第二次世界大戦中、ドイツで最も多く生産された戦車はIV号戦車の約9000両ですが、実はそれ以上に生産された“戦車”があります。それがIII号突撃砲です。

最初は戦車扱いされていなかった?

 第二次世界大戦中、ドイツで最も多く生産された戦車はIV号戦車、その数は約9000両です。しかし、これより多く生産された“ほぼ戦車扱いされていた”車両があります。それがIII号突撃砲で、その数は約1万両といわれています。


フィンランド軍がドイツのから供与を受け使用したIII号突撃砲(画像:パブリックドメイン)。

 同車両は、2023年10月6日に新作の最終章4話が劇場公開されたアニメ『ガールズ&パンツァー』では、主人公・西住みほが通う大洗高校のカバさんチームの使用車両としても登場しています。また、最終章3話終盤では敵チームの狙撃手ポジションであるヨウコが同車で、西住たちの乗るIV号戦車を砲撃により戦闘不能にしたとも公開当時は噂されました。本当に狙撃したのがIII号突撃砲だったのかは新作を確かめる必要がありますが、それはともかくとして、同車は作中の架空競技である「戦車道」でも戦車扱いにされていますが、当初は戦車とは異なる使用目的を想定して開発された車両でした。

 III号突撃砲は、既にあった「III号戦車」の車体を利用して開発が開始され、1940年から量産が行われました。III号突撃砲はもともと、歩兵に随伴し拠点攻撃などで火力支援を行うことが想定されており、“機動力のある砲兵”といった形でした。このアイデアは1935年にドイツ陸軍参謀本部のエーリッヒ・フォン・マンシュタイン大佐(当時)が、ルートヴィヒ・ベック上級大将に提案したことで作られたといわれています。

 III号突撃砲は単に火力支援を想定し、戦車戦はあまり考慮されていなかったので、戦車のような旋回砲塔は持っていませんでしたが、初期タイプからIV号戦車と同じ短砲身24口径7.5cmを装備するなど、火力面だけはベースとなったIII号戦車を上回っていました。前線からの評判もかなり高く、強固な敵陣を破壊してくれるIII号突撃砲は、心強い味方でした。

独ソ戦がきっかけとなり役割激変

 そんな、III号突撃砲が完全に戦車扱いされることになるきっかけが、1941年6月22日から開始された独ソ戦でした。T-34などの優れたソ連戦車が登場すると、既存のIII号、IV号戦車では、火力不足であることが露見します。

 そこでIV号は火力を強化した長砲身の43口径7.5cm砲が取り付けられるようになりますが、III号戦車に関しては、砲塔のスペース的に長砲身とはいえ5cm砲を取り付けるのが精いっぱいでした。しかし、III号突撃砲は、砲塔がなく、車体そのものに砲をつける形だったため、スペースが大きく確保でき、IV号戦車と同じ長砲身の砲も搭載可能で、対戦車能力が大きく向上しました。

 さらに独ソ戦以降、ドイツ軍は慢性的な戦車不足に悩まされており、砲塔がないために生産性が高く、かつ火力もあるIII号突撃砲は重宝されました。戦場では対戦車を常に求められ、ほぼ戦車のような扱いをされることになります。

 旋回砲塔を持っていないため、左右からの攻撃は戦車より苦手ですが、III号突撃砲を部隊の正面に置き、IV号戦車や随伴した歩兵などで左右をカバーする戦法などもとられたようです。


スイスのトゥーン陸軍基地で展示されているドイツのIII号突撃砲(画像:Alf van Beem)。

 1943年後半以降、独ソ戦でドイツが守勢に立ってからもIII号突撃砲は有効性を発揮しました。砲塔がなく車高が低いため、待ち伏せに適していたのです。『ガールズ&パンツァー』でも、同車両が待ち伏せして攻撃しているシーンなどをたびたび確認できます。

 1944年頃からはIV号突撃砲、IV号駆逐戦車などIII号突撃砲の火力をさらに強化した砲塔を持たない戦車も登場しますが、生産数の多さや、信頼性の高さなどもありドイツが敗戦するそのときまで使用し続けられました。ちなみに、IV号突撃砲が登場するまで、同車両は単に突撃砲と呼ばれていたそうです。