侍ジャパンの新指揮官に就任した井端弘和監督の初陣となったアジアプロ野球チャンピオンシップは、日本の連覇で幕を閉じた。今回、若手中心となった井端ジャパンのメンバーだったが、ライバルたちの目にはどう映ったのか。これまで国際大会で数々の名勝負を繰り広げてきた韓国の崔一彦(日本名・山本一彦)投手コーチに、井端ジャパンのなかで印象に残った選手について聞いた。


アジアプロ野球チャンピオンシップで好投した根本悠楓 photo by Taguchi Yukihito

【日本の投手はレベルが高い】

── 日本戦はわずか2試合でしたが、印象に残った選手を挙げてもらえますか?

山本 投手では、決勝の2番手で登板してきた根本悠楓投手ですね。あの球にはみんな驚いていました。インコースの真っすぐ、しっかりビシビシ決まっていて、打ってもファウルにしかならない球を投げていた。打てるとしたら、外から入ってくるスライダーだけだったんじゃないかな。とにかく真っすぐは独特な球筋でした。あれは初見では打てんでしょう。ちなみに事前に映像データなど見てはいましたが、根本くんは見ていませんでした。

── 根本投手の球筋ですが、具体的には?

山本 右打者のアウトコースに逃げていくような球です。シュート系とも違う、力感を保持しつつ逃げていくようなイメージです。打者からすれば想定外の球筋というか、韓国のバッターは真っすぐのつもりで振りにいってもバットに当たらなかった。それでいてインコースはクロスファイアーで食い込んでくるから、右打者は相当苦労していました。

── そのほか、印象に残った投手はいましたか?

山本 隅田知一郎投手はチェンジアップがよかったですね。低めにしっかりと決まる。球速は150キロオーバーというわけじゃないけれど、変化球を含めしっかりと制球できている。彼も根本投手同様、慣れるまで攻略するのは難しい投手です。いずれも若くてすばらしい投手ですが、井端弘和監督はただいいからではなく、国際大会という性質を意識して選出したんじゃないかな。そう感じる投手陣でしたね。

── 総じてレベルが高い?

山本 もちろんです。韓国には2年前まで現役で、8年連続して2ケタ勝利を挙げた柳煕寛(ユ・ヒグァン)というサウスポーがいました。球速は130キロそこそこなのに、毎年2ケタ勝っていた。それで私は、韓国の若い投手たちに言っていたんです。「おまえたちはスピードばかり関心を持つが、なぜ柳が勝てるのかわかるか?」と。要するに制球力、そして球のキレです。その点、隅田くんに代表される日本の若い投手は、制球力とキレ、球質が韓国の同世代のそれとはずいぶん違う。せっかくの国際大会ですからね、若い韓国の投手たちが、そうしたことに関心を持ってくれたらいいのですが。


アジアプロ野球チャンピオンシップで4割を超す高打率を残した小園海斗 photo by Taguchi Yukihito

【今季ブレイクした万波中正の印象は?】

── 野手で印象に残った選手は?

山本 小園海斗選手は、あそこまでいい打者だとは思っていませんでした。ストライクゾーンに入ってくる真っすぐは、しっかり芯で捉えてくる。積極性もあって、早いカウントからどんどん振ってくる。変化球でカウントをとったり、ボール球をうまく使ったり、もっと違う攻め方ができれば、結果は違ったものになったかもしれないですが、左ピッチャーも苦にせずうまく攻略していたし、ほんといいバッターだと思いました。

── 今大会で結果を残した万波中正選手はいかがですか。

山本 もちろん、彼も素質のある打者だと思いました。プロ入りした頃と比べたら、スイングは変わったし、打席での集中力も増したし、怖いバッターですよ。体が突っ込まなくなり、ボールを引きつけて打てるようになった。引っ張るばかりではなく、逆方向に打つ意識も高くなっている。

 ただ万波くんに関しては、ウチ(韓国の投手)が攻め方を間違えました。変化球をしっかりコーナーに投げきれていたら、そう打たれることはなかったはず。あと、森下翔太選手の真っすぐに対する対応力は、高く評価されるべきでしょうね。その森下選手にしても、変化球をうまく混ぜられた時にどうなのか。

── 大会前に映像チェックをしていたということですが、注意していた打者は?

山本 やはり4番の牧秀悟選手です。彼は配球を読んで、狙い球を絞ってくる印象を受けました。それがハマった時は打てる。真っすぐを狙って変化球が来たら対応するというのではなく、配球傾向から狙い球を決めている。そんな感じですね。

── 捕手の坂倉将吾選手(広島)のリードは、どんな印象を持たれましたか。

山本 バッターの裏をかくリードが上手でしたね。打者は有利なカウントになれば、基本、真っすぐを待つものですが、坂倉選手はそのタイミングで変化球を要求してくる。真っすぐはあくまで見せ球にして、カウントを整えたらまた変化球で打ちとる。その配球がじつに見事で、これは坂倉選手に限らず、日本のバッテリーの考え方によるものじゃないでしょうか。日頃の試合でもそういうリードをしているのでしょう。そのうえで、前述したようにお互い初見の可能性が高い国際大会であることを意識した攻め方をしていく。日本は国際大会で常に好成績を残していますが、もちろん選手個々の技量が優れていることもありますが、そうしたバッテリーの攻め方も大きいと思います。