できる人が「完璧」より「とりあえず完成」目指す訳
音楽家、プロデューサーのつんく♂さんと、起業家、投資家として知られるけんすうさん。「人生に迷っている」人たちへエールを送る対談、第3回(全5回)(撮影:梅谷秀司)
音楽家、プロデューサーのつんく♂さん、起業家、投資家として知られるけんすうさん。
2023年9月、つんく♂さんが『凡人が天才に勝つ方法 自分の中の「眠れる才能」を見つけ、劇的に伸ばす45の黄金ルール』、けんすうさんが『物語思考 「やりたいこと」が見つからなくて悩む人のキャリア設計術』をそれぞれ刊行。どちらも話題のベストセラーになっている。
お互いの著書を読んで意気投合し、「やりたいことがわからない」「人生に迷っている」人たちへエールを送る。第3回(全5回)。
*1回目:会社員でも「プロ意識」全然ない人、ある人の大差
*2回目:「"やりたいこと"わからない病」処方箋は"これ"だ」
「完璧」を目指さず、「完成」を目指す
けんすう:何かをしたいけど、何をしたいかわからない人は多いと思います。そんなときは、つんく♂さんの本にもありましたが、「とりあえず完成させること」が大事だと、僕も思っているんです。
たとえば、僕もつんく♂さんもnoteを書いていますが、とりあえず1つのトピックを完成させて、投稿しますよね。
でも、そこで「100%完璧な記事じゃないと投稿できない」と考えてしまうと、いつまでも完成せず、投稿もできない。つまり、最初の一歩が踏み出せないんですよね。
つんく♂:ずっと「どうしよう、どうしよう」って文章を組み替えつづけているみたいな感覚ですね。つまり、必ずしも完璧じゃなくてもいいわけですよね。
けんすう:そういう意味では、たとえば「本」の存在意義みたいなものも変わりつつあると思います。
けんすう:もちろんある程度のクオリティーは必要ですが、1冊の本で100%の読者を満足させるのは難しい。
だから、刊行後にSNSで「ここってどうなんですか?」という読者からの突っ込みに応えるまでが本でいいんじゃないか、みたいな。
だから、僕はLINEのオープンチャットで、読者の「ここで詰まりました」「ここがわかりにくかったです」という疑問に答えています。
つんく♂:それって自分自身がカスタマーセンターになって、穴を埋めていく感じ?
それ、逆に気持ちいいですね。1冊の本をベースに、思考が広がっていく感じで……。
けんすう:無限に質問がきたらどうするのかと思われるかもしれませんが、読者の方が疑問と答えをまとめてくれたり、「この動画が参考になりますよ」「勉強会やりましょう」などと動いてくれたり。
読者同士でサポートしてくれるという、ありがたい現象も起こっているんです。
「ヒットが当たり前」というプレッシャーと戦うには?
けんすう:そうやって、本を買ってよかったと感じてもらえるとうれしいです。
そういえば、つんく♂さんは出す曲、出す曲「大ヒットを出して当たり前」みたいな時期が続きましたよね。「外したらどうしよう」みたいなプレッシャーってありましたか?
つんく♂:長い目で見れば、もちろん売れるものもあれば売れないものもある。自分はレコード会社じゃないから、売り上げの保証はできないよねっていう現実もあります。
つねに「自分の中の基準点」を超えるのがプロ
つんく♂:でも、やるからには「自分自身の最低基準(クオリティー)」をクリアすることが大事で、そこを担保することがプロの務めだと考えています。
つんく♂1992年に「シャ乱Q」でメジャーデビューしミリオンセラーを記録。その後は「モーニング娘。」をプロデュースし大ヒット。代表曲『LOVEマシーン』は176万枚以上のセールスを記録。国民的エンターテインメントプロデューサーとして幅広く活躍中(撮影:梅谷秀司)
けんすう:たしかに、売り上げのように数字で表れるものはタイミングや運もある。
数字だけにフィードバックを求めず、作品に対するコミットがあるかないかは大事ですね。
つんく♂:「制作費もこれしかありません。なんとかお願いします」と頼まれて、断るときもあれば、「なんかええやん!」って、熱意に負けて受けることもあります。
でも、制作費で基準を下げるようなことはないし、一度受けたら最後まで責任を持ってやるというのもプロだと思います。
けんすう:たしかに、仕事って自分がコントロールできない部分もあります。
つんく♂さんの場合、歌う人、演奏する人、プロモーションなどさまざまな要素がからんでくる。だから、制作費や時間が限られた中で、最低基準をクリアするのが大事なんですね。
つんく♂:完璧を目指すと、終わらないんです(笑)。
けんすう:たとえば最低基準が80点なら、80点と100点ではどのくらい結果と連動していると感じますか? 80点でもヒットするとか、逆に100点でもヒットしないこともあるとか?
つんく♂:なかには例外もあるけど、ある程度は連動しているように思います。『LOVEマシーン』のように突き抜けるような曲をつくったときは、やっぱり自分でもそれを感じていたから。
けんすう(古川健介)10代の頃からインターネットの面白さを体感し、「ミルクカフェ」「したらば」「nanapi」など、次々に新たなインターネットサービスを生み出す。現在はNFTの提供やクリエイター向けサービスを運営。投資家としても活動している(撮影:梅谷秀司)
つんく♂:ただ、『LOVEマシーン』にしても、100点の作品というより「最高の80点」という感覚です。
とくに時間に相当制限があったので、もっともっとやりたいことはあったけど、納品日にできる限りの最高品質で納品したらああなったって感じです。
けんすう:なるほど。おもしろいなあ。
僕も今回本を書いて、100点をとる難しさを知りました。それでも、まずは完成させることって、すごく大事だなと思いました。
つんく♂:本の執筆は本業とは違うから、やっぱりなかなか送信ボタンが押せないですよね(笑)。
やっぱり「一度完成させる」ことが大事
けんすう:成功している人って、成功した結果しか表に出ないんですよね。
たとえばつんく♂さんだって秋元(康)さんだって小室(哲哉)さんだって、みんなが知らないだけで当たらなかったものもある。
でも、ハズしたものはみんな知らないんですよ。
その結果、全部当たっているように見える。マンガの神様と言われる手塚治虫も、約700作品のマンガを描いて、みんなが知っているのは10作品くらいなんですよね。
つんく♂:そういう意味では、本当に数をこなすことって大事ですよね。
数をこなすためにも、最初の一歩を踏み出すことが重要になってくると思います。
けんすう:本当に「一度完成させること」って大事ですね。
僕は出版社さんとよくお仕事をするんですが、漫画家志望の方がうまくいかないよくある理由は、完成させないことなんだそうです。
たとえば新人漫画家なら、最初は1ページの読み切りを完成させて、その後4ページ、8ページと増やしていく。いきなり50ページの読み切りは難しいけれど、1ページや4ページなら描ける。そうやって「いったん完成させる」ことが大事なんだそうです。
つんく♂:100%の出来じゃなくていいから、いったん完成させて「箸を置く」イメージですね。
けんすう:そうなんです。一度完成させたものを手直しすることはできるけど、未完成のままだと客観的に見られないから、修正点もわからないですよね。
完成させないと「バッターボックス」にも立てない
つんく♂:それに、完成させないと「バッターボックス」にも立てないですよね。
そういう意味では、とくにいまはYouTubeだってX(旧Twitter)だってTikTokだって、投稿というゴール、つまりチャンスは無数にあるわけです。
以前は自分の作品を世に出すにも出版社やレコード会社を通さなければならなかった。でも、いまは直接アップして、リアクションもダイレクトに感じられる。リアクションを見て修正することもできる。
だから、完成させて送信ボタンを押す勇気って、実は大事なことなんですよね。
けんすう:一度やってみてうまくいかなくても、そこでやめてしまうんじゃなく、真摯に、地道に続けていくことも大切ですね。
つんく♂:そうですね。ただ、アマチュアならいいけど、それを仕事にしたいなら、プロとしての価値がないと報酬はもらえない。どこで方向転換するかも大事だと思います。
たとえば長い下積みを経てM-1グランプリで優勝するお笑い芸人もいるし、シニア世代の新人小説家がいたっていい。自分がどこまで粘れるか、というのも肝でしょうね。
*1回目:会社員でも「プロ意識」全然ない人、ある人の大差
*2回目:「"やりたいこと"わからない病」処方箋は"これ"だ」
*つづきの4回目は11月7日(火)公開予定です
(つんく♂ : 総合エンターテインメントプロデューサー)
(けんすう : 起業家、投資家)