日本の美食を支える「やま幸」の社長が描く“麻布十番の未来図”
“日本一のマグロ仲卸”と称される「やま幸」を率いる、社長・山口幸隆氏。
麻布十番に5軒の飲食店を展開し、外食もこの街が多いのだとか。
日本の美食を支える魚のプロが描く、“十番の未来図”とは?
大人の居住者の多い街は、食への関心が高い
「今は自分の店を7店舗持つのが目標。近場で展開すると見て回りやすいし、引退後は麻布十番で、曜日ごとにジャンルの異なる“美食”にありつけるっていうのもいいじゃないですか(笑)」
麻布十番と山口幸隆氏の縁は、実に30年以上に及ぶという。
商店街にはいまだに古い町並みや老舗が残っていますよね。あと、大人の居住者が多いという点も、この土地に惹かれた理由のひとつです」
「やま幸」グループとして飲食店を展開する前の2009年に『尾崎幸隆』をオープンすると、一層、この街の客層が自身の店づくりにリンクすると感じた。
「年齢層がちょうどよかった。多くが我々団塊の世代。もちろん30代から住む方もいますけど、十番や六本木ヒルズの居住者って、経済的にも生活にも余裕ができて、食への興味が増す年代というのでしょうか。そういう方が住む街。
ある程度お金を持つと、服とか車とか時計、そういうものを買っていくけど、最終的になかなか手に入らないものは実は「食」。みんな「食」で知らないことがたくさんあるようで、入りが難しいみたいです」
年間300日は外食し、マグロに関しては毎日食べ、鮨をはじめ「食」へのこだわりが深い山口氏。
有名アーティストやアスリート、経営者など、いわゆる成功した人たちが「『食』を教えてほしい」と麻布十番に集まってくる。
山口氏自身も、本物の味や食文化を知ってほしい気持ちが人一倍強い。
「この間、『すし匠』の中澤(圭二)さんとお会いした時、流行でものを食べる日本人が増えたみたいな話になったんですよ。逆に外国のお客さんが、お茶から器まで勉強して凄く一生懸命食べに来てくれると。
僕はやっぱり失われてきているのは、そういうところかなと思っていて、本物を提供することでより食文化に興味を持ってほしい。そんな思いで店をつくったりご飯を食べたりしているんですよね」
短パンで来られるような、気軽な居酒屋をつくりたい
プラチナシートと言える『HIBACHI』に始まり、現在は予約が取りやすい店が増えてきた「やま幸」グループ。
山口氏が今考えているのは、さらに気軽な店舗をつくることだ。
「とにかく居酒屋をやりたい。魚が凄く高騰して、本当に美味しい魚を気軽に食べられる環境がなかなかないですから。
我々が小さい頃に食べていた大きな切り身の煮付けや焼き魚が、魚が高くなることによって刺身になっていった。昔の魚料理をとり戻し、キンメやノドグロを大きな煮付けで出すような居酒屋をつくりたいです。
ドレスコードは短パンやジーパン。ネクタイは禁止とかね(笑)。それくらい気軽に食べにいけるお店をつくって、次の世代に先人が作った本当の味を伝えられたら。
家賃の制限がなければ、やっぱり十番に出すのが理想です」
次の世代に本物の味を伝えるのが、魚屋の使命
今年60歳を迎えた山口氏のこれからのテーマは、「日本の食文化の継承」。
若い人たちにも、マグロをはじめ日本の魚の品質を知ってほしいと奮闘中だ。
「僕は20歳でこの世界に入って、自分で美味しいものを食べられるようになるまで結構時間がかかったんですよ。だからまだお金を稼げない人にも、日本の魚の美味しさを知ってほしい。
日本人っていうのは、昔から“目に青葉 山ほととぎす 初鰹”と、脂があるわけではない初鰹でも、その香りの魅力を分かっていた。素晴らしい感性ですよね。
でも今は味覚が少し欧米化している。だから、本来の感性を得られるように、季節の天然の魚をなるべく安く提供する場所を増やしたいんです。
その味を知った人が仕事を一生懸命に頑張った結果、どんどん色んな職人のところにも食べに行けるようになる。そしたら職人の成長にも繋がると思うんですよね。
誇れる文化を次の世代にどうやってバトン渡ししていくか。そういう環境を作ることも、我々魚屋の大事な使命だと思っています」
山口氏にとって飲食店を手がけることは、未来の食文化への種まきでもある。並行してまぐろ仲卸として夜中1時半には起きて豊洲へ向かう。
「仕事が凄く好きで、60歳を超えてもいまだにマグロとの出合いで、“こんなマグロいるんだ!”って発見があるんですよ」と山口氏。
学び続けるプロフェッショナルのマグロ料理を多彩に味わえる十番は、それ目当てに訪れる価値がある街。
居酒屋も実現したら、大人の食育と遊びをかねる場所として、一層パワーが増しそうだ。
今秋開業の「麻布台ヒルズ」に、巨大な鮮魚店が誕生予定!
これまで業者向けの卸売りのみだった「やま幸」が、2024年1月に一般客向けの鮮魚店を開業。
「市場の魚を安く提供し、子供から大人まで“本物”に触れられる場にしたい」と山口氏。
山口氏が選んだ、麻布十番の最新“お気に入り”店がこちら!
きちんと美味しい、鮨の立ち食いが十番らしい
「鮨って本来はファストフードなので、もっと気軽に食べてほしいもの。だから、立ち食いの環境を作った秦野君の発想は面白いですよね」
70種にもおよぶ豊富なメニュー展開には脱帽
「お客さまに美味しいものを提供したいという強い気持ちが伝わってくる。結局はそんな姿勢を貫ける料理人が勝ち残るんですよね」
江戸前の伝統を守りつつ、随所にオリジナリティが
「鮨には個性があって当たり前で、逆にないとダメだと思っている。そういう意味でも薪介君の店は、振り切っていて好きだね」
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