貧富の格差が激しいアメリカでは、物価の高騰や地価の上昇によって家賃を支払うことができなくなり、ホームレスになってしまう人が増加しています。そんな中、AIを利用して「ホームレス予備軍」を検出して支援の手を差し伸べる取り組みが、カリフォルニア州ロサンゼルス郡で行われています。

Can AI predict, and try to prevent, homelessness? : NPR

https://www.npr.org/2023/10/04/1202374047/los-angeles-is-using-ai-to-predict-who-might-become-homeless-and-help-before-the



ロサンゼルスに住むドゥルセ・ヴォランティンさんはある日、見知らぬ人物から金銭的援助を申し出る電話を受けました。当時のヴォランティンさんはパートナーのヴァラリー・ザヤスさんと共に住んでいましたが、それまで車中泊に使っていた車を失い、血液や服を売って宿泊代を稼いでいたとのこと。ヴォランティンさんは重い発作のある精神疾患を抱え、ザヤスさんも臨時雇用の仕事を探している状態で、限界に近い状況での電話に最初は疑念を抱いたそうです。

しかし、ヴォランティンさんが思い切ってかけ直してみたところ、電話は確かにロサンゼルス郡保健サービス局からの公式なものであることが判明。ヴォランティンさんたちは数カ月にわたりケースマネージャーと話し合い、精神疾患のニーズに対応できる補助金付きのアパートに入居できることになりました。

ザヤスさんも安定した住居を得た結果、交通機関で良い仕事に就くことができたとのこと。ザヤスさんは、「頭がすっきりしています。次の食事をどうすればいいのか心配しなくていいのです」とコメントしています。



ヴォランティンさんたちに手を差し伸べたのは、保健サービス局ホームレス防止課が行っているパイロットプログラムの一環でした。このパイロットプログラムは、緊急治療室の受診・メンタルヘルスの問題・薬物乱用の診断・逮捕・食料援助などの公的給付制度への登録といった郡機関から収集したデータをAIが分析し、ホームレスになりそうな人々を特定して声かけするというものです。

ロサンゼルス郡では増加するホームレス対策として、低所得者向け住宅の建設などに多額の支出を行っているにもかかわらず、毎日数十人のホームレスが新たに発生しているとのこと。パイロットプログラムを率いるダナ・ヴァンダーフォード氏は、「穴の空いたバケツなので、なんとかしなくてはいけません」「彼らは世代を超えたトラウマを経験しており、助けを求めるために手を伸ばしてくれる可能性が極めて低いのです」と述べ、行政側からホームレス予備軍を特定することが有効だと主張しています。

このプログラムでは、ケースマネージャーが4〜6カ月間にわたり対象者と協力し、割り当てられた総額4000〜6000ドル(約60〜90万円)の援助金の使い道について検討するとのこと。人の多くは家賃の援助を必要としていますが、本質的な問題は他にあることが多く、ローンの返済や電化製品の購入、ノートPCの購入を推奨することもあるとのこと。また、あるケースでは精神疾患で公共交通機関が使えない人のため、電動自転車の購入費用を負担したそうです。

ケースマネージャーのエリザベス・フアレス氏は、「『生活状況はどうですか?』と話し合います。屋内にいるのかもしれませんが、そこは安全なのでしょうか?ベッドはあるのでしょうか?あなたが成長し、安定を感じるために必要なものはあるのでしょうか?」と述べ、人々のニーズに合わせた支援が重要なのだと主張しました。



ロサンゼルスのパイロットプログラムは、2年余りで560人を対象に実施されました。データによると、これまでのところ大多数が住居を確保できていますが、効果を正確に測定するため、同様のニーズを持つもののプログラムの援助を受けなかった人の追跡調査を含むンダム化比較試験が予定されています。プログラムの予算は2026年に尽きると予想されており、これと同じ時期に発表される研究でプログラムの成果が認められれば、さらに予算が増額されてプログラムの範囲も広がる予定です。