健康のために野菜中心の食生活にしようと思っても、どうしても肉が食べたくなってしまったという人は少なくないはず。逆に、肉が嫌いで特に意識しないうちにベジタリアンになったという人もいます。そんなベジタリアン約5000人と、非ベジタリアン約33万人のゲノムを解析した研究により、菜食主義と関連する遺伝子が特定されました。

Genetics of vegetarianism: A genome-wide association study | PLOS ONE

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0291305

Is your DNA steering you towards a vegetarian diet?

https://www.news-medical.net/news/20231009/Is-your-DNA-steering-you-towards-a-vegetarian-diet.aspx

Scientists discover evidence that being a vegetarian may be written in your genes | Euronews

https://www.euronews.com/next/2023/10/08/scientists-discover-evidence-that-being-a-vegetarian-may-be-written-in-your-genes

気候変動や動物福祉、健康志向などベジタリアンの人はさまざまな理由で野菜や果物中心の食生活を選択します。一方、「自称ベジタリアン」の大半にあたる約48〜64%が実際には魚や肉を食べていることも報告されており、菜食主義を貫けるかどうかには食事の好みだけではなく栄養に対する肉体の反応が関係している可能性があります。

アメリカ・ノースウェスタン大学フェインバーグ医学部のナビール・R・ヤシーン氏らは、査読付きオープンアクセスジャーナル・PLOS ONEに掲載された論文で、イギリスのUKバイオバンクに登録された遺伝子データと食生活とを比較して分析する研究を行いました。



ヤシーン氏らはまず、参加者がベジタリアンかどうかを調査するため、ベジタリアンやヴィーガンの食生活を実践しているかどうか、過去1年間に「魚介類・加工肉・鶏肉・牛肉・豚肉・羊肉・ラード」を食べたかどうかを尋ねる2つのアンケートを実施しました。その結果、肉類を口にしない「厳格なベジタリアン」として5324人が残りました。

研究チームによると、ベジタリアンの人は女性であることが多かったほか、年齢は若く、BMI値は低く、職業状況などから算出されるタウンゼント剥奪指数が高い、つまり社会経済的地位が低いという4つの傾向があったとのこと。

そして、厳格なベジタリアンと肉類を食べる対照群の参加者32万9455人の遺伝子を比較したところ、18番染色体に菜食主義と関係している一塩基多型(SNP)、つまり遺伝子の変異である「rs72884519」が見つかりました。このrs72884519は「TMEM241」「RIOK3」「NPC1」「RMC1」という4つの遺伝子と関連しています。さらに、別の分析でも明らかに菜食主義と関係している遺伝子として「RIOK3」「NPC1」「RMC1」の3つと、菜食主義と関係している可能性が高い遺伝子31個、合計34個が見つかりました。



「NPC1」や「RMC1」などの遺伝子は、脂質の代謝や脳機能に関連した遺伝子です。特に、NPC1は体内におけるコレステロールの輸送において極めて重要な役割を果たしており、NPC1に問題がある人は脂質の蓄積や中枢神経障害が起きるニーマン・ピック病C型を発症してしまうことが知られています。

このことから研究者らは、脂質の代謝とその脳への影響の違いが、野菜中心の食生活を選ぶ上で重要なのではないかと考えています。ヤシーン氏は「これはあくまで推測ですが、肉には一部の人にとって重要な脂質成分が含まれており、遺伝的に菜食主義を好む人はその成分を体内で合成することができるのではないでしょうか」と話しました。

食肉を生産する畜産業は多くの温室効果ガスを排出するため、肉を植物由来の代替肉に切り替えることが気候変動対策に効果的とされていますが、肉と代替肉は栄養面で大きな違いがあると指摘されており、完全に肉の代わりになる代替肉はまだ普及していません。

ヤシーン氏は「今後の研究により、ベジタリアンと非ベジタリアンの生理学的な違いがより深く理解されるようになり、個人に合わせた最適な食事や、より優れた肉の代替品の開発につながるかもしれません」と、将来の研究に期待をのぞかせました。