●写真集『虚構』のタイトルに込めた思い

お笑いコンビ・EXITの兼近大樹が先月18日に1st写真集『虚構』(ワニブックス)を発売した。地元・札幌でのオフ感満載のショットや色気を感じる肉体美など、さまざまな一面が堪能できる写真集だが、兼近が大切にしている信念が詰まった一冊でもある。兼近にインタビューし、タイトルに込めた意味や写真集にしたためた「事実は一つ。真実は人の数だけある。」という直筆メッセージに込めた思いなど話を聞いた。

EXITの兼近大樹 撮影:蔦野裕

○■目に見えているものの多くは虚構で、真実とは限らない

「虚構」は写真集のタイトルでもあり、コンセプトでもあるという。収められている写真たちは、雑誌や写真集などでイケメンたちがやっているようなカットばかり。日常を切り取ったように見えて、どれもエンターテインメントとして作られた“虚構”だと兼近は語る。虚構にこだわった写真集にしたのは、目に見えているものの多くは虚構で、真実とは限らないということを常々感じているから。芸能界に入る前から感じていたことだという。

「大人と触れ合うことが多かったので、人間の多面性をたくさん見てきました。例えば、真面目に一生懸命生きているおじさんが、裏ではスケベなことをしているというのもある。そういった二面性や多面性を目にすることが多かったので、そう感じるようになりました」

多面性を知ったからこそ、一面だけを見て判断するのではなく、その奥を見ることを大切に。

「例えば子供が嘘をついたとき、それはお母さんのためについた嘘という可能性もあり、嘘も多面性がある。自分のためについた嘘なのか、人を傷つけないためについた嘘や喜ばせるための嘘なのか、1つの事実だけを見ないで、その奥を見ることが大事だと感じています」

お笑いにも通じる部分があるという。

「これはボケなのか、ボケじゃないのかわからないことがあると思いますが、その人のことを知ると、冗談だとわかる。コミュニケーションをとっていくことで、嘘や虚構を見極められるようになると思います」



○■多面性に戸惑っていた時期を経て「自分はこういう人間だ」と明確に

また、兼近自身も「多面性がある」と言い、そんな自分に戸惑っていた時期があったと告白する。

「友達と一緒にいるときの自分、家にいるときの自分、働きに出たときの自分というように、いろいろな自分がいて、それが嫌な時期がありました。俺ってどういう人なんだろうと。それがすごく不安で、わかんなくなってしまった時期がありました」

自分がわからない時期を経て、19歳の頃に「自分はこういう人だ」というのが見えてきたという。

「自分の過去を振り返って、どういうことでうれしかったか、どういうことで怒っていたか、寂しさから人を傷つけていたなとか、自分のしてきたことを今の自分と紐づけ、対話をしていくことで自分はこういう人間なんだというのがまとまり、すごく楽になりました」

そのときに、自分の多面性を認めることができたそうで、「自分は『この人の前ではこういう風に演じたい』という人だとわかり、多面性が嫌にならなくなりました」と自分をしっかり受け入れられたと振り返る。

また、「自分は承認欲求のバケモノなんだ」ということもわかったという。

「そういう欲求は全くなく強い人間だと思っていたんです。でも、過去を振り返ってみると、求められたいという思いがすごく強かったなと。承認欲求の塊なのに、努力は嫌いで、その矛盾にも気づきました」

そうやって自分を理解したことで、芸人を目指すように。

「誰かに愛されたいだけなのだと気づいたので、誰かに愛してもらえる、必要とされる人間になるためにどうしたらいいんだろうと考え、面白いことをしよう、芸人になろうと思いました。愛されたい、求められたいというのは、ずっとモチベーションになっています」

●“面白くないこと”も求められたら全力で

りんたろー。とEXITを結成してから人気が爆発。多くのレギュラー番組を抱えるコンビとなったが、面白くなりたいと思って芸人になったのに、そうではないことも求められると知り、葛藤もあったと打ち明ける。

「テレビに出るようになったら、『かっこいい』と言ってもらえるようになって、そういう求められ方もするんだと。かっこいいとされてしまったら、面白くはない。そこは直結しないので。そこから、面白くないことでも求められたらやるしかないと思うようになりました」



写真集も、面白さを追求するものではない活動の一つ。

「最初の頃は面白いこと以外をやるつもりはなかったですが、違う求められ方もすると知ってから、面白いこととかっこいいことを切り分けて考えるようになりました。かっこいいのを見たい人がいるのであれば、それも全力でやろうと。写真集は、かっこいいだけをお届けするという、まさに虚構です(笑)」

○■「真実は寝ているときぐらいになるのかもしれません(笑)」

芸人として活動している中で、虚構とリアルはどう使い分けているのだろうか。

「番組によってはただかっこつけているだけのときもあるので、それは虚構です。でも、ふざけているときが真実なのかと言われたら、それもわからない。仕事として面白いことをしたいと思ってやっているので。そう考えると、真実は寝ているときぐらいになるのかもしれません(笑)。誰もが何かしらの仮面をいつもかぶっていると思いますし」



昔から真実を見抜こうと意識してきた兼近だが、芸能界に身を置いてからその大切さをより感じているという。

「何か報道が出たときに、それだけを見て叩く人がいますが、それは危ないなと。真実を知ろうとしないで、一部だけで判断する社会にどんどんなっている気がします。冗談半分で流された情報を簡単に信じてしまったり、すごく危険だなと感じているので、真実を見極める力が大事だなと思います」

芸人として活動している中でも、うわべだけで判断されることがあるという。

「ボケで言ったことを真実として捉える人もいて、俺がふざけて言ったことに傷ついてしまうことがある。その奥の真実を見てくれたらいいのにと思うことはあります」

写真集の最後のページに掲載されている、「事実は一つ。真実は人の数だけある。」という直筆メッセージには、兼近の強い思いが込められている。

●芸人を目指した頃から続けているメモ

写真集では、兼近が日常の中で感じたことを書き留めていたものも、自由律俳句として掲載されているが、芸人を目指して東京に出てきた頃から、日々感じたことを記録し続けているのだという。

「『はじめの一歩』という漫画で、24時間ずっとボクサーであることを自覚しろという言葉があるんです。強くなっている人たちはみんなそうしていると。僕はその言葉が好きで、24時間芸人だということを自覚して日々メモるようになりました。面白くなるためにやっていることで、面白い角度で物事を見て書くというのを意識しています」



○■待ち受けには直筆の言葉「24時間芸人であることを自覚する」

兼近の携帯の待ち受けには、「24時間芸人であることを自覚する」という直筆の言葉が。メモを始めた時期と同じく、芸人を目指した頃からずっと待ち受けにしているという。そして、書き続けていることは間違いなく芸人としてプラスになっていると断言する。

「もう10年ぐらいやっていますが、一般人では言えないような面白いことを言えるようになりました(笑)。面白いワードを考えたり、どこかで使えるエピソードをまとめたり、それが10年分たまっているので、間違いなく鍛えられていると思います。ご飯を食べたり遊んでいるときでも、ひらめいたことや、その場で起きた面白いことをメモっているので」

いまやお笑い芸人の枠を超えて、歌手や作家、俳優など、幅広い活躍を見せている兼近。だが、自身は「ずっと同じところにいる」と感じる瞬間があるそうで、さらなる挑戦を欲している。

「テレビにたくさん出させていただくようになって、ずっと同じところにいるなと。テレビばかりに出ていて面白い人になれるのかと思うことがあるので、新しいことを始めないダメだなと思っています。いろいろやらせてもらっていますが、まだ足りない。でも、ある程度やってしまったので、どうしようかなと(笑)。まだわかりませんが、テレビの世界だけではなく、いろいろな面白い挑戦をしていきたいと思っています」



そして、芸人として幸せを感じる瞬間は、「笑ってもらったとき」だと言い、「何か大きい成功を得たいというより、日々の活動で笑ってもらえたときに幸せを感じます」とにっこり。

さまざまなメッセージが詰まった写真集『虚構』。兼近は「めちゃくちゃ真面目な話をしちゃいました(笑)」と照れ笑いを浮かべつつ、「今の兼近の全部を詰め込んだアルバムなので大切にしてください」とファンにメッセージを送った。

■兼近大樹

1991年5月11日生まれ、北海道出身。東京NSC19期生。2017年にりんたろー。とお笑いコンビ・EXITを結成し、“渋谷系チャラ男漫才”という独自のスタイルでブレイク。2020年にファッションブランド「EXIEEE」を立ち上げ、2021年にはアーティストデビューするなど、幅広く活躍。個人では、2021年に初小説『むき出し』を刊行。2023年に『ホスト相続しちゃいました』(カンテレ・フジテレビ系)で初の地上波連ドラレギュラー出演。8月18日に1st写真集『虚構』を発売した。12月10日に東京ガーデンシアターで過去最大規模となるEXITの単独ライブ「チャランの園 1億年と2千年たっても笑わせる〜カネチ&リンと林檎かじり散らかしてアチャーな新人類創生計画ブッカマ!!〜」を開催する。