今年、38年ぶりに日本一に輝いた阪神タイガース。チーム防御率2.66の充実した投手陣と、12球団最多の494四球をもぎとるなど、しぶとい攻撃と堅い守備が光った野手陣。そして岡田彰布監督のマネジメントが冴えわたったシーズンだった。

 とはいえ、今年活躍した選手が来年も安泰とは必ずしも言えないのがプロの世界。そこで求められるのは、次代を担う若手の台頭だ。阪神の黄金時代を築くためのカギを握る有望株を8選手ピックアップしてみた。


将来のクリーンアップ候補として期待がかかる前川右京 photo by Koike Yoshihiro

前川右京(外野手/20歳/左投左打/2021年ドラフト4位/智辯学園高)

 高校時代は通算37本塁打を放った左の強打者。3年春のセンバツでは消化不良に終わった反省から夏までに6キロ減量し、夏の甲子園ではキレのある動きを披露。打率.455、2本塁打と大暴れし、おまけに足が速くなったところもアピールした。

 プロ入り後は故障が続いたものの、今季のセ・パ交流戦から一軍に昇格。6月は月間打率.358と大当たりで、3番打者として12試合に起用されている。8月に入って体調不良のため登録抹消されて以降、打撃の感覚を崩して一軍に復帰できなかった。

 とはいえ、今季一軍で107打席に立った経験は大きな糧になる。来季はひと回りたくましさを増して、森下翔太との右翼ポジション争いを勝ち抜きたい。

井上広大(外野手/22歳/右投右打/2019年ドラフト2位/履正社高)

 高校時代から右の大型スラッガーとして名を馳せたが、その名を全国区にしたのは3年夏の甲子園での活躍だった。春のセンバツで2三振と完璧に抑え込まれた星稜・奥川恭伸(現・ヤクルト)と、夏の甲子園決勝で再戦。井上は甘く入ったスライダーをとらえ、高校通算49号となる3ランをバックスクリーンに叩き込む。この一打を含め高校最後の甲子園で3本塁打を放ち、全国制覇とドラフト2位指名を勝ちとっている。

 だが、プロ入り後は苦戦が続いている。プロ4年間でウエスタン・リーグに341試合に出場して40本塁打を放った一方、三振数は449に上っている。今季は春季キャンプから対外試合で本塁打を連発して岡田監督からキャンプMVPに指名され、開幕一軍入り。得点圏打率.455と勝負強さを見せたものの、35打数で18三振を喫して5月に登録抹消。その後は一軍に呼ばれることはなかった。

 今季途中からノーステップ打法に取り組み、確実性向上を目指している。未完の大砲のままでは終われない。5年目の来季は勝負の年になる。

森木大智(投手/20歳/右投右打/2021年ドラフト1位/高知高)

 高知中3年時に中学軟式で最速150キロをマークし、「スーパー中学生」と脚光を浴びた大器。高知高では外部からの心ない声に悩まされた時期もあったというが、強いメンタリティーで立ち直り高校3年夏には最速154キロを計測。甲子園出場こそなかったものの、阪神にドラフト1位指名を受けてプロ入りした。

 プロ1年目から一軍マウンドを経験するなど順調な滑り出しに見えたが、2年目の今季に暗転。フォームを崩して実戦マウンドから遠ざかる時期もあり、ウエスタン・リーグの防御率は6点台。シーズン後は台湾開催のアジアウインターリーグへ派遣される予定だったが、フォーム固めを優先するため見送られた。

 高校時代からアームアングルの位置を微修正するなど、繊細な面と神経質な面が紙一重で存在していた。今はもがき苦しんでいるとはいえ、プロ2年目で成否の結論を出すのは早すぎる。大ジャンプする直前のかがんでいる状態と前向きにとらえたい。

門別啓人(投手/19歳/左投左打/2022年ドラフト2位/東海大札幌高)

 高校時代は左腕特有のクロスファイアーと鋭いスライダーを武器に、高校生離れした完成度を誇っていた。「2ストライクで追い込んだあとの決め球は気持ちで投げたい」と語り、3年春の札幌地区予選では1試合20奪三振の快記録も残している。

 プロ1年目の今季はウエスタン・リーグで55回を投げ、防御率2.78と活躍。9月には高卒新人ながら一軍に昇格し、9月30日の広島戦では先発デビュー。5回無失点と結果を残した。

 プロ入り後、ストライクゾーンが狭まることで苦しむ高卒投手も多いなか、門別にはそんな戸惑いが感じられない。ストレートのキレと精度をさらに高められれば、来季から戦力になる可能性は高いだろう。伊藤将司、大竹耕太郎と生きた見本から盗めるだけ盗みたい。

茨木秀俊(投手/19歳/右投右打/2022年ドラフト4位/帝京長岡高)

 北海道から新潟の帝京長岡に進学し、元日本ハム投手だった芝草宇宙監督の指導を受けて成長。高校時代は好不調の波が激しかったものの、指にかかったストレートは打者の手元でひと伸びする好球質だった。

 将来性を評価され、ドラフト4位で阪神に入団。プロ1年目はウエスタン・リーグで12試合に登板し、3勝3敗、防御率6.57の成績だった。

 すでにブルペンでは目を引くボールを投げているだけに、あとは実戦でのアピールが不可欠。質の高いボールをコンスタントに投げるための再現性が求められる。同期入団の門別との北海道出身コンビが投手陣の競争を煽れれば、阪神の前途は明るい。

中川勇斗(捕手/19歳/右投右打/2021年ドラフト7位/京都国際高)

 高校3年夏に甲子園で2試合連続本塁打を放つなど、京都国際にとって初のベスト4進出を牽引した。身長172センチと小柄ながらキャッチング、スローイングともに安定しており、ドラフト下位指名ながら守備力とパンチ力を評価されてプロ入りしている。

 2年目の今季、ウエスタン・リーグでは57試合に出場して打率.265、3本塁打、18打点とまずまずの打撃成績。守備ではチーム最多の50試合でマスクを被った。交流戦の時期には一軍に昇格し、出場機会こそなかったものの貴重な経験を積んでいる。

 梅野隆太郎、坂本誠志郎の両捕手が30代となり、次世代の正捕手育成は喫緊の課題。そんななか、今秋のドラフト会議で阪神は捕手を指名しなかった。これは中川に対する高い期待の表われではないか。3年目の来季に少しでも成長を見せつけ、後釜としての地位を固めたいところだ。

井坪陽生(外野手/18歳/右投右打/2022年ドラフト3位/関東一高)

 高校時代は通算32本塁打のパワーと俊足・強肩の総合力を評価されてプロ入り。厚みのある体型は対戦相手に威圧感を与えた。

 プロ入り後はバットを右肩に担ぐように構え、ヒッチを入れてとらえるメジャーリーガーのようなスイングに変貌。この打撃フォームが肌に合ったのか、ウエスタン・リーグでは春先から安打を量産。5月時点で首位打者に立つなど、インパクト十分の活躍を見せた。

 最終的に93試合の出場で打率.248、3本塁打、34打点、4盗塁と高卒1年目としては上々の成績をマークした。来季、左翼と右翼の激戦区に割って入る可能性は十分ある。独特の打撃スタイルで弱肉強食の世界を生き残れるか。

野口恭佑(外野手/23歳/右投右打/2022年育成ドラフト1位/九州産業大)

 創成館高時代は2年秋の明治神宮大会で、根尾昂(現・中日)らを擁して「最強世代」と呼ばれた大阪桐蔭を破る金星を挙げた。当時は細身な1番打者でスカウトから注目される存在ではなかったが、九州産業大進学後にビルドアップに成功。強力なパンチ力を生かした打撃は、大いなる可能性を感じさせた。

 育成ドラフト会議で指名され、背番号121で戦った今季はウエスタン・リーグで67試合に出場。打率.303、6本塁打、18打点と結果を残した。岡田監督の評価も高く、シーズン後には支配下登録されている。

 森下翔太、小野寺暖、井上広大、井坪陽生ら右の有望強打者がひしめく外野陣でのし上がるのは至難の業。それでも、育成からはい上がったバットマンの生命力は、きっと一軍の舞台で必要とされる時がくるはずだ。