ケガ人率23%「代表招集のリスク」について考える 菅原・上田・伊東・堂安...それぞれの意見
ワールドカップ・アジア2次予選がスタートし、ミャンマーとシリアを相手に危なげなく順当勝ちを収めて2023年の活動を締めた森保ジャパン。カタールワールドカップを終えてからの新生・森保ジャパン初年度は「8勝1分1敗」と文句の言えない結果と手応えを得て、来年1月からはアジア王者を目指しアジアカップに臨む。
すべてが順風満帆に見える。だが、負傷者の多さと代表招集については、この先も常に考え続けなくてはならないテーマだ。
10番の堂安律もポジションは安泰ではない? photo by Sueishi Naoyoshi
11月ラウンドだけ見ても、合宿が始まる前の時点で伊藤敦樹(浦和レッズ)、川辺駿(スタンダール・リエージュ)、前田大然(セルティック)、古橋亨梧(セルティック)がケガのため不参加を表明し、活動開始以降には三笘薫(ブライトン)、鎌田大地(ラツィオ)も同様の理由で離脱。当初発表された26人のうち6人、つまりケガ人率は23パーセントと大きな割合を占めているのだ。
サッカー選手自体がケガのリスクは日常的に高く、しかも海外組にとってそのリスクは格段に上がる。それは、たとえファーストクラスのフライトを用意したとしても完全には消えない。もちろんエコノミークラスでの移動に比べればラクで疲労のリスクは低減するだろうが、それでも日常よりも疲れが取れる、いうことはあり得ない。
ただ、ケガや疲労に対する感覚は、選手によって違う。
たとえば、菅原由勢(AZ)の場合。11月ラウンド直前に出場した試合は12日・日曜日のフェイエノールト戦で、金曜日に試合を行なった選手に比べて2日遅れで代表に合流した。
23歳の菅原は「ミャンマー戦、木曜日でしょ? 火曜日に大阪について、木曜日に試合して、そのままサウジ。すごいな......すごいね。でも俺、若いから!」と元気いっぱいだ。
初めてのワールドカップ予選に胸を踊らせていたようで「環境とか、時差とか、相手のやり方とかね、すべてを楽しんでパワーに変えるしかない! それもひっくるめてアジア予選!」と極めて前向きに捉えていたあたりが、シリア戦のゴールにつながったとするのは短絡的だろうか。
【菅原由勢の意見と対照的だったのは上田綺世】一方で、慎重派もいる。
12日の試合で菅原と対戦した上田綺世(フェイエノールト)の場合。今季サークル・ブルージュからフェイエノールトに移籍し、直後の9月に負傷。その後はポジション奪取に苦しみ、今もベンチスタートが続く。それだけに、菅原とは真逆のことを言う。「ワールドカップ予選への意気込みを」という質問に対して、こう答えている。
「まずは準備ですね。僕としてはもうケガをしたくないし、チームでもこういう状況(ベンチスタート)なので、ケガが僕にとっては一番足を引っ張ること。そのうえでプレーし続けなきゃいけないけど、プレーのクオリティも上げていかないと。代表のなかではポジション争いとか、チームとして勝たないといけない試合になってくる。そういうところで貢献できたら」
また、ケガ対策としてはこう語る。
「中2日での移動による疲労や時差ボケ対策、コンディションについては個人で最善を尽くす。ミャンマーやシリアがラフに戦ってくるチームだったら、警戒しておかないといけない。そういう場面を避けながら戦うことも必要かもしれない。個人の判断でマネジメントしないと。ケガなく勝って終わることが大事」
代表戦では何よりもケガをしないことに気を遣っていることが伝わる。結果的にミャンマー戦では3ゴール、シリア戦では2ゴール。結果とケガ回避のマインドは関係がないようだ。
ケガについて達観しているのは、伊東純也(スタッド・ランス)だろうか。
代表招集の直前に出場した11日のパリ・サンジェルマン戦後、「疲れを口にしている選手が増えているが」という問いに対して、こう答えている。
「うーん、疲れてる......」と一旦考えたのち、「移動が長いんでね、やっぱ、きついのはきついと思います。まあでも、しょうがないとは思いますけど。好んでヨーロッパに来てるし、そこは受け入れてやるしかないなと。でも俺は毎回、代表に行きたいと思ってるんで、別にそこまで苦じゃないっていうか、移動はきついけど全然大丈夫って感じです」
【ニューフェイスにその座を脅かされる可能性も】たしかにそもそも、日本でプレーしていた選手たちが舞台を欧州に移すのは好き好んでのことではある。だからこそ「それは言い訳にならない」と考えているようだ。
「試合には毎回、全部出たいと思います。前(攻撃)はいい選手が多いですし。予選って総合力が大事だと思うんです。この前(10月)は(三笘)薫が来れなかったけど(取材時は三笘の離脱発表前)、(中村)敬斗(スタッド・ランス)が点を取ったりして、そういう誰が出ても(できる)っていうのは大事かなと思います」
攻撃にいい選手が揃っているとはいえ、"伊東抜き"の今の代表は考えづらい。だが、根本にはこのどこか『好きでやってることなんで』というスタンスは、なんだか肩の力が抜けていていい気がする。
堂安律(フライブルク)は10月ラウンドの時期に親知らずを抜歯し、計画的に代表活動の参加を見送った。ブンデスリーガ開催中の抜歯はそれはそれでリスクが高いし、11月になれば代表もワールドカップ予選という公式戦が始まってしまう。貴重な中断期を生かしたわけだ。
だが、10月ラウンド後に板倉滉(ボルシアMG)や旗手怜央(セルティック)がそれぞれのクラブで戦線離脱している様子を目の当たりにしながら、堂安自身は調子を取り戻している。複雑な心境をストレートに明かした。
「代表に行かなかったことによって、コンディションはもちろんよくなってます。ほかの選手についてもケガしたりして、代表に行ってかなりきついんだというのを改めて感じてます。そのなかでもやらなきゃいけないんですけど、ポジティブに捉えながら調整はしてました」
いくら計画的に不参加していたとしても、ニューフェイスにその座を脅かされる可能性だってある。だからこそ、調整の手を抜くわけにはいかなかったようだ。
また、ケガの話からは少し離れるが、浅野拓磨(ボーフム)や田中碧(デュッセルドルフ)の所属チームの監督は「代表活動後のリーグ戦で(浅野or田中は)結果を出す」と言っていた。
【CLやELにも出場すれば身体的な負担も増える】疲労が溜まっていたとしても、代表での活動で得た何かしらが所属チームでプラスに作用することもあるようだ。彼らの場合は、むしろ代表に招集されていったほうがクラブにとっていいケースなのかもしれない。
代表選手が強豪クラブでプレーし、CLやEL、ECLを戦えば、試合数が増えて身体的な負担も増える。だが、だからと言って「日本での試合は国内組を呼べばいいか」と言うほど簡単でもないことは、海外組の選手たちの話からもよくわかる。
とはいえ、負傷によって選手生命を短くする選手もいる。ケガと招集の問題に関して、簡単に答えは出ない。
だが、将来的に日本の総合力が底上げされ、国内組でも難なくアジア予選を突破するレベルに達すれば、日本もネーションズリーグに入れてもらって、欧州組はそちらで代表期間を戦うとか、実現的に可能かは一旦置いておいて、思い切った案があってもいいのかもしれない。