11月21日、2026年W杯アジア2次予選。中立地のサウジアラビアで行なわれた一戦で、日本はシリアを0−5と完膚なきまでに叩いている。初戦のミャンマー戦と同じく大勝で、アジアでの圧倒的な力を見せつけた。

 トップ下で先発した久保建英(レアル・ソシエダ、22歳)はこの試合で、攻撃の主役を演じている。32分には鮮やかな左足ミドルで先制に成功。その後も躍動し、シリアを手玉に取った。

「久保交響曲」

 スペイン大手スポーツ紙『アス』は、久保が牽引した日本の戦いを称賛し、そう見出しを打っている。

「前半、久保は先制点で口火を切った。GKをすばらしいミドルでシリアのGKの度肝を抜いている。後半も活力を与え、チームリーダーとして日本の8連勝に貢献した」

 
シリア戦で先制ゴールを決めるなど、日本の攻撃を牽引した久保建英 photo by Yasser Bakhsh/Getty Images

ヨーロッパでなぜ久保が恐れられているのか――。無垢で拙いシリアディフェンスと対峙することによって、その理由がくっきりと浮き彫りになった。

「必ず包囲網が作られるだろう。サイドバックの立場からしたら、ひとりでは守りきれない、というところまできているからね」

 レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の伝説的サイドバック、アイトール・ロペス・レカルテは、9月に行なったインタビューでそんな予測をしていたが、すでに現実になった。対戦相手は徹底的に久保を研究。サイドバックが密着マークに付くだけでなく、ボランチ、センターバックと三角形を作って、久保をからめ取ろうとしている。

 もっとも、久保は張り巡らされた網を食い破る牙を持つ。単独の素早いドリブル、もしくはコンビネーションを使って相手をずらし、わずかにできる綻びを見逃さない。パス、シュート、あるいはドリブルで。その変幻自在で相手サイドバックに悪夢を見せ、「敗者の烙印」を押し、途中交代に追い込んできた。

「今のところ、タケはサイドでダメージを与えている。ただ、時にポジションを変えながら、中でもプレーしている。サイドがスタートポジションなだけで、トップ、トップ下とも言える。彼はコンビネーション力に優れているだけに、フレキシブルな攻撃が一番、守備側には脅威になるはずだ」

 レカルテの言葉は啓示的だった。

【「ほしいところでゴールを奪ってくれる」】

 シリア戦でトップ下として自由を与えられた久保は、その真価を見せた。相手のレベルが落ちたことで、わかりやすく"凄み"が伝わったとも言えるかもしれない。ヨーロッパとは一線を画す、緩いマーキングと組織的でもない守備を面白いように切り裂いた。

 32分、やや下がってから右サイドの伊東純也からボールを受けた久保は、ひとりでやって来たマーカーを翻弄した。前へ運びながらカットイン。相手は俊敏さについていけず、寄せも甘くなった。そして一瞬で拵えた軌道に向けて、左足で鋭いシュートを打ち込んだ。

 チームは30分過ぎまで、ゴールに迫りながらネットを揺らせず、じりじりし始めていただけに、値千金の一撃だった。

「タケ(久保)がファンに愛されるのは、本当にほしいところでゴールを奪って、勝利をもたらしてくれるからだ」

 ラ・レアルの関係者は説明していたが、シリア戦でも存在感を証明した。昨シーズン、リーガでは9得点した試合は9戦全勝と"不敗神話"を作った。今シーズンも、5得点で3勝1分けと負けていない。とりわけ本拠地レアレ・アレーナでの久保のゴールは火が燃え盛るような魔力があって、チームが勢いづくのだ。

 シリア戦では、リード後も久保は手を緩めていない。40分には右サイドで伊東、菅原由勢とトライアングルを作りながらパス交換で守備陣を崩す。直接のアシストは伊東だったし、最後に仕留めたのは上田綺世だったが、久保のコンビネーション力は際立っていた。

 後半立ち上がりにはFKで自らが蹴らず、ちょこんとボールを動かし、菅原の右足ミドルによる4点目をアシストした。久保は敵GKを幻惑するように、一瞬、体重を移動させたところを逆方向へ、という狙いどおりだった。久保が発する脅威が敵を覆っていたことで生まれたゴールとも言える。

 その後も久保は下がってボールを受けながら、いくつもチャンスを作り出し、後半31分には"任務完了"で堂安律と代わってベンチへ下がっている。

「久保は代表で甘美な時を過ごす」

 スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』はそんな表現で、その活躍を伝えていた。

 久保はスペインに戻って、24日の全体練習から合流。唯一の懸念は過密日程だろう。代表戦の前後は「FIFAウィルス」と言われるようにケガが多発。同僚、ミケル・オヤルサバルもスペイン代表のキプロス戦で負ったケガによりしばらくは戦線離脱だ。

 11月26日、ラ・レアルはレアレ・アレーナでセビージャを迎え撃つ。30日は同じくホームでチャンピオンズリーグ(CL)ザルツブルク戦。12月に入るとスペイン国王杯の2回戦もあるなど、週2試合ペースが続く。幸いにもCLはすでにベスト16進出を決めているので、おそらくターンオーバーでの戦いになるだろうが、久保は修羅の道を行く。