プロ野球界は人材の宝庫である。

 12球団の目利きが「これは」と見込んで獲得し、育成している精鋭たち。当然のことながら、潜在能力が低いはずはない。

 それでも、レギュラーの椅子は限られている。"椅子とりゲーム"に後れをとり、控えに甘んじている選手も少なくない。なかでも恐るべきポテンシャルを秘めながら、停滞している選手を筆者は「もったいない選手」と呼んでいる。

【かつてのもったいない選手たち】

 筆者は過去2回にわたりweb Sportivaでプロ野球12球団の「もったいない選手」をリストアップしてきた。記事には多くの反響があり、多くの読者も「もったいない」と感じていることをあらためて実感できた。

 なお、前回2021年シーズン前(1月18日時点)に筆者が選んだ「もったいない選手」は下記の15選手だった。

12球団もったいない選手2021早春編
三森大貴(ソフトバンク/21歳)
真砂勇介(ソフトバンク/26歳)
平沢大河(ロッテ/23歳)
愛斗(西武/23歳)
オコエ瑠偉(楽天/23歳)
淺間大基(日本ハム/24歳)
後藤駿太(オリックス/27歳)
宗佑磨(オリックス/24歳)
岸田行倫(巨人/24歳)
江越大賀(阪神/27歳)
溝脇隼人(中日/26歳)
関根大気(DeNA/25歳)
細川成也(DeNA/22歳)
磯村嘉孝(広島/28歳)
廣岡大志(ヤクルト/23歳)
※所属、年齢は2021年1月18日時点/真砂(現・日立製作所)と溝脇はNPB球団から退団

 あらためて振り返ると、「この選手も『もったいない選手』だったの?」と驚かされる顔ぶれではないだろうか。

 記事掲載後、三森、愛斗、淺間、宗、関根、細川(現・中日)はレギュラー格としてブレイクし、「もったいない選手」から卒業した。とくに「現役ドラフト」を経て、新天地で開花した細川はエポックメイキングだった。

 また、オコエ(現・巨人)、江越(現・日本ハム)、廣岡(現・オリックス)のように、移籍先で居場所を見つけ、存在感を放ち始めた選手もいる。


入団時は「サニブラウンに勝った男」として注目された日本ハムの五十幡亮汰 photo by Koike Yoshihiro

【ケガに泣く球界屈指の快足選手】

 なお、「もったいない選手」の選考対象は、高卒は入団5年目以上、大卒・社会人その他は入団3年目以上の野手としている。投手は実力さえあれば野手よりもチャンスが多い性質のため、除外している。

 前述の「現役ドラフト」という制度ができたことは「もったいない選手」にとっては大きな追い風だ。細川だけでなく、大竹耕太郎(阪神)が大ブレイクするなど、人材活性化につながっている。そこで12月8日に実施される現役ドラフトを前に、約3年ぶりに「もったいない選手」をリストアップすることにした。

12球団もったいない選手2023晩秋編
小幡竜平(阪神/23歳)
宇草孔基(広島/26歳)
中村奨成(広島/24歳)
勝又温史(DeNA/23歳)
増田陸(巨人/23歳)
濱田太貴(ヤクルト/23歳)
石橋康太(中日/22歳)
太田椋(オリックス/22歳)
廣岡大志(オリックス/26歳)
藤原恭大(ロッテ/23歳)
リチャード(ソフトバンク/24歳)
海野隆司(ソフトバンク/26歳)
若林楽人(西武/25歳)
西川愛也(西武/24歳)
五十幡亮汰(日本ハム/25歳)
※年齢は2023年12月1日現在

 真っ先に取り上げたいのは、五十幡亮汰(日本ハム)である。今秋、アジアプロ野球チャンピオンシップで牧秀悟(DeNA)、森下翔太(阪神)が活躍するなか、「本来であれば五十幡もこのなかにいなければならない人材だよな......」と思わずにはいられなかった。

 中央大では牧と同期で、森下の2学年先輩にあたる。身長171センチと小柄ながら球界トップクラスの快足の持ち主で、中学時代には全日本中学校陸上競技選手権大会(全中)で100m走、200m走で二冠を達成。プロ入り時には「サニブラウンに勝った男」というキャッチフレーズが躍った。

 だが、その類まれなスピードは諸刃の剣でもあった。プロ1年目のキャンプ時に左太もも裏の肉離れで離脱すると、その後も腰椎椎間板ヘルニアなど故障が頻発。超人的なスピードに肉体が悲鳴をあげるシーズンが続いている。同期の牧が球界の顔として華々しく活躍するなか、五十幡はプロ3年間で通算103試合、66安打に留まっている。

 それでも、体調万全時のスピードと外野からの突き刺すような強肩は本物だ。今オフには内野守備の練習にも取り組んでおり、首脳陣からの期待は高い。いずれは球界を代表するスピードスターにならなければおかしい逸材のはずだ。

 若手主体だった今秋の侍ジャパンメンバーのなかでは、藤原恭大(ロッテ)も早く「もったいない選手」を卒業してほしいひとりである。

 5年前のドラフト会議では3球団から重複1位指名を受けた大器。左打ちの外野手はプロ側の需要が低くなりがちだが、藤原のずば抜けた身体能力と豪快なフルスイングの前にスカウトたちも夢を見ずにはいられなかった。

 とくに大阪桐蔭高時代の体調万全時のスローイングは「レーザービーム」と呼ぶにふさわしい、惚れ惚れさせられる軌道だった。ただし、4年前に左肩関節唇を痛めて以降は、悪戦苦闘が続いている。今の藤原の送球を見るたびに「本当ならこんなもんじゃないのに......」というもどかしさが募ってしまう。

 肩だけでなく、自慢の足も故障がちで、今季5月には右太もも裏を痛めて一時離脱している。今季は自己最多の103試合に出場したものの、打率.238、3本塁打、5盗塁と期待に応えられたとは言いがたい。名実ともに侍ジャパンのユニホームが似合う選手になってもらいたいものだ。


ウエスタンリーグで4年連続本塁打に輝いたソフトバンクのリチャード photo by Koike Yoshihiro

【ファームで4年連続本塁打王】

 現在、ドラフト戦線では「右の強打者」の需要が高騰している。球界全体を見ても左打者が多く活躍しており、戦力バランスを整える意味でも右の強打者が求められているのだ。とはいえ、前述の細川(中日)の例もあるように、くすぶっている右打者も多い。そろそろ爆発に期待したい右の強打者と言えば、リチャード(ソフトバンク)と濱田太貴(ヤクルト)が双璧だろう。

 リチャードはバットに当たった瞬間の爆発力は群を抜いている。プロ6年目の今季、ウエスタン・リーグで史上初となる4年連続の本塁打王(19本塁打)を獲得した。もはや二軍にいてはいけない存在だが、一軍では今季22試合、64打席ものチャンスをもらいながら、打率.115、0本塁打、1打点と低迷。過去2年の124打数で54三振を喫したように、コンタクト面の課題が改善できていない。

 とはいえ、これほどの大砲が当てにいくスイングをしても面白味は何もない。強く、正確に振り抜く打撃へと進化させ、新時代の主砲に君臨したいところだ。

 一方の濱田は今季103試合に出場と出番を増やしたものの、打率.234、5本塁打と壁を突き破ることはできなかった。体格的に目を引くものはないが、ボールに対して強くコンタクトできるスイングは非凡。村上宗隆が2025年オフにはメジャーリーグ球団に移籍するとみられるだけに、濱田らの成長はチームの近未来を左右する。右の強打者では、他にも来季5年目を迎える井上広大(阪神)もそろそろ尻に火がつく頃だ。

 西川龍馬がオリックスにFA移籍する広島は、外野手のレギュラー争いが激化する。後釜の本命はパワーヒッターの末包昇大か、天才的な打撃センスを誇る若手の田村俊介だろう。だが、宇草孔基と中村奨成も「このままではあまりにもったいない」と思わせる能力の持ち主である。

 宇草は今季故障に苦しみ、一軍出場なしに終わった。2021年に43試合で6盗塁を記録した俊足が最大の武器に見られがちだが、ツボにはまると果てしなく飛ばすこの選手のスイングには夢がある。中村奨は攻守で本来持つエネルギッシュさを発揮できないまま、プロでの6年間を終えてしまった。それでも、グラウンド上で放射される華は得がたい個性だ。

 レギュラーが固まらない西武の外野陣も「もったいない選手」がひしめいている。リストには体調万全ならブレイク必至の若林楽人とバットさばきが魅力の西川愛也の名前を挙げたが、どの方向にもヒット性の打球を運べる鈴木将平もいる。

 最後にピックアップしたいのは、約3年前にも「もったいない選手」として挙げた廣岡大志(オリックス)だ。プロ8年間でヤクルト、巨人、オリックスと渡り歩いたのも、首脳陣に「廣岡なら......」と期待させるだけの素質があるからこそ。今季は日本シリーズ第2戦でスタメンに抜擢されると、4打数2安打1打点と活躍している。

 それでも、レギュラーとして活躍しない限りは「もったいない」と言い続けたい。廣岡大志のスイングに夢を見たひとりの人間として、来季こそ「もったいない選手」を卒業してくれることを祈るばかりだ。