掲載:THE FIRST TIMES

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岡野昭仁のソロプロジェクト「歌を抱えて、歩いていく」。約3年間の活動で初となるソロアルバムをリリース。作家陣から提供された、歌ったことがないタイプの作品から受けた刺激、制作を通したどり着いた胸中を語ってもらった。

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■ボーカリストに徹する、歌うことにじっくりフォーカスするというのがひとつのテーマ

──2020年11月に立ち上がったソロプロジェクト「歌を抱えて、歩いていく」。その約3年間の活動を振り返って、今どんなことを感じますか?

とにかく楽しかったです。その言葉に尽きるかな。ソロプロジェクトに関しては、才能のある様々なアーティスト、クリエイターの方々に楽曲を提供していただき、僕はボーカリストに徹する、歌うことにじっくりフォーカスするというのがひとつのテーマだったんです。その結果、本当にクオリティの高い楽曲を作っていただくことができたし、それに対して僕は…こんな言い方をするとダメかもしれないけど、ある意味、気楽に乗っかることができた。そういう感覚をフレッシュに味わえたことが自分としてはものすごく楽しいことだったんですよね。

──ソロ楽曲では昭仁さんの斬新な表情もたっぷり味わうことができますけど、そこも、それぞれの楽曲を楽しみ尽くした結果ということなんですかね。

うん。もちろんね、今までの僕が歌ったことのないタイプの楽曲も多かったので、レコーディングではちょっと迷うこともあったし、いつも以上に頑張って向き合わなきゃいけない場面はすごく多かったんですよ。でも、アルバムで言ったら今回が1stなわけなので、どんなタイプの楽曲であっても垣根なく楽しむことができたというか。そういう意味での気楽さがあったんです。ここで大きな実績ができてしまったので、もし2ndアルバムを作ることになった場合には、“1stを超えなきゃ”っていう思いが必ず出てくるはずなので、ここまでフレッシュな気持ちで楽しめるのは今回だけなのかなっていう気もします。

──プロジェクトが始動してから、初めてソロであることを強く実感したのってどんなタイミングでしたか?

なんだろうなあ。たしかに“今、自分は1人なんだな”って思う瞬間はあったと思うんですけど…。いちばんはやっぱり様々なジャッジを自分自身でしなければいけないってことだったかもしれないですね。ポルノの場合でも僕がジャッジすることはもちろんありますけど、同時に(新藤)晴一のジャッジもあったうえで全体が進んでいくわけですからね。そこは大きく違うところだったと思います。優秀なスタッフ陣にいろいろな相談をしながらも、その楽曲に対してのアプローチが合っているのかどうかとか、最終的なジャッジを委ねられる場面において、ソロであること、ひとりであることを強く感じましたね。

──1stアルバム『Walkin’ with a song』には全10曲が収録されています。その中でひとりのボーカリストとしての“初めて”を強く実感した曲というと?

どの曲も自分としては新鮮なアプローチがたっぷり詰め込まれてはいるんですけど、いちばんはやっぱりEveくんの「ハイファイ浪漫」じゃないかなあ。

■「ハイファイ浪漫」は、すべてにおいて自分がこれまでに歌ったことのない、新しいタイプ

──Eveさんが作詞・作曲を、Numaさんがアレンジを手掛けた楽曲ですね。

Eveくんの「廻廻奇譚」を聴いたときに、マイナー調の曲に音符がギュッと詰まっている彼の音楽性は自分のボーカルスタイルにもシンクロする部分があるんじゃないかなと思ったんですよ。それで今回オファーさせてもらったんだけど、いざふたを開けてみたら、“これ、自分に歌える!?”って思うものが上がってきて(笑)。韻を踏んだ言葉選びや曲中でのテンポチェンジ、さらにはラップパートもあったりするっていう、ものすごい情報量をうまくまとめている楽曲に対して、初めはちょっとビビりましたね。すべてにおいて自分がこれまでに歌ったことのない、新しいタイプだと感じたので。とにかくレコーディングは頑張りました(笑)。

──ラップに関してはどうでした?

現場に来てくれていたアレンジャーのNumaくん含め、みんなに「大丈夫? ちゃんとラップできてる?」って確認しながらやり切りました(笑)。正直、昔の自分にとってラップというものは異世界のものみたいな感覚があって、極端な話、受け入れがたい感じもあったんですよ。でも今は海外のチャートでもラップの入った曲が席捲しているので、ロックやポップスにそういった要素が入ってくるのはすごく自然なことではありますよね。「ハイファイ浪漫」のような曲を歌えるのはソロならではだと思ったし、ラップに対してもすごくナチュラルに向き合えました。めっちゃ難しかったけどね(笑)。

──Tempalayの小原綾斗さんが作詞・作曲を、CRCK/LCKSの小西遼さんと小原さんがアレンジを手掛けた「芽吹け」では、ファルセットを多用したボーカルが印象的です。このあたりの表現もソロプロジェクトを通して磨き上げられたものですよね。

そうかもしれないですね。僕の中にはもともと、ファルセットに対しての苦手意識があるんですよ。でも、綾斗くんが入れてくれた仮歌を何度も聴いていくうちに、自分の声にもそのエッセンスがうまく乗ってきたというか。そこで見えたメソッドを言葉にするのは難しいんだけど、自分の中のコンプレックスがちょっと払拭されて、自分なりのファルセットでの表現がちょっとわかった気がしましたね。そこはもう綾斗くんのおかげだと思います。

──サウンドに寄り添ったグルービィなボーカリゼーションがとにかく気持ちいい曲ですよね。

うん、ものすごく気持ちよく歌えました。僕は普段、前ノリで歌うことが多いんだけど、この曲は意識的にレイドバックさせたりもしたんですよ。ただ、綾斗くん的にはリズムをあまり後ろで取らず、ジャストで歌ってほしいっていう狙いもあったみたいで。そのあたりのすり合わせを現場でしていくのもすごく楽しかったんですよね。細部まで徹底的に突き詰めていく作業が改めて刺激になったというか。

──その他のアルバム曲についても聞かせてください。1曲目は、「光あれ」で作詞を手掛けていたn-bunaさんと2度目のコラボとなる「インスタント」。この曲では作詞はもちろん、作曲とアレンジもn-bunaさんによるものですね。

n-bunaくんには曲も書いてもらいたいと思っていたので、「光あれ」の段階でお願いはしていたんですよ。だからこの曲は結構早く、「MELODY」なんかよりも先に上がっていたんですよね。アルバム曲としては最初にレコーディングしました。歌詞に関しては、僕の故郷である因島をイメージして書いてもらいました。

──疾走感のあるバンドサウンドの上に響く瑞々しいボーカルが素晴らしいですね。

かっこいい曲ですよね。サウンド的にも僕の大好きなタイプ。「お恥ずかしい」って言いながら入れてくれていたn-bunaくんの仮歌がすごく良かったんですよ。僕にはないエッセンスをものすごく感じさせてくれたので、そこからいろんな要素を受け取りながら、自分なりのボーカルを乗せることを意識しました。

──アーバンな雰囲気の「GLORY」は、作詞を市川喜康さん、作曲を山口寛雄さん、アレンジを篤志さんが手がけています。

信頼するスタッフからの推薦もあって、作詞を市川さんにお願いしました。SMAPさんをはじめ、名だたるアーティストの代表曲を手掛ける方とご一緒できたのは、自分にとってすごく大きな経験になりましたね。少しだけお会いしてお話させていただいたときに、「岡野さんには混沌とした時代に夢を追いかけ続けることの素晴らしさを歌ってほしいんです」とおっしゃっていただけて。ある意味、僕らがポルノグラフィティとして表現してきたことをふまえて、そういったイメージを歌詞に込めてくださったと思うので、そこはすごくありがたいことでした。

■ソロプロジェクトの楽曲ではあるけど、ポルノのファンでいてくれる人にとってすごく聴きやすい曲

──山口さんと篤志さんはポルノの活動でも縁が深い方々なので、全体としてどこかポルノの手触りを感じさせる楽曲でもありますよね。

そうですね。寛雄はポルノのライヴでいつもベースを弾いてくれているので、僕の歌のいいところが出る楽曲をよくわかってくれているというか。市川さんが書いてくださった、ある意味、どんな世代に対しても真っ直ぐ響くような王道の歌詞が乗ることを踏まえ、すごくいい曲を書いてくれました。で、寛雄の作ってくれたものを篤志は思い切りアーバンでオシャレな雰囲気にしてくれて。ソロプロジェクトの楽曲ではあるけど、ポルノのファンでいてくれる人にとってすごく聴きやすい曲になっていると思いますね。

──先行配信されたときに大きな話題を集めたのは「指針」。SUPER BEAVERの柳沢亮太さんが作詞・作曲を、トオミヨウさんがアレンジを手掛けたナンバーです。

この曲も仮歌は柳沢くんが入れてくれていたんですけど、それがとんでもなく素晴らしかったんですよ。本当に魂を燃やしている、命を燃やしているような圧倒的な歌声で。それを聴いた瞬間、“これに勝てるのか?いや勝たなきゃいけない”っていう気持ちにすごくなったんですよね。レコーディングでは、トオミくんをはじめとする面々にOKをもらえても、自分として納得ができなかったら何度も歌い直しをさせてもらって。ピッチがどうとか、小手先のテクニックだけではない何かをしっかり歌に込めることを大事にして歌っていきました。

──歌詞のメッセージもいいですよね。すべての聴き手にとっての“指針”になり得る曲になっていると思います。

本当にそうですね。年齢を重ねると都合よく取捨選択をして、効率よくうまく生きるようになってしまうところがあると思うんですよ。でもそうではなく、たとえ間違いがあったとしても、それすらも人生における指針になるということをこの曲には改めて学ばせてもらえた気がします。きっと僕が80歳になったときに歌ったとしても、この曲にはハッとさせられるんじゃないかな。

■ソロプロジェクトを通して見出した僕なりのひとつの答えをしっかり曲にするべきなんじゃないか

──そしてアルバムのラストには、昭仁さんが作詞・作曲を手掛けた「歌を抱えて」が。1曲だけご自身で曲を書こうと思ったのはどうしてだったんでしょう?

最初は自分で曲を書くつもりはなかったんですよ。ただ、9曲が出来上がり、あと1曲をどうしようかなと考えたときに、ソロプロジェクトを通して見出した僕なりのひとつの答えをしっかり曲にするべきなんじゃないかなと思ったんです。で、そういった自分の足跡を曲にするのであれば、やっぱり自分で歌詞も曲も書くべきだろうと。

──歌詞ではお父様のことを紡がれていますね。

はい。去年、父が亡くなったんですけど、なかなかその事実に真正面から向き合えていなかったような気がしていて。だったら、ここで曲にすることでそれができるんじゃないかなと思ったんです。それは僕自身が歌っている意味にも繋がってくるし、「歌を抱えて、歩いていく」というプロジェクトに対してのひとつの答えになるんじゃないかなと。ソロでの経験も含め、ここ数年で僕は自分のことを包み隠さず表現してもいいんじゃないか、そうすることこそが音楽をやっている意味なんじゃないかなと思うようになった。その気持ちの変化も大きかったと思います。

──ポルノ楽曲でもおなじみの江口亮さんによるアレンジと相まって、本当に胸を打つ仕上がりだと思います。

江口くんは突拍子もないこともできれば、非常にドラマチックなアレンジもできてしまう器用なアレンジャーですからね。さらに言えば、僕にとっての江口くんは、父の死といった非常にプライベートな出来事についても、言葉を濁さず、真っ直ぐに伝えることができる人でもあるんです。思っていた通りのいいアレンジをしてくれたのが、本当にありがたかったですね。ちなみに父はずっと「お前らの曲は難しいから、わしにはよくわからん。もっとゆっくりな曲を作れ」って言ってたんですよ。だから今回はゆっくりな曲を作りました(笑)。

■ソロを通して岡野昭仁という人間を表現することの大事さに改めて気づいた

──アルバムまで辿り着いたことで、今後の活動に関しての新たなビジョンが浮かんだりはしていますか?

ソロに関しては、いつかまたライヴをしっかりやりたいなとは思っています。自分としてはバンドスタイルでやりたいんですよね。まだ予定が立っているわけではないですけど、必ずライヴはするつもりなので待っていてほしいですね。あとは、ソロを通して岡野昭仁という人間を表現することの大事さに改めて気づいたんですよ。ポルノの場合は、プロジェクト自体もすごく大きいし、そもそも晴一とふたりでやっていることなので、自分自身のことをどこまで表現するべきなのかっていう部分で、ちょっと踏みとどまっていたところがあったと思うんですよね。でも、ソロプロジェクトを経験したことで、ポルノでもそこをしっかり表現していってもいいんじゃないかなっていう気持ちになっています。そうすることで、ポルノとしてもより伝わっていくものがあるような気がするので。

INTERVIEW & TEXT BY もりひでゆき

リリース情報
2023.8.23 ON SALE
ALBUM『Walkin' with a song』

プロフィール
岡野昭仁
オカノアキヒト/ポルノグラフィティのボーカリスト。1999年9月にシングル「アポロ」でメジャーデビュー。2019年にポルノグラフィティのデビュー20周年を迎え、同年9月に東京・東京ドームにてアニバーサリーライヴを2日間開催。2020年11月よりソロプロジェクト「歌を抱えて、歩いていく」を始動、翌年1月に第1弾となる楽曲「光あれ」をリリース。2023年8月にソロプロジェクト初のアルバム『Walkin' with a song』をリリース。ポルノグラフィティとして、2024年1月より全国10カ所16公演を廻る全国ツアー「19thライヴサーキット“PG wasn't built in a day”」を開催予定。