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 クラフトビールはもはや酒好きだけのものではない。小うるさい蘊蓄はひとまず脇に置いて、エチケットの可愛さで選んだり、スイーツと合わせたり。作り手が思いを込めたビールがこれだけ豊富に揃う時代、気負わずに選んでも必ず好みの1杯は見つかるはず。

コンビニみたいに毎日寄りたい

 かつては“地ビール”と呼ばれ、各エリアの特産品のような扱いだったクラフトビール。しかしそんなイメージも今や昔。コンビニで飲み物を買う感覚で、クラフトビールをよりラフに楽しむ人々が増えている。

 そんなコンビニ感覚で毎日寄りたくなるおすすめの3店舗をご紹介します。

東京・三宮橋『寄』:ファッションを起点に作り上げた食とカルチャーの寄合所

1100種類以上のクラフトビールや、ナチュラルワインも豊富に取り揃える。角打ちスタイルの立ち飲み居酒屋をモダンに仕上げたような内装も、『Graphpaper』を運営する『alpha co.ltd』が担当した

 ファッション、食、音楽、アートなど、さまざまなカルチャー好きが一緒くたにクラフトビールと食事を楽しむ巨大なコの字カウンター。手前にはレコードやアートブックなどのカルチャーショップがあり、奥のギャラリーでは写真などの展示が行われる。

インパクトのある暖簾や看板ロゴ、スタッフTシャツのイラストは、和楽器集団『切腹ピストルズ』の隊長・飯田団紅氏に依頼

『寄(よせ)』があるのは、ファッションブランド『Graphpaper』東京初の旗艦店の1階。五感に訴えかけるアイテムをその名の通り“寄”せ集めたのだと代表の南貴之さんは話す。

2階には『Graphpaper』のフラッグシップショップとフレグランスショップ『FRAMA』があり、館全体で様々なカルチャーに触れられる構造になっている

「これまで洋服づくりを通して、“視覚”と“触覚”へアプローチしてきました。そこに加えて食事とお酒で“味覚”と“嗅覚”を、音楽で“聴覚”を同時に刺激できる場所を作れたら面白いなと思ったんです。それぞれ僕が好きなものをミックスして、ファッションに限らず色々なバックグラウンドを持つ人が集まる、“寄り合い”のようになったらいいなと」

 以前から付き合いのあった『Hobo Brewing』と共同制作したオリジナルクラフトビールは、苦味がしっかりとしたグラッシーな味わい。クラフトビールはタップで3種類のほか、缶で100種類以上用意している。

右:京都四条大宮のとあるお店のメニュー提供で実現した「温からし豆腐」(750円)は、辛子がオリジナルビールの苦味とマッチする。左:「京都suba ホルモン油かすと九条ネギのお蕎麦(寄限定)」1430円。出汁とホルモンのパンチのある旨味に、九条ネギが爽やかな風味をくれる

店内で使用している器は素地の形に焦点を当てた九谷焼「NOVEN」シリーズ [食楽web]

 フードはオリジナルメニューに加え、全国から南さんが美味しいお店をセレクト。オープン時から人気メニューとなっているのが、京都の人気蕎麦店『suba』監修の「京都suba ホルモン油かすと九条ネギのお蕎麦(寄限定)」。ファッションを起点に繋がりを広げる『寄』の動きに今後も注目したい。

●SHOP INFO

名寄(よせ)

住:東京都渋谷区代々木3-38-10 1F
TEL:03-6381-6131
営:11:30~23:00(平日の15:00~17:00はフードのオーダー不可)
休:水曜
予算:1000円~
個室:なし カード:可

東京・神楽坂『SHOPPE(ショップ)』:ローカルが立ち寄るコンビニで日本生まれの食と酒を体験

元々住居だった古民家を改装した『SHOPPE』。2階は、『TAILAND』が運営するシェアハウス『SHAREyamabukicho』

 神楽坂エリアのハブとなるスポットが、この春新たに誕生した。『SHOPPE』はオープンからわずか3カ月にも関わらず、すでに地元の人々から愛されている。率いるのは神楽坂にシェアハウス『SHAREtenjincho』や人気ピザスタンド『CRAZYPIZZA at SQARE』を展開する、建築家クマタイチさん主宰の『TAILAND』だ。

見た目にも可愛いレモンオイルサーディン缶は、福岡を拠点とする「ALL YOU CAN EATPRESS」によるセレクト。もちろんテイクアウトも可能

 コンビニエンスストアを名乗る『SHOPPE』には、全国津々浦々のクラフトビールやナチュラルワイン、さらにソーセージを始めとするつまみが集結。クラフトビールのセレクトを担当している新田悠子さんは、『ランドスケーププロダクツ』の食品部門出身で、全国の手仕事に触れてきた経験を活かし、作り手の顔が見えるような暖かみのある接客で商品を販売している。店頭に並ぶ食品のほとんどは添加物不使用で、毎日食べてもヘルシーなものが中心だ。

沖縄『TESIO』のソーセージはモッツァレラを練り込んだモッツァレラヴルストやピスタチオのハムなど様々に用意

 香川県 OHLAYがつくる、軽くてシャープな口当たりのピルスナー「korero」を外のテラス席で。つまみに選んだのは、沖縄の加工肉専門店『TESIO』のソーセージ。ドイツラガー・ヘレススタイルの京都醸造「新天地」のクリーンな味わいと飲み比べながら、遠い日本の土地に思いを馳せる。『SHOPPE』はそんな経験が気軽にできる場所だ。

●SHOP INFO

SHOPPE(ショップ)

住:東京都新宿区山吹町345-6 SHAREyamabukicho 1F
TEL:080-3700-3448
営:15:00~22:00(土・日・祝は12:00~19:00)
休:火・水曜
予算:1000円~
個室:なし カード:可

東京・門前仲町『vivo daily stand』:2種のタップと20種のデリ通って楽しむデイリースタンド

隣の人との会話を肴に、クラフトビールを一杯。1人客が多いのも特徴だが、多くの人は「また!」と挨拶を交わして店を後にする

 赤提灯をはじめ多くの居酒屋が立ち並び、下町情緒が残る門前仲町に毎日通いたくなるスタンドがある。“街のサードプレイス”として東京23区内に店舗を展開する『vivo daily stand(ビーボデイリースタンド)』の門前仲町店は、常時2種類のタップで飲めるクラフトビールと、週替わりで提供される。

 20種類以上のフレンチデリメニューが特徴。ビール以外の選択肢も豊富だ。気分やシチュエーションに合わせてお酒とつまみを選べる使い勝手の良さから、宵の口に0次会で訪れ、日付が変わるころに締めの1杯を求めて1日に2度訪れるお客さんもいるんだとか。「食事はもちろん店主や他のお客さんとの会話も楽しくて、つい立ち寄ってしまいます」と、取材で訪れた日も早い時間から大盛況。

気分に合わせたデリとビールで乾杯。1杯から気軽に立ち寄れる

 夏野菜とオレガノがフレッシュな「冷製ラタトゥイユ」を、「キリン スプリングバレー サマークラフトエール<香>」の酸味で爽快に流し込めば、蒸し暑い1日で疲れた心が柔らかくほどけていく。デリは全て495円と、ワンコインで楽しめるので2品、3品と欲張って注文したくなる。

一番人気は「牛ひき肉とマッシュポテトのオーブン焼き」495円。スパイシーな牛ひき肉が中に詰まっていて食べ応え抜群

 デリはセントラルキッチンで作られたものが各店舗に配送されており、「どの店舗でも同じ美味しさが味わえる」からこそ、お酒と会話に集中できる。下町で飲み慣れたご年配からオフィス帰りの若者まで、老若男女がひしめき合う一体感をぜひ味わってほしい。

●SHOP INFO

住:東京都江東区門前仲町1-13-7 ABOGAビル 1F
TEL:03-5809-9880
営:11:00~翌2:00
休:月曜
予算:1000円~
個室:なし カード:可
※時期によってクラフトビールは替わります。

(撮影◎黒坂明美、文◎川端うの[FIUME inc.]、構成◎岩谷 大)