国鉄が半世紀以上前に導入したディーゼル機関車「DE10形」。寝台特急やイベント列車、お召列車やクルーズトレインまでも牽引しました。万能機の姿に迫ります。

蒸気機関車を置き換えていった

 東武鉄道が運行する「SL大樹」の客車が2023年9月23日(土・祝)、「DL大樹」として初めて野岩鉄道・会津鉄道に乗り入れ、福島県の会津若松駅まで特別運行されます。この記念すべき列車を牽引するのが、DE10形ディーゼル機関車です。同形式はこれまで寝台特急やイベント列車、お召列車やクルーズトレインまでも牽引してきました。

 とはいえ、もともとは半世紀前、ローカル線の貨物列車牽引や機関区の入れ替え用途で開発されたものです。なぜここまで長く、しかも“大出世”を遂げたのでしょうか。


わたらせ渓谷鐡道の「トロッコわたらせ渓谷」を牽引するDE10形ディーゼル機関車(安藤昌季撮影)。

 国鉄は1960年代に、蒸気機関車を淘汰する「動力近代化」を推し進めていました。1962(昭和37)年に導入されたDD51形ディーゼル機関車は、性能的には満足できるものでしたが、軸重が14〜15tと重い機関車であり、国鉄の大半を占める支線区間への入線が難しい形式でした。また車体も長すぎて、入れ換え用途にも向きませんでした。

 とはいえ、より小さなDD13形は、客車の暖房用SG(蒸気発生装置)を搭載していないため、機関車の動力に暖房を頼る当時の客車列車の運用には適さないと見なされていました。こうしたことから、2エンジン搭載のDD51形を1エンジンとして、軽量化と車体縮小を実現するとともに、3軸台車を採用し、2軸台車と組み合わせた5軸にすることで軸重の軽減も図る、新型機関車を開発することになったのです。これがDE10形ディーゼル機関車でした。

 DE10形は運転整備重量65tで、DD13形の56tより重いものの、車輪を4軸から5軸に増やしたことで、軸重は13t以下に軽減でき、さらにブレーキ力も向上しました。この結果、多くのローカル線で使われていたC11形、8620形などの蒸気機関車を置き換えることが可能となったのです。

JR化後、全社が保有したことがある

 DE10形は1966(昭和41)年に登場しました。旅客列車牽引用に暖房用SGを搭載した0番台、貨物列車用に暖房用SGは非搭載の500番台、入れ換え専用で、重量列車に対応した900番台、機関出力を強化した1000番台、1000番台をベースに暖房用SGを非搭載とした1500番台が開発され、1978(昭和53年)までの12年間で、計708両も製造されました。


豪華寝台車「夢空間」を牽引するDE10形(安藤昌季撮影)。

 当初は支線区間の旅客・貨物列車の牽引や、入れ換え用途に使われましたが、使い勝手の良さから寝台特急「あかつき」「日本海」「つるぎ」を一部区間で牽引するなど、特急列車の牽引機としても使われるようになります。1972(昭和47)年には、1124号機がお召列車の本務機も務めています。

 しかし、国鉄時代の旅客列車の気動車化と、貨物列車の大幅減少により、DE10型には大量に余剰が発生し、1987(昭和62)年の国鉄分割民営化でJRに引き継がれたのは、708両中308両のみでした。とはいえ使い勝手の良さは認められており、旅客6社+貨物のJR全7社が、DE10形を保有していた時期もあります。

 ちなみに国鉄改革の時期は、12系や14系客車を改造したジョイフルトレインが登場したこともあり、DE10形は「何でも牽引する」機関車でもありました。ではJRに継承された後、旅客6社でどのように使われたか見ていきます。

 JR北海道では、かつては急行「天北」、現在では「ノロッコ」号の牽引機として活躍しています。

 JR東日本では、観光列車「ノスタルジックビュートレイン」、重連での寝台特急「あけぼの」や、各種ジョイフルトレインなどを牽引し、現在ではSL列車の入れ換え用としても活躍しています。なお1705号機はSLに合わせて、ぶどう色2号で塗装されています。

 JR東海では、名古屋車両区や静岡県内各駅の入れ換え用として使われました。

各地の私鉄も保有

 JR西日本では、観光列車「奥出雲おろち」「きのくにシーサイド」に専用塗装で使われたほか、「SLやまぐち」の代走である「DLやまぐち」として重連運転したこともあります。

 JR四国では、50系客車を用いた旅客列車や、ジョイフルトレイン「アイランドエクスプレス四国」の専用機としても活躍しました。


東武鉄道「DL大樹」の先頭に立つDE10形(安藤昌季撮影)。

 JR九州では、電車特急「有明」の非電化区間乗り入れ用として、国鉄特急色に塗り替えられて485系電車を牽引したり、ジョイフルトレイン「パノラマライナーサザンクロス」を牽引したりしました。変わったところでは、日本にやってきた欧州の豪華列車「オリエント急行」の入れ換えや、クルーズトレイン「ななつ星 in 九州」の牽引も一部担当しています。

 なお、DE10の活躍場所はJRに留まりません。各地の臨海鉄道で貨物列車を牽引しているほか、旅客列車に限定しても、真岡鐡道「SLもおか」、わたらせ渓谷鐡道「トロッコわたらせ渓谷」、嵯峨野観光鉄道のトロッコ列車などで現役です。東武鉄道では、「SL大樹」の後部補機や「DL大樹」(1109号機は寝台特急「北斗星」色)で使われています。