日本代表のトップ下は久保建英か鎌田大地か 選択肢が増えたことこそW杯予選の収穫
サウジアラビアのジッダで行なわれたシリア戦。スタメンを飾ったのは以下の11人だった。
鈴木彩艶、菅原由勢、谷口彰悟、冨安健洋、伊藤洋輝、遠藤航、守田英正、久保建英、伊東純也、浅野拓磨、上田綺世。布陣は4−2−3−1。
一方、その5日前(16日)のミャンマー戦には以下の11人が先発した。
大迫敬介、毎熊晟矢、谷口彰悟、町田浩樹、中山雄太、田中碧、鎌田大地、南野拓実、堂安律、相馬勇紀、上田綺世。布陣は4−3−3だった。
2戦続けて先発した選手は谷口と上田。フルタイム出場した選手はいなかった。ベストメンバー度で上回るのはシリア戦だろう。
競争原理が働き、混沌として見えるのは、4−2−3−1で言うなら3の列で、4−3−3を4−1−「4」−1と4列表記に改めれば「4」になる。
シリア戦に先発したのは伊東、久保、浅野(右から)。ミャンマー戦に先発したのは堂安、鎌田、南野、相馬(右から)だ。1トップ以外のいわゆるアタッカー陣のなかで、本来、プライオリティが最も高い選手は三笘薫になるだろう。万全の状態なら左ウイングは彼で決まりだ。
右はこれまでの実績を踏まえれば伊東になる。そして伊東を優先すれば、レアル・ソシエダで今季右ウイングとして飛躍している久保は右ウイングの2番手か、あるいは1トップ下、インサイドハーフに活路を求めることになる。
シリア戦で先制ゴールを決めるなど勝利に貢献した久保建英photo by Kyodo News
久保はシリア戦で、4−2−3−1の1トップ下と、4−3−3のインサイドハーフとの中間的なポジションで構えた。
久保は、堂安ほどではないが、身体を左開き気味にしてボールを操作するので、正面からより、斜め右からゴールに迫ったほうが動きはスムーズになる。一方、ゴールに背を向けるポストプレーはうまくない。後半21分に久保は右ウイングに回ったが、後半31分、堂安と交代でベンチに下がっている。久保が右ウイングでプレーした時間は10分間に限られた。
10月のチュニジア戦、9月のトルコ戦でもプレーしたのは1トップ下だった。かつてテレビのインタビューに「最も好きなポジションはトップ下」と答えていた久保だが、レアル・ソシエダで現在プレーする右ウイングのほうが合っていると筆者は見る。チュニジア戦、トルコ戦と同様、1トップ下にしては右寄りで構えたポジショニングは、ベンチからの指示なのか、自身の感覚に基づくものなのか。いずれにせよその結果、左右のバランスはチームとして若干、乱れることになった。
【日本代表にひさびさの「キック自慢」】
その4−2−3−1は、右に重心が偏る布陣になる。攻撃面では、左、右、真ん中と3本あるルートのなかで、真ん中が最も脆弱になる。1トップ下付近にボールが収まるシーンが少ないのだ。前回(10月のカナダ戦、チュニジア戦)もそうだが、鎌田がチームを離れると、センタープレーヤーの不在は、厳然とした事実として浮上する。攻撃の3本のルートは描きにくくなり、正統な攻撃を実践できなくなる。
ここがW杯ベスト8以上の道のりに最も克服が必要な課題だと考えるが、それはともかく、久保がシリア戦の前半32分に蹴り込んだ先制ゴールは、1トップ下と右インサイドハーフの中間に位置するポイントから放った一撃だった。センタープレーヤー不在が気になる一方で、久保のキックに目が奪われるシーンは増えている。「キック自慢」の選手が最近の日本代表にはいなかっただけに、貴重な存在に映る。
久保は3点目のシーンにも、ゴールの2つ手前で絡んでいる。上田のゴールを演出した伊東に送った左足パスである。内に行くと見せて縦へ切り返すフェイントと同種の、相手の逆を突くプレーだった。
鎌田か久保か。1トップ下は難しい選択になっている。だがW杯本番を2年半後に控える現段階としては、どちらがベストかを考えるより、選択肢が増えたと捉えたほうが賢明だろう。今、白黒つける必要はまったくない。
シリアの選手個々の力はミャンマーより上だ。ミャンマー戦が5−0なら、シリア相手には3−0ぐらいかと考えるのが自然だ。だが結果は5−0と、ミャンマー戦と同じだった。シリアがオーソドックスな4バックで特段、引いて構えてこなかったことも幸いしたが、日本がミャンマー戦よりいいサッカーを披露したことも追い打ちを掛けた。
進歩のあとが見られたのは、先述の3本の矢の中で2本の矢に相当するサイド攻撃だった。堂安律(右ウイング)と毎熊晟矢(右サイドバック=SB)で組んだ右サイドに問題を残したミャンマー戦とは一変。サイドアタッカー各2人の関係は、左(伊藤、浅野)、右(菅原、伊東)ともミャンマー戦より良好で、両翼に攻撃の起点を築く、通り一遍ではないサイド攻撃ができた。
【トライする余裕がある試合が続く】
前半37分の上田が中央で合わせた2点目のゴールは、まさにサイド攻撃の産物だった。主役となったのは左SBの伊藤。左から右の伊東に振り中央に戻すという理想的な崩しから生まれた。伊藤も正確な左足キックを売りにする選手だ。2点目ではその魅力が全開になった。長友佑都の時代にはなかなか味わえなかった類いのプレーになる。
後半2分に決まった4点目はFKから。菅原が右足のインフロントで蹴り込んだ。
SBが活躍するサッカーこそがよいサッカー。SBが活躍したほうが勝つ。SBをいかに有効に使うか、など欧州に浸透しているSBの概念が、日本代表でも急に開花したかのような伊東、菅原のプレーぶりだった。
5点目の得点者は上田と交代で入った細谷真大だった。現在22歳。追加招集で加わった五輪世代のこの選手はこの先、代表チームで何点とれるか。誰かが休めば、その穴を埋める選手が現れ、チームが循環すれば、おのずと選手層は厚くなる。逆に同じ選手を呼び続けることは、選手層を薄くすることにつながる。本大会まで2年半以上ある今は、細谷のような若手選手を代表に加え、積極的に試す時期でもある。
W杯2次予選はその余裕がある試合だ。ミャンマー戦とシリア戦で、その確信を掴めたはずだ。アジアカップしかりである。もし優勝を逃しても、2年半後に向けてどちらが有益かははっきりしている。ケガ人や体調不良者だけではなく、ベストメンバーを意図的に外す、先を見越して戦う余裕が森保一監督には求められている。
次戦、どれほどメンバーを落として勝てるか。ベストメンバー度の低いメンバーで勝利を重ねるほど、チームの総合力は上昇する。2年半後への期待は増す。森保監督の評価も上昇する。そこに目を凝らしたい。