ランディ・バース(元阪神)やオレステス・デストラーデ(元西武)、タフィ・ローズ(元近鉄など)、アレックス・カブレラ(元西武など)、アレックス・ラミレス(元ヤクルトなど)......かつては圧倒的な打力でチームを勝利に導く強烈な助っ人が数多く存在し、野球界を席巻した。しかし、近年は日本のプロ野球で活躍する外国人野手が少なくなり、"助っ人"とは呼べない状況になっている。

 かつて大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)で活躍し、現在は野球解説者やYouTubeでも活動する高木豊氏に、日本で活躍する外国人選手が少なくなった理由を聞いた。


不振に終わったソフトバンクのアストゥディーヨ。他の多くの外国人野手も結果を残せなかった photo by Sankei Visual

【日本の投手の質の向上】

――昔に比べて、日本で活躍する外国人野手が少なくなった印象があります。

高木豊(以下:高木) 理由として考えられるのは、日本人のピッチャーの質が著しく向上しているということ。それと、メジャーリーグで日本人のピッチャーが活躍できる理由のひとつとして、フォークボールを持っていることが挙げられますよね。

 今年のWBCのアメリカとの決勝戦でも、戸郷翔征(巨人)や郄橋宏斗(中日)のフォークボールを、メジャーの一流のバッターたちは全然打てなかった。メジャーではフォークボールを投げるピッチャーは少ないので、外国人選手は落ちるボールに弱いんです。

 日本のプロ野球の試合で7回、8回、9回を投げるピッチャーは、ほとんどがフォークボールを投げるじゃないですか。そうなると、せめて先発ピッチャーから打ちたいと思う。だけど、先発ピッチャーの精度も高くなっているので、1試合を通じて打つのが難しくなってしまうんです。

――バースさんやデストラーデさんなどは、メジャーでそこまで実績を残していなかったのに、日本で好成績を残しましたね。

高木 僕も彼らが活躍していた時期は現役でしたが、その頃はまだ日本人ピッチャーの真っ直ぐが遅かったですから。真っ直ぐが遅いということは、変化球はさらに遅いということ。高速スライダーなどもなく、通常のスライダーでしかなかったですからね。

 フォークボールに関しても、今は140キロを出すピッチャーも珍しくないですが、当時は130キロ前後でした。当時のピッチャーに比べて今は球速が10キロ増し。真っ直ぐも150キロを超えるのが当たり前で、150キロ台中盤を出すピッチャーも多くなっています。球種もすごく増えていますし、バッターが昔みたいな成績を残すのは難しいと思いますよ。

 当時、メジャーのピッチャーの球を経験しているバッターにとって、日本のピッチャーは「メジャーから10年遅れている」という認識だったと思うのですが、今はその誤差がなくなっていますからね。日本に来たからといって簡単に打てる時代ではありません。

――プロ野球のピッチャーの質は、今やメジャーと遜色がない?

高木 ピッチャーの質とか球の速さに関しては遜色ないと思います。パワーはまだ追いついていませんが、数字に表われる部分はずいぶん追いついてきましたね。真っ直ぐの速さ、スライダーやカットボール、ツーシームといった変化球の精度などはそれほど変わりません。球が速いピッチャー、変化球の精度が高いピッチャーの絶対数は、メジャーのほうが多いでしょうけど。

【もう"助っ人"ではない】

――日本のピッチャーの質が向上している一方、日本に来る外国人野手のレベルはどう見ていますか?

高木 レベルは下がっています。昔と比べるとメジャーも球団が増えていますし、優秀な選手の受け皿が必然的に多くなる。それと、メジャーでは2020年からベンチの登録枠が25人から26人に拡大していますし、2022年からは年俸の最低保証額が上がったほか、ナ・リーグでも指名打者制がスタートしました。そういったことも、日本に来る野手たちの質に影響していると思うんです。

――以前はプロ野球が、メジャーの舞台からこぼれていた優秀な選手の活躍の場になっていたわけですね。マイナーリーグの待遇(年俸、移動の負担など)も改善されていますし、積極的に日本でプレーすることを求める外国人選手が少なくなっているのかもしれません。

高木 そうですね。なので、これからは外国人選手に過度な期待はしないほうがいいと思います。日本人の選手でも、今季は3割を打ったのがセ・リーグで3人、パ・リーグで2人だけ。本塁打王争いにしても、昔は上位に外国人選手の名前が多かったですが、今季のトップ3にいたってはセ・パ通じてロッテの(グレゴリー・)ポランコだけですから。

――もはや"助っ人"と呼べる状況ではない?

高木 選手たちも、あまり"助っ人"とは感じていないでしょう。一目置くということも全然なく、単にチームメイト。本当に友達感覚でやっていますよ。

――高木さんの時代は、外国人選手に対する見方が違いましたか?

高木 「高い年俸をもらっているんだろうから、打ってくれよ」っていう感じで見ていました。「打ってもらわなきゃ困る。打って当たり前」という位置づけでしたね。今は、先ほども言ったように友達みたいな感じですし、「日本でうまくなりたい」と思っている外国人選手もいるくらいですから。

――外国人選手に過度な期待はできない、ということでしょうか?

高木 あまり期待はしないほうがいいと思います。打率、本塁打、打点、出塁率にしろ、トップ10に入るぐらいの成績を残してくれれば十分じゃないですか。最初からホームラン30本とか、打率3割とかを期待してしまうと現実とのギャップが出て、打てなかった時にすぐに代えることになる。

でも、目標を低めに設定しておけば、ある程度我慢して起用し続けることができると思うんです。起用し続ければ、結果的にアジャストして想定よりも打ち出すこともあるはず。とにかく、昔とは違った使用法などを考えないといけないですし、見る側も長い目で見る必要があるでしょう。

【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)

1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。