

 だが胸をなで下ろしたのも束の間、後半20分、ブライトンはGKのフィードからカウンターを浴び、ジェームス・ミルナー(元イングランド代表)が、突進する左ウイング、ミハイロ・ムドリク(ウクライナ代表)を倒し、PKを献上。これをエンソ・フェルナンデスに決められ1−3とされた。
 
 そのキックオフの後、ボールを受けたビリー・ギルモア(スコットランド代表)が、まず探した相手は三笘で、その鼻先にインフロントでフワリとした軽いタッチの縦パスを送った。

 それは久々に拝む三笘のウイングプレーだった。浮き球のトラップがまず秀逸だった。トラップとドリブルが境界のない一連の連続動作になっていた。高級なプレーがいきなり、挨拶代わりのように飛び出した。そしてそのままゴールライン際から折り返せば、中央に飛び込んだイヴァン・ファーガソン(アイルランド代表)への惜しいラストパスになった。

 その間、対峙する左SBアクセル・ディサシ(フランス代表)は抵抗することができずじまい。三笘の完勝だった。3日前の三笘とはそれこそ別人のようだった。

 ブライトンの選手は三笘が完全に調子を取り戻したと確信したのか、1分と経たぬうちに再び左ウイングにボールを運んだ。折り返しはチアゴ・シウバ(ブラジル代表)に跳ね返されたが、この2プレーで、三笘にボールを集めればチャンスになることが誰の目にも明らかになった。

 3回目のプレーは、さらに三笘らしかった。内を突くと見せかけ、大きな切り返しのフェイントから縦を突く。アルペンのスラロームを彷彿とさせる鋭く舞うようなターンで、チェルシーDFを混乱に陥れたのだ。

 ここまで絵になるドリブルをする選手は、世界を見渡してもそうザラにいない。完全復活である。ブライトンの選手はボールを奪うや、ジェスチャーつきで左ウイング方向を指した。突破口を三笘の切れ味鋭いウイングプレーに求めようとした。1対1は全勝に近かった。後半37分には惜しいヘディングシュートも放っている。繰り返すが、3日前が嘘のような躍動ぶりだった。

 見どころは後半43分にも用意されていた。中央をドリブルで抜けた三笘が、チェルシーDFイアン・マートセン(U−21オランダ代表)と交錯して倒れたシーンだ。映像を見る限り、マートセンの右肘が三笘の顔に入ったことは確かだった。PKか否か、微妙なシーンだった。主審がノーファウルの判定を下すと三笘は激高。主審に激しく詰め寄った。

 三笘と言えばポーカーフェイスで知られるクールな選手だ。常に沈着冷静で淡々とプレーするが、この時は違った。選手の輪の中に自ら入り吠えていた。これまた別人が乗り移ったかのような表情を見せたのだ。それだけ元気が戻ったということか。

 ブライトンはアディショナルタイムに入った後半47分、CKからジョアン・ペドロのヘディングが決まり2−3とする。アディショナルタイムは10分で、実際は15分近くに及び、ブライトンは最後まで押しまくったが、3点目を挙げることはできなかった。

 しかし、ブライトンにとって三笘が完全復活したことは朗報だ。試合には敗れたが、無事が確認できたことは喜ばしい限りだ。日本人のファンにとってはなおさらだろう。くれぐれもその扱いには注意してほしいものである。