Twitterは2022年10月27日に、テスラやSpaceXのCEOを務めるイーロン・マスク氏によって買収され、名前も「X」と改められた上、これまでのシステムが大きく変更されるなどして混乱が続いています。The Wall Street Journalに、9月12日に出版されるウォルター・アイザックソン氏によるマスク氏の伝記「Elon Musk」の一部分が掲載されており、Twitter買収を表明する経緯が記されています。

The Real Story of Elon Musk’s Twitter Takeover - WSJ

https://www.wsj.com/tech/elon-musk-twitter-x-takeover-walter-isaacson-5f553fa

1999年、マスク氏はX.comという会社を立ち上げました。X.comは個人間の金融取引とソーシャルネットワークをすべてまとめたスーパーアプリを開発しようと考えていました。その後、2000年に決済サービスのPayPalと合併した時、マスク氏は「X.com」という社名を残すように主張しましたが、受け入れられなかったとのこと。PayPalはすでに信頼性のあるブランドになっていたのに対して、X.comという名前はポルノサイトを思わせるような社名だというのが理由でした。

この対立をきっかけにマスク氏はPayPalから追放されましたが、マスク氏は「ニッチなプレイヤーになりたいだけならPayPalで十分だが、世界の金融システムを飲み込みたいのであればX.comの方がいい」と述べていたそうです。

PayPalから追放されて22年後の2022年4月、テスラの2022年第1四半期(1月〜3月)の収益は187億5600万ドル(約2兆4000万円)に達し、過去最高益(当時)を記録しました。

テスラの2022年第1四半期収益は約2兆4000億円、販売台数は30万台超で前年同期比67%増 - GIGAZINE



同時期のSpaceXも業績は好調で、衛星インターネット事業であるStarlinkの加入者も50万人を突破。マスク氏はストックオプションを行使して100億ドル(約1兆4000億円)の現金を用意していました。同時に、2022年1月頃からマスク氏は内密に個人のビジネスマネージャーにTwitterの株を買い始めるように伝えていたとのこと。

アイザックソン氏は「マスク氏がTwitterを強引に買収して『X』という社名に変えたのは、マスク氏がTwitterを衝動的かつ不遜に運営する前触れでした。マスク氏にとって、Twitterは病みつきになるほどの遊び場なのです。Twitterは嘲笑やいじめなど、学校の校庭のような側面もありますが、賢い子どもたちがフォロワーを得ます。子どもの頃のマスク氏のように、階段から突き落とされたりたたかれたりしません。Twitterを所有すれば、マスク氏は校庭の王様になれるのです」と記しています。



by Alpha Photo

また、アイザックソン氏は、マスク氏がTwitterで思想の偏りについて気にするきっかけになった出来事を紹介しています。マスク氏には当時16歳になる長男がいたそうですが、ある日長男はマスク氏の兄の妻に「自分はトランスジェンダーで、女性として生きていくことにした」とカミングアウトしたそうです。さらに、その後長男は熱心なマルクス主義者になったとのこと。このことに大きなショックを覚えたマスク氏は「長男はロサンゼルスの進学校で思想を植え付けられた」と考えるようになり、そのことから「Twitterも同じように偏った思想が根付いている」と感じるようになったとアイザックソン氏は述べています。

マスク氏がTwitterの株を買っていることが公になった夜、マスク氏はTwitterの創設者であるジャック・ドーシー氏の後任としてCEOに就任したパラグ・アグラワル氏に電話をし、2022年3月31日にTwitterのブレット・テイラー取締役兼会長を交えて3人で夕食をとったそうです。

マスク氏はアグラワル氏を「本当にいい人だった」と評価したそうですが、マスク氏はCEOに必要な特性はいい人であることではなく、経営者は好かれることを目指すべきではないと主張していました。アイザックソン氏は、マスク氏がアグラワル氏を人物として好評価を下していても、経営者としては評価していなかった可能性があるとしています。

アグラワル氏やテイラー会長と夕食を共にした時点では、マスク氏はTwitterを買収しようとはしていなかったとのこと。アグラワル氏はマスク氏をTwitterの役員として招き、マスク氏はこれを承諾しました。

その後、マスク氏は親友でPayPalの共同創業者でもあったルーク・ノセック氏とケン・ハワリー氏に対し、「GitHubにオープンソースのアルゴリズムを公開する」「Twitterの認証マークに月2ドル(約280円)などの少額を請求し、ユーザーのクレジットカードを取得することでボットを排除しつつ新たな収入源を得る」というアイデアを披露し、TwitterをかつてX.comで描いていたような決済プラットフォームを含めたソーシャルプラットフォームにする目標を明らかにしたそうです。



by NASA HQ PHOTO

その次の日、マスク氏は弟でレストラン経営者のキンバル・マスク氏とランチをとった時の会話から、「仮想通貨のDogecoinを使った決済システムをTwitterに組込んだ、ブロックチェーンのソーシャルメディアプラットフォーム」というアイデアを思いついたとのこと。しかし、その日の午後には個人のビジネスマネージャーに、「Twitterにはすでにユーザーがいる。X.comを改めて立ち上げるにはそのブースターが必要だ。これは現実だ。わずか9%の株主が会社を立て直す方法はない」というメールを送っていたそうです。

その後、マスク氏はOracleのラリー・エリソン会長が所有するハワイの島に4日間のバカンスに出かけましたが、そのバカンスはすべて「Twitterを今後どうするべきか」を考えるのに費やされたそうです。

ハワイでTwitterについて考えていたマスク氏は、Twitterの取締役員になったところでTwitterを修正することもX.comにすることもできないことに気付き、以下の「フォロワー数トップのアカウントがほとんどツイートしておらず、コンテンツもめったに投稿していません。Twitterは死にかけているのでしょうか?」というツイートを投稿しました。



このツイートを投稿してから約90分後、アグラワル氏はマスク氏に「『Twitterは死にかけているのでしょうか?』とツイートするのは自由ですが、そんなツイートが現在の状況でTwitterをより良くするためにはならないことを伝えるのが私の責任です」というメールを送ったとのこと。もちろんこれは控えめな表現で、マスク氏にはTwitterを悪く言う権利はないということを注意するものでした。

マスク氏はアグラワル氏のメールに対して「じゃあ今週は何をやったんだ?」と返信。さらに「取締役会には参加しない。時間の無駄だ。Twitterを非公開企業にすることを提案します」というメールを追送し、取締役を辞退しました。

このメールにアグラワル氏はショックを受けたそうで、「話し合えないか?」とマスク氏に連絡。その後3分もしないうちに、テイラー会長がマスク氏に「文脈を理解するために5分の時間をください」とメールを送りました。しかし、マスク氏は「アグラワル氏と話し合ってTwitterを修正してもうまくいかない。抜本的な対策が必要だ」と回答します。



マスク氏が突然Twitterの取締役会に反旗を翻した理由について、アイザックソン氏は「私は取締役会の一員になって、ある種の理屈屋になりたくないと思ったのです」というマスク氏の証言を紹介しながら、同時に「マスク氏は躁(そう)状態で、衝動的に行動していました」と述べています。

ハワイから帰ってきたあと、自分の子どもを両親と祖父母に会わせるために、マスク氏はカナダのバンクーバーへ向かったとのこと。マスク氏のパートナーで、バンクーバーで行動を共にしたグライムスことクレア・ブーシェイ氏は「マスク氏がストレスモードにあることがわかりました」と述べています。

マスク氏はブーシェイ氏とホテルに戻り、朝5時半まで寝ずに「エルデンリング」をプレイしていたそうですが、その裏ではテイラー会長に「数日間熟考した結果、Twitterを非公開企業にするべきだと決めた」というメールを送っていたとのこと。

そして、2023年4月14日にマスク氏は「提案書を作成した」とツイート。



当時すでに9.2%の株式を取得していたマスク氏は、残りの91.8%を430億ドル(約5兆4000億円)で取得し、Twitterを買収する意思を明らかにしました。こうして、マスク氏はTwitterに向けて突き進んでいったというわけです。

イーロン・マスクが5兆円超でTwitterの買収を提案、言論の自由のために株式を非公開化か - GIGAZINE