ブランドやパブリッシャーで活躍中のDIGIDAY+会員やVIPに、どのようなメディアに触れ、情報を活用しているのかを聞くプレミアムインタビュー「ビジネスパーソンの情報活用術」。第5回は、トリドールホールディングス 執行役員 CMO 兼 丸亀製麺 取締役 マーケティング本部長の南雲克明氏。さまざまな業態の飲食チェーンを展開するトリドールは、「食の感動で、この星を満たせ。」をスローガンに掲げ、世界30の国と地域、1,904店舗(10月8日現在)で、食の感動体験を提供している。その根幹を担う丸亀製麺では、2021年に「丸亀うどん弁当」を発売開始。その後も「丸亀シェイクうどん」をはじめとする話題性の高い商品を次々に発表し、海外でもMarugame Udonの名で新規オープンが続く。ほかにもDX化などに全社で取り組んだ結果、丸亀製麺・国内の他ブランド・海外事業の全セグメントで増収となり、2023年4〜6月期の売上収益は526億64百万円(前年同期比20. 2%増)と、四半期連結会計期間で過去最高**を記録した。そんな好調の同ホールディングスで、南雲氏は「KANDOコミュニケーション本部長」も兼務する。KANDOコミュニケーションとはどのようなもので、そのために日頃からどんな情報を集め活用しているのか。B2Cマーケティングを専門とする南雲氏に話を聞いた。 

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ーー南雲さんのいまの業務内容は?

トリドールホールティングスの執行役員CMO兼KANDOコミュニケーション本部の本部長として、グローバルも含めたマーケティングコミュニケーションとコミュニケーション全体の責任者を務めている。KANDOコミュニケーション本部というのは、マーケティング部・コーポレートコミュニケーション部(広報)・インターナルコミュニケーション部など、コミュニケーションに関する全部署を集約した弊社独自のもので、内外のコミュニケーションはすべて僕の管轄にある。加えて、事業子会社の丸亀製麺では取締役 マーケティング本部長も兼務しており、トリドールホールディングスおよび丸亀製麺のコミュニケーションとマーケティング全般を担当していることになる。 

ーー現在トリドールでは、どのような目標と戦略を掲げている?

アフターコロナの新時代を見据え、2022年にミッション、ビジョン、スローガン、そしてストラテジーやフィロソフィーもすべて刷新した。中期経営計画とともに発表した新しい戦略では、「感動」を事業の中核において成長する、感動ドリブンな意思決定をしていくと方針を定めた。それはお客様に対して、また事業を創造する際にも感動があるかどうかを最優先するということだ。5年後の2028年3月期にはグローバル、日本を含めて5,500店鋪、売上高3,000億円、つまり約3倍の事業規模になることを目指している。丸亀製麺では全店舗で粉から製麺して手づくり・できたてを提供しているが、これまでも手間暇をかけること(Craft)とスピーディで効率的に展開すること(System)という、一見矛盾する2つのことを両立させてきた。この軸にそこでしかできない体験(Only)と世界中どこでもできる体験(Anywhere)という軸を掛けあわせ、二律背反ならぬ二律両立で唯一無二のグローバルフードカンパニーとして成長したいと考えている。どちらかを選ぶトレードオフではなく、両立させるトレードオン。二律両立で進めるこの戦略を “ KANDOトレードオン戦略 ” と名づけ、その中心となる感動を作る人、グループで働くすべての人のことをKANDOクリエイターと呼ぶ。日本だけでなくグローバルに思いを共有したいと考えて、KANDOはローマ字で表記することにした。

南雲克明(なぐも・かつあき)コナミスポーツクラブ、AfternoonTea TEAROOM、KIHACHIなどさまざまB2Cブランドのマーケティング責任者を歴任。仕事を続けながら2014年に早稲田大学大学院でMBAを取得し、2018年よりトリドールホールディングス マーケティング部長に就任。2021年に丸亀製麺 執行役員 マーケティング本部長、2022年より丸亀製麺 取締役 マーケティング本部長。2022年10月からトリドールホールディングス 執行役員 CMOとなり、KANDOコミュニケーション本部長も兼務している。

 

ーーKANDOは数字に置き換えられないと思うが、評価はどうしていくのか。

たしかに、どう評価するかは難しく試行錯誤をしているところだ。しかし、昨年11月にトリドールグループ全社員を集めたイベント「ALLKANDO CREATORS MEETING」で、ミッション・ビジョンに対する理解と共通認識を改めて共有すると、その後、お客様からのお褒めの声が130%に上がった。このように少しずつではあるが、社員の意識が変化してきたと感じている。また、いかに人の心を動かすかは、マーケティングのど真ん中でもある。以前は利益・売上という数字が褒められる要素だったが、いまはお客様にとって良いこと、ちょっとした感動を創造することがたくさん賞賛される。機械化や効率化が進むなかで時代に逆行するようだが、詰まるところ、飲食ビジネスにおいては人の手を介してでしか感動は生まれない。 

ーー事業規模を5年で3倍は高い目標だが、可能性は?

その目標を達成するには、アメージングでもエキサイティングでもない、「KANDOっていいじゃないか」と共感してくれる仲間、ローカルバディの存在が鍵になる。グローバルでいえば、7月にイギリスのピザチェーン「Franco Manca(フランコ マンカ)」とギリシャ料理チェーン「The Real Greek(ザ リアル グリーク)」を展開するFulham(フルハム)社がグループに加わったが、この場合は協働するヨーロッパの投資ファンド「Capdesia(キャプデシア)社」がローカルバディに当たる。本能が喜び、五感を揺さぶる食の感動体験を世界に広げるため、各エリアのローカルバディとともにノーボーダーのネットワークを作っていく。そうすれば、アジア・ヨーロッパ・アメリカと同時多発的に物事が進み、予測不可能な進化を遂げられると考えている。創業者であるトリドールホールディングス代表取締役社⻑ 兼 CEOの粟⽥(貴也)は、飽くなき挑戦心の塊のような人だが、そのエネルギーに感化され、ワクワクし、良い意味で巻き込まれているのだと思う。 

ーー感動ドリブンを推進する南雲さんご自身は、どのような情報を収集・活用している?

メディアだけでなく、リアルな体験も含めた全方位の情報を、オーバーフローしてもいいから、とにかくどんどんインプットする。本を読んだり、新聞やWeb媒体、SNSをチェックするのはもちろん、FODやParavi、NHKオンデマンドなどの動画配信サービスはひと通り登録して、ビジネス番組やドラマや映画、バラエティも自分の興味関心に関係なくできるだけ見るようにしている。とはいえ、頭のハードディスクには限界があるので、すべてを覚えておくことはできないが、気になる人やニュース、エンタメなど、大事なことだけをメモしたり、何度か見たりすることで頭に残す。一度目にすれば何かが残るので、それを寝かし、熟成することが良いアウトプットにつながると信じている。こうして時間を削ってでもインプットするのは、自分が天才肌ではなく努力しないと追いつかないと思っているからだ。決して効率の良いやり方ではないが、人から聞いた情報と自分自身が見たこと、体験したことには雲泥の差があるので、自分の肌で感じることを大切にしている。 

ーーほかに南雲さんならではの情報収集法は?

リサーチを兼ねて、ふだんの食事はほぼ外食。いろんな地域のさまざまなジャンルの店に行って、店員の方と話したり、お客様の様子を見たりして、感動のヒントがないかと探っている。繁盛店にはなにかしら感動するところがあるはずで、なぜ行列になるのか、なにが刺さっているのかを自分の目で確かめる。初めて行った店で気づきを得ることもあるが、長く通い続けているお気に入りのお店からは、行くたびに人の手を介した美味しさやあたたかさを感じ、心地よい感動に包まれる。食の感動とはなにかをあらためて考える機会にもなるし、エネルギーをチャージもできる、そして丸亀製麺を運営するうえでも参考になる。また、感動を作るポイントは、食だけでなく、動物園や水族館・テーマパーク、アウトドアやスポーツなど、飲食とは別の業界で感動を生み出している人とのコミュニケーションから気づくことも多い。当社では以前より他業界の方々にお話いただくことが多く、今年も社内研修に他業界で感動やイノベーションを起こしている方々を講師として迎えたり、テーマパークのバックヤードを見学させてもらったりしているほか、この秋には次長以上の役職者が一泊二日でキャンプをしながら感動について語る会も9月後半に実施した。同じ経験をしても人によって気づきのポイントが違うので、各自が持っているなにかとシンクロすることで、新しいものが生まれるのではないかと期待している。 

ーーDIGIDAY+のサービスは?

毎朝サイトを更新して新着記事を読んでいるが、海外の情報やトレンドをつかめるし、ほかにはない深堀りした情報が入手できるので重宝している。欲を言えば、D2Cなどデジタルまわりの記事のほかにも、リテールやエンターテインメントに関する記事がもっと増えるとありがたい。またイベントには何度か参加しているが、京都で開催された「DIGIDAY BRAND LEADERS 2022」では知り合いもできた。私も登壇するときは、つい体裁を整えて内容をきれいにまとめがちだが、本当に知りたいのは裏側というか、挫折しながらどう行き着いたのかというところ。ベテランだけでなく、活きのいい若手、加えてマーケターだけでなく異なる業種の人たちとの交流を通して、マーケティングの本質を学び、本音で熱く語れる場ができればと思う。 Written by 山本千尋Photos by 高村瑞穂▶︎ビジネスパーソンの 情報活用術 Vol.1 課題を構造化した「情報の引き出し」を用意しておく:株式会社 ポーラ ブランドマーケティング部 部長 中村俊之氏Vol.2 「 界隈 」を知るためにリアルな体験と生の声は欠かせない:貝印 株式会社 マーケティング本部 広報宣伝部 次長 齊藤淳一氏Vol.3 デジタルネイティブ 世代をターゲットとする企業戦略に欠かせない情報とは?: Tastemade Japan 代表取締役社長 夏目卓弥氏Vol.4 移動することが大切。気になったらすぐ 行動 、すると必要な情報は集まってくる:株式会社 ゴールドウイン ニュートラルワークス事業部長 大坪岳人氏