「消化管間質腫瘍」を発症すると現れる初期症状・原因はご存知ですか?

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普段の生活の中で病気特有の自覚症状がなく、腫瘍などが大きくなって初めてわかる病気がいくつかあります。今回紹介する消化管間質腫瘍もその1つです。

消化管間質腫瘍は、GISTとも略される消化管の壁にできる悪性腫瘍の1種です。
消化管のがんとしては、胃がんや大腸がんが有名ですが、それらとは異なる性質があります。

ここでは、消化管間質腫瘍について、その症状・原因・治療について詳しく説明します。

消化管間質腫瘍とは

消化管間質腫瘍ってなんですか?

消化管間質腫瘍は、胃や腸など消化管の壁にまれに発生する腫瘍です。胃がんや大腸がんなどが消化管の粘膜からできるのに対し、消化管間質腫瘍は消化管壁の粘膜下にある未熟な間葉系細胞から発生する肉腫の1種になります。また、悪性腫瘍であることが多く、がん性の特徴を持つことがほとんどです。
しかし、消化管粘膜下にできる腫瘍はこれだけではなく、良性の平滑筋腫・良性の神経鞘腫・悪性の平滑筋肉腫などのこともありますので早めの検査・治療が重要です。消化管間質腫瘍の発症率は低く、10万人に対して年間1人~2人とまれな腫瘍といえます。発症には男女差がなく、ほとんどの年齢層に見られますが、他のがん性の腫瘍と同様に中高年に多く発生することが報告されています。

消化管間質腫瘍が発生しやすい人とは?

消化管間質腫瘍が発生しやすい特定のリスクファクターは明確にはわかっていません。しかし、がんの発生を含めて考えるといくつかの可能性があります。その1つが年齢です。消化管間質腫瘍は中高年により多く発生することが報告されています。しかし、若い年齢層が発症しないわけではなく、発症リスクが小さいだけですので同様に注意は必要です。また一部の消化管間質腫瘍は、特定の遺伝子変異に関連しています。
例えば、KIT遺伝子やPDGFRA遺伝子の変異が消化管間質腫瘍の発生と関連性があることはすでにわかっています。性別に関しては、男女によって大きな差はほとんどありません。ここであげた要因はすべてが消化管間質腫瘍の発生に影響を与えるわけではなく、発症の具体的な原因はまだ十分にはわかっていませんので、一般的な健康管理や定期的な健康診断を行うことで、早期に症状を発見することが重要です。

消化管間質腫瘍の初期症状を教えてください。

消化管間質腫瘍の初期症状は、軽度な場合もあれば特定の場所や大きさによって異なる場合もあります。一般的な初期症状としては、吐き気・腹痛・下血・吐血・貧血などです。腹痛は、腫瘍が消化管の壁に圧迫をかけたり、神経を刺激したりすることで起こります。また、腫瘍が消化管の中で腫れ上がると、腹部に圧迫感や腫脹感が生じることもあります。
腫瘍が消化管の内側に出血を引き起こすことで起きるのが吐血や血便です。吐血や血便が頻繁に起きると貧血になりやすいです。しかし、これらの症状は、他の病気でも現れる症状ばかりで、消化管間質腫瘍特有の自覚症状は特にありません。そのため、腫瘍が大きくなってからでないと症状が出ないことが多く発見が遅れる原因となっています。

消化管間質腫瘍の原因や症状

消化管間質腫瘍の原因はなんですか?

消化管間質腫瘍は腫瘍細胞の細胞膜にあるタンパクであるKIT・PDGFRαが異常である場合に発症することがわかっています。これらのタンパクは、特定の物質の刺激を受けたときにのみに細胞の増殖を促すのが通常です。しかし、これらが異常になると、常に増殖をするため必要以上に増え続けてしまいます。その結果、腫瘍がどんどん大きくなることにつながります。

消化管間質腫瘍の症状はどのようなものですか?

消化管間質腫瘍の症状は、腫瘍の大きさや位置によって異なります。一般的に、胃がんや大腸がんに比べて症状が現れにくいという特徴があります。初期では、消化管間質腫瘍特有の症状がほとんどないか軽度の場合が多いので、病状が悪化してはじめて気づくというケースも少なくありません。腫瘍が消化管内にある場合は、腹部の痛みや不快感が現れることがあります。
腫瘍が大きくなると潰瘍が形成され、触診で腹部にしこりや腫れを感じます。腫瘍が消化管の内壁に影響を及ぼすことで起きるのが、吐血・血便・下血・慢性の消化管出血からの貧血などです。腫瘍の発生場所や発育形式によっては、飲み込みがしづらくなることも考えられます。これらの症状が消化管間質腫瘍に関連するかどうかは、検査・診断をして初めてわかりますので、早めの対応が重要です。

消化管間質腫瘍はどこに発生しますか?

消化管間質腫瘍は、消化管全体にわたって発生する可能性があります。多くは胃で発生しますが、胃壁のどの部分でも腫瘍が発生する可能性があるのです。また、小腸でも消化管間質腫瘍が発生することがあります。上部・中部・下部のいずれかの部位が特に多いということはありません。胃に比べると減りますが、大腸や直腸でも発生することがあります。
食道に関しては、まれなケースといえるでしょう。胃に最も多く見られ、ついで小腸その他の消化管になります。

消化管間質腫瘍の治療

消化管間質腫瘍はどのように治療しますか?

消化管間質腫瘍が強く疑われる腫瘍に対しては原則的に行われるのは手術治療です。一部、組織採取が難しい小さい腫瘍や無症状の場合は経過観察にて様子を見ることもあります。消化管間質腫瘍が見つかった時点で主病巣以外の場所にも転移を起こしているような場合は、化学療法を適応です。化学療法で効果が出ない場合は治療の方法を再検討し、場合によっては外科的切除を選択します。
外科治療では、部分切断がほとんどです。腫瘍の大きさによっては、腹腔鏡下手術を行うこともあります。
内科治療では薬剤投与が行われます。これまでの研究成果として、消化管間質腫瘍の成因としてc-kit遺伝子異常が発見されました。この、c-kit遺伝子からできるタンパク質が異常に生成されてしまうKITチロシンキナーゼを阻害するイマチニブが導入されたことで、非常に高い治療効果が出ています。このような治療は、ガイドラインに沿って行われます。

手術は必要ですか?

消化管間質腫瘍と診断された場合は、日本のガイドラインでは腫瘍の大きさなどに関わらず、手術による治療が勧められています。消化管間質腫瘍は、胃がんや大腸がんと比べ周囲の組織に及んだりリンパ節へ転移したりすることが少ないという特徴があります。そのため、腫瘍の切除においては、臓器の機能を温存させることを目的とした部分切除が選択されることが多いです。
また、胃や小腸の場合は、大きさが5センチメートル以下であれば腹腔鏡下手術を選択することもあります。この場合は、腫瘍の破裂が起きないようにすることが重要です。

消化管間質腫瘍は再発しますか?

手術後には、病理組織検査を行います。その結果によって、再発しやすさの判断ができますので、それに応じた対策を取ります。完全切除した後の推定再発率で消化管間質腫瘍を分類したものがリスク分類です。再発高リスクと判定された場合は、再発予防目的にイマチニブ治療を行います。
イマチニブは、慢性骨髄性白血病や消化管間質腫瘍といった特定のがんの治療に使用される薬物です。特定のがん細胞に存在する異常なシグナル経路を阻害することによってがんの成長を抑制する作用があります。これによって、がん細胞の増殖を制御します。そのため、消化管間質腫瘍の患者に対しては、がんの再発を防ぐために有効なのです。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

消化管間質腫瘍は、初期症状からの判断がしにくい病気といえます。そのため定期的な健康診断や医師の診察を受けることで、早期に異常を検知できる可能性が高めることが重要です。普段から体調を意識し、腹部に痛みを感じたり消化器系の異常出血などの症状が現れたりした場合は、早めに医師に相談しましょう。

編集部まとめ


初期症状がわかりにくい病気は少なくありません。

今回の消化管間質腫瘍に限らず、健康的な生活習慣を維持することが予防に役立ちます。バランスの取れた食事・適度な運動・禁煙といったことを意識しましょう。

また、定期的な検診も重要です。医師の指導や定められた検査・検診を受けることで、早期にリスクを評価し、必要な対策を取ることが可能です。

消化管間質腫瘍はまれながんですが、予防と早期発見が重要です。

参考文献

GIST(消化管間質腫瘍)(希少がんセンター)

GIST(消化管間質腫瘍)(国立がん研究センター)

消化管間質腫瘍(GIST)(済生会)